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東方鼬紀行文  作者: 辰松
一、旅鼬
15/29

其之十五、鼬雪山にて地蔵の人生相談せし事

いと短し

 地蔵菩薩。


 仏教における信仰対象たる菩薩の一尊である。

 仏教の開祖である釈迦の入滅後五十六億七千万年間、弥勒菩薩が出現するまで無仏の世となる現世において、六道を輪廻する衆生を救う菩薩であるとされる。非常に御苦労な事である。

 中国においての地蔵菩薩は、道教の十王思想と結び付いて閻魔王と同一視され、地蔵王菩薩等と呼ばれる死人の裁定者である。その為死後の救済を願って冥界の主として信仰されている様だ。


 一方日本の場合、浄土信仰が普及した平安時代以降、地蔵に対し地獄における責め苦からの救済を求めるようになった。

 賽の河原で獄卒に責められる子供を地蔵菩薩が守る、という民間信仰もあり、子供や水子の供養でも地蔵信仰を集めた。また道祖神と習合した為、現在では日本全国の路傍で石像が祀られている。




 さてこれより記すのは、人の通らぬ山中にて一人煩悶する地蔵菩薩との出会いの話である。




◇◆◇◆◇




「―――雪やこんこ、霰やこんこ―――」


 十五世紀頃、とある東北の山中。


 しんしんと降りしきる雪の中、一人の少年が歌を口ずさみながら山道を進んでいた。


「―――降っても降っても、まだ降り止まぬ―――」


 年の頃は見た目十七八、雪山を一人旅するには余り似つかわしくない年齢。藁沓わらぐつを履いた足で雪を踏み締め、他には誰も通らない道を歩いている。

 ざくざくと雪を踏む音と共に、彼の行く後にただ一列の足跡が残されてゆく。


「―――犬は喜び、庭駆け回り―――」


 彼は人間ではない。それは一目で分かる事。この国の者にはまず有り得ない赤茶けた髪、ぴくぴくと寒そうに震える獣の丸耳、身の丈程もありそうな長く太い尾。そして酷く悪い目付き―――否、これは関係無い。


「―――猫は炬燵で、丸くなる……っとぉ」


 ―――さて御機嫌よう読者諸兄、その少年は皆々御存知、俺こと八切七一である。


 平安京を離れて数百余年、この国を徒歩でうろつき回る俺は、現在三十年程滞在していた蝦夷地から本州に戻り、関東目指して南下している所である。季節は見ての通りの冬、そして本日は大晦日。奥羽の山は雪真っ盛りだ。

 徒歩なのはただ単に俺の趣味、歩かねば旅をした気分にならないからである。『窓』を使うのは基本的に急ぎの時だけなのだ。


「……しっかしさみいなあ」


 ふと立ち止まり大笠を揺らして頭上の重みを落とし、空を見上げてぽつりと呟く。

 重ね着で少々膨れた身体、肩に掛けた毛布の様な分厚い布、首元に巻いた獣の毛皮。自分は寒がりである為かなりの対策をしているのだが、それでもまだ身体が震える。勿論雪も寒さも能力で遮断する事は出来る。が、そんなの風情が無い。寒さに震え雪に埋もれるのも、また旅であるのだ。……とは言え。


「雪も見る分にゃ綺麗なんだが、こう山程降られるとなあ」


 歩を進める度足が沈む様な積雪では、風情等と呑気な物を感じる余裕有りはしないのだ。それでも能力を使わない辺り、俺はかなりの意地っ張りなのかも知れない。

 そんな事を考えながらまた歩き出す。


「もう幾つ寝るとお正月―――」


 正月、と言うか元旦は明日である。もう一ツ寝るとお正月。


「―――お正月には凧上げて―――ん?」


 視界にある物を留め、また立ち止まる。


「地蔵尊―――か」


 それは、所謂お地蔵様であった。お堂が無い為に半分以上雪に埋もれ、頭と肩にも雪を積もらせ一人で立っている。


「そう言やぁ、行く時にも居たっけか……」


 この道を通るのは二度目である。数十年前、蝦夷地へと向かう時にもこの道を使った。先に行くと小さな村が一ツ在って、今晩はそこで宿を借りる予定なのだ。


「……ふむ」


 石地蔵の前にしゃがみ込んで頭と肩の雪を払い落とし、にこにこと笑っている地蔵の顔を眺める。放っておけばまたすぐに埋もれてしまうだろうが……。


「まあ……善行でも積んでみようか」


 被っていた笠の紐を解き、石地蔵の頭に乗せた。擦り落ちない様に紐を締め、自分は『窓』から出した新しい笠を被る。どうせそろそろ変え時だったのだ、別段惜しくも無い。

 尚この笠は自作である。能力を付加して水を弾く様にしてあるが、それでもしばらくすれば傷んでくる為、沢山作っておいてあるのだ。ちなみにひのき製。


「さあて福運はあるかな……丁度大晦日だし」


 昔話の笠地蔵を思い出して、くつくつと笑う。あれも大晦日のお話だ……あちらは確か六地蔵だったが。


「っと……急がねえと日が暮れちまうな」


 益体の無い思考を振り払い、夜になる前に村に着かねばときびすを返して歩き出し―――


「―――待って下さい」

「!」


 背後からの声に驚き振り返る。

 先程の地蔵のすぐ傍に、一人の少女が立っていた。小柄な身体を紺色の袈裟に包み、右手には錫杖。人間らしからぬ緑色の髪の上にさっき地蔵に乗せた笠を被っている。

 ……つい一瞬前までは何の気配も感じなかった。自分の感知能力にはそれなりの自信がある。つまりこの少女は、本当に突然此処に現れたのだ。まず人間ではないだろう、さてならば何者か。

 いや―――予想は、つかないでもないのだが。


「……はてさて」


 被った笠を少し持ち上げてこちらを見上げるその少女に、俺は首を傾げて問い掛ける。


「貴方様は―――御地蔵菩薩尊様、でありましょうか?」

「ええ、そうです」


 俺の問いに対し、少女は小さく頷いて答えた。見るからに真面目そうなその少女は、口調も真面目である。

 それにしても、少女。石地蔵がそのまま動いているよりは目に良いが、地蔵菩薩までもが少女とは。ま、鬼も鵺も大妖も女な世界で今更大した違和感も無いのだが。

 ……いや待て、彼女はどちらかと言うと幼女かも知れない。背は低いし顔は幼いしそれに胸が無


「……何か失礼な事を考えていませんか?」

「滅相も御座んせん」


 危ない所だった。


「……えーそれで、地蔵菩薩尊様が何の御用で御座いましょう」

「そう堅苦しくしなくても結構ですよ。普通に話してくれて構いません」

「いやいや、神仏は敬うモノでありましょうや」


 千年以上の付き合いになる諏訪サマ神奈サマ相手にも、多少崩れているとは言え、未だ敬語で話しているのだ。神や仏と言うモノは基本的に無条件で敬うべきモノなのである。


「……貴方、妖獣ですよね?」

「鼬が仏を拝んじゃいかんと言う法はあらんせん。少なく共自分の知識の中には」

「それは……そうですね。非常に立派な心掛けです」

「御褒めに与り恐悦至極」


 大仰に言って頭を下げると、地蔵尊殿は少し困った様な顔をした。


「ですが……私(など)ただの一地蔵にしか過ぎませんから。余り大袈裟に扱われると、此方も少々困ります」

「はあ……ふむ。其処まで言うならば多少崩しましょうか」

「そうして頂ければ有難いです」


 どうでも良いが、お互い敬語の会話と言うのは中々に新鮮である。下手をすると我が人生、否鼬生で初めてでは無かろうか。


「では……まず自己紹介でも。私は四季映姫、地蔵です」

「自分は八切七一、見ての通りの鼬……て、地蔵に名前が有るので?」

「それはまあ。地蔵は沢山居ますから」


 ……それはまあ、地蔵は日本中何処にでも居るものだが。皆固有の名前が有るのだろうか。元々それぞれに名が付いている六地蔵、刺抜地蔵や子安地蔵、延命地蔵だのと言った物はどうなっているのだろう。謎である。


「で、このしがない普通の鼬に一体何用で?」

「ええ……」


 幼……少女はほんの少し迷う様な素振りを見せた後、こう言った。


「ほんの少しで良いので、話相手をしては貰えないでしょうか」




◇◆◇◆◇




「で、話とは」


 取り敢えず落ち着いて話が出来る様、積雪を退かし結界を張って雪や寒さを遮断。茣蓙と火鉢を『窓』から出して石地蔵の傍に二人座り込んだ。

 火鉢に火を入れてから、笠を下ろして興味深げに結界を見ている映姫嬢に声を掛ける。


「あ、はい。大した事では無いのですが……まずは、そう、何故石地蔵(わたし)に笠を?」

「何故っても。たまには善行を積んでみようかと」

「はあ……妖獣がですか?」

「悪いですかい。先程も言いましたが、自分は神を敬い仏を拝む鼬につき」


 意味も無く胸を張ってみる。


「まあ、良いですけれど……ともかく有難う御座います」

「あい、どうも」


 大した事をした訳では無いのだが、ちょっと欲を出してみる事にする。


「ところで、何か御利益はありますかね?」

「……利得目当てですか」

「や、別にそう言う訳でも。ただこう、頼む相手が目の前に居ると」

「はあ、そうですか……畢竟成佛とか?」

「……いや、別になりたかないんで」


 畢竟成仏とは、必ず仏になれると言う利益の事である。


「では無盗賊厄」

「盗まれる様な物無いんで」

「女転男身?」

「既に男なんで」

「菩提不退……」

「別に悟ってねえので」


 順に、盗賊による災厄に遭わない・女から男になれる・悟りの境地から後退しない利益。

 地蔵菩薩の御利益は確か二十八と七種、良くもまあこう微妙な物ばかり引っ張って来た物である。しかも真面目な顔で言っている辺り、天然なのであろうか。


「ならば端正相好」

「ちょいと待たれい、それぁ遠回しに自分が不細工だと?」

「あ、いえ……」

「あー止めてそれ止めて傷付くから」


 映姫嬢の視線の先はきっと俺の目付き。止めて見ないで困った顔しないで。彼女は誤魔化す様に一ツ咳払いした。


「ごほん……えー、図々しくも積極的に利得を求め、あまつさえ選り好みする我儘な者に授ける利益等有りません」

「……さいで」


 何故か説教されてしまった。理不尽である。


「まあ良いや……で、えーきちゃん。話はそれだけで……」

「だッ……誰がえーきちゃんですか」

「え、お嫌で?」

「嫌に決まってます!」


 はてさて呼び方をフレンドリーにすればきっと仲良くなれる……と何処かで聞いた気がするのだが。やはり友好的と言うのは難しい。


「ではえっちゃん」

「嫌です」

「えーきりん」

「嫌です」

「えーきっき」

「……凄く嫌です」


 我儘さんである。


「頼むから、普通に呼んで貰えますか?」

「なればえーきっきで」

「い―――いえ、ですから普通に」

「良いじゃあらんせんか、気にしなさんなえーきっき」

「……馬鹿にしてます? ねえ馬鹿にしてますよね」

「そう怒りなさるな。仏心を持ちましょうぞえーきっき」

「……仏の顔も三度ってことわざ、知ってますか?」

「じゃ三度で止めときますか。で映姫サマ、話はそれだけで?」

「…………」


 にこやかに言う俺をジト目で睨んでくる映姫嬢。此処でうがーと吠えたり実力行使しない辺り、彼女は今まで会った事が無いタイプの真面目さんである。


「……貴方、神仏は敬うべし等と言っていた筈ですけど。全く敬われている気がしないんですが」

「信心過ぎて極楽を通り越す、と言う言葉がありましょう。敬意は大切でも、必要以上に心酔すべきでないと、自分は考えております」

「そ―――そうですか。なら……」

「まあ方便ですがね」

「………………」


 ぺろりと舌を出す俺、無言の映姫嬢。 ……それにしても、会う人会う人まずはからかわずには居られない俺のこの性分は一体何なのだろう。病気では無かろうか。

 等と考えている内に、映姫嬢は頬を膨らしそっぽを向いてしまった。普通に可愛い。


「……もう良いです。真面目に会話してくれる気が無いなら、何処へなりと散って下さい」

「そうねなさんなえーきっ……映姫サマ」

「ッ……四度目ですよね? 仏の顔捨てても良いですよね!?」

「待って落ち着いて石地蔵(そんなモン)振り上げないで!?」


 実力行使である。遊び過ぎた様だ。


「あー、はい。悪かったです、もうふざけやしません」

「……本当に?」

「ホントホント。真面目に聞きます」

「……絶対に?」

「絶対絶対。鼬、嘘つきませぬ」

「…………良いでしょう」


 取り敢えず半涙目の映姫嬢を落ち着かせる。何だか虐めたくなる御人である。


「で結局話ってのは何なので。説法か禅問答か、世間話か人生相談か?」

「……最後のが、一番近いです」

「はい? 人生相談なので?」

「そうなります」


 至って真剣な顔で頷く映姫嬢。よもや地蔵菩薩にカウンセリングする事になるとは。普通救いを与える側だと思うのだが。


「何で自分なのです? 何も妖獣でなくたって」

「こんな所他に誰も通りませんよ。此処十数年では貴方だけです」

「……麓には村があった筈でありますが?」

「無くなりました。二十年前に飢饉で」

「そう、ですかい……」


 やれやれ、今夜は野宿になるだろうか。長く生きているとこう言う事も良く有る。人間とは全く以て脆く儚い物だ。たった数十年で消えてしまうのだから。


「……相談と言うのは、その事なのです」

「ふむ。人が通らぬ事、ですかい?」

「ええ。……私は、地蔵です。境に立ちて邪を防ぎ、行人を見守るのが役目。ですが……」

「守る物が無くなった―――と」

「はい。あの村が無くなった以上、この道を通る者は居ないでしょう……きっと、私は此処で朽ち果てる」


 そもそも地蔵菩薩とは、釈迦の入滅より弥勒菩薩が現れるまでの長きに渡り、無仏の世において衆生を救済すると言う菩薩である。それが日本においては、所謂道祖神と習合し、境の神としての性格を得るに至ったのだ。

 境の神とはつまり、村落の出入口や道路傍、峠や辻等に祭られるモノ達だ。道祖神や地蔵の他にも、塞の神や馬頭観音、柴神等を言う。境界の内側を守護し、外部への威力を持つ存在である。


「―――朽ちる事を怖れる訳ではありません。ただ、果たすべき役目を果たせず此処に立っているだけで本当に良いのか、と……」

「そんな思いに囚われている、と……ふむ」


 要するに。彼女はきっと責任感が凄まじく強いのだ。誰もに救いを与える事の出来ない場所で無為に立ち続ける事に堪えられない、仕方無しと割り切る事も出来ない不器用な人なのだろう。


「そう気に病む事も無いと思いますがね。貴方様方地蔵の任期は途轍も無く長い、人が通らぬのも所詮数百年程度でしょう」

「それは、そうですが……」

「納得出来ませんか」

「……」


 俯いて黙り込む映姫嬢。この人は多分考え過ぎなだけだと思うのだが。まあ、此処に居るのが嫌だと言うならば―――


「ならば、場所を変えては如何です」

「それは……私は、此処を守る地蔵ですし……」

「……余所に移るのもお嫌と」

「嫌、と言う訳では無いのですが……」


 煮え切らない様子の映姫嬢。この道を守ると言う役目を放棄するのにも抵抗がある、と言う事か。何と面倒な。


「……面倒な女ですみません……」

「いやそれ何か意味違うから」


 少々ずれた事を言い項垂れる映姫嬢に突っ込みを入れつつ、さて如何するかと首を傾げる。

 今の彼女は、自分がどうすべきかが分からず思考がド壷に嵌まっている。彼女一人でただ考え込むだけでは、きっと延々何時までも悩み続ける事になるだろう。此処に留まるかそれとも離れるか、それだけなのだが。


「引っ越しが駄目なら、やはり此処で人を待ちますか」

「はあ……でも」

「余所に行きますか」

「しかし、それは……」

「……一体映姫サマはどうしたいんですかい?」

「……どうしましょう」


 ええい間怠っこしい。

 右手の中指を引き絞り、映姫嬢の額を素早くびしぃと弾く。デコピンである。


「てい」

「あう!?」


 更に追撃の左右二連撃。びしびし。


「ていていっ」

「あうあうっ……な、何を」

「いーですか映姫サマ! 貴方様は少々深く考え過ぎだ!」


 突然の攻撃に、涙目で額を押さえる映姫嬢。その肩をがっしと掴んでマシンガンの如く言葉を浴びせる。


「貴方様の取る道は二ツに一ツ、此処に留まるか移るかです。いずれにも一定の理が有る以上、何方どちらを選ぶかは貴方様の好み。さあ、映姫サマはどうしたいのです?」

「え、あ、その」

「それともそうですね、転職でもしてみますか? 賽の河原に行ってみるとか水子供養取り扱ってみるとか六地蔵に混じってみるとか、後はそう、いっその事地蔵辞めてみるとか」

「い、いや、それは」

「それは流石に無理と? まあそれならそれで構やしませんが。何はともあれ最初の二択、行くか留まるかですが、この際理屈抜きで考えましょ。此方はこうだからこうだとかで無く、行きたいのか留まりたいのか」

「あの、えと……あうう」

「ほら白黒はっきりしなさい! さあ貴方様はどうしたい!」


 なるべく考える暇を与えぬ様、ずいと詰め寄り責め立てる。考え込んでしまえばまた思考が止まってしまう。どうせ理屈で考えたって答えは出ないのだから、何も考えさせず理屈ではなく感情で。結局彼女がどうしたいのか、本音を引っ張り出すのだ。


「わ、私は」

「さあ何方! さあさあさあ!」

「い―――行きたいです別の場所に」

「本当にそうしたいんですね! 後悔しませんね!」

「は、はいっ!」

「…………宜しい」


 肩に置いた手を離し、映姫嬢の頭をわしわしと撫でる。


「まあ、まずは色々と旅してみるのが良かろうですよ。うろついてりゃその内腰を落ち着けたいと思える土地が見付かりましょう」

「……はあ」


 我に返ったらしい映姫嬢は乱れた髪を直しながら溜息をつき、呆れを含んだ目で俺を見た。


「強引な人ですね、貴方は……」

「まあ良いじゃねえですか。相談したな其方そちらさんだし、それに吹っ切れたでしょ」

「それは、そうですが……いささ吃驚びっくりしました」

「貴方様の優柔不断がわりいのです。やらずに後悔よりやって後悔、決断ってな素早くきっぱりするモンです」

「……そう言う物ですか」


 映姫嬢は俺の言葉に妙に要らぬ感銘を受けたらしい。何やらうんうんと頷いている。ふと、映姫嬢が空を見上げた。


「……雪、止みましたね」

「うん? あぁ、ホントだ」


 つい先程まで視界を埋め尽くす勢いで降っていた雪がすっかり止んでいた。結界を解いて見上げると、雲の間からは晴れ間すら見えている。


「山の天気は変わりやすい、てな本当ですよねえ」

「そう、ですね……」


 一面の銀世界に一筋二筋射す陽光は、中々に荘厳かつ美しい物であった。映姫嬢は何かを考えている様な、上の空と言った顔でその景色を見ている。


「……貴方は、これから何処へ?」

「はい? ああ、そうですねえ……取り敢えずは予定通りに、麓まで降りますか。家の名残くらいは残ってるでしょうし」


 まあ、山で野宿よりは幾らかマシだろう。大差は無いが。


「その後は?」

「まあ、今まで通りこの国をうろちょろと。今の所の予定は……南へ下りてって上野こうずけのとある河川に、その後は都の方のとある山へ、って感じですねえ」

「……全国行脚でもしているのですか?」

「そんなモンですね」


 映姫嬢は、そうですか、と小さく呟くと茣蓙から出て立ち上がった。そして何かを決心した様な顔で、



「貴方について行きましょう」



 と。そう言った。


「……は?」

「私は旅なんてした事ありませんから。貴方は慣れている様ですし、しばらく同行させて下さい」

「い―――いや、ちょいと待って下せいや。ついて来るって、そんないきなり」

「決断は素早くきっぱり、なのでしょう? もうきっぱり決めましたから」

「いやいや決めましたって」

「そもそも此処を発つ決断をさせたのは貴方ですから。責任、取って下さいね」

「いやいやいや……責任、って」


 楽しそうに笑いながら言う映姫嬢に、俺は困って頭をくしゃりと掻き回す。


「自分は、妖獣ですよ?」

「貴方は大した悪さをしそうにないです。弱そうですし」

「いや、それは……」

「するのですか?」

「しませんが。人喰った事も無いです」


 人を喰った様な奴だと言われる事は良く有るが。


「割と危険な所にも行きますよ?」

「大丈夫です。私は地蔵菩薩ですから」

「……むむむ」


 まあ……別に道連れが増えるのは嫌ではない、のだが。昔紀行文に書いた云々はただのノリであるし。しかして、妖獣と地蔵が二人旅と言うのは如何な物だろう。


「……まあ、良いでしょ。其処まで言うんなら、御一緒致しましょうか」

「はい! 宜しくお願いしますね!」


 映姫嬢は嬉しそうにそう言うと、俺がやった大笠を被り雪の上に踏み出す。俺は茣蓙と火鉢を『窓』に戻し、藁沓やら防寒着やらを取り出した。


「さあ、これ着けて下せいな。雪山歩くのは大変ですよ」

「あ、有難う御座います」

「後、あの石地蔵はどうすんです?」

「それは勿論持って行きますよ、私の身体なんですから。紐か何か有りませんか?」

「……いや、背負しょってくつもりですかい?」

「ええ」


 さも当然の様に頷く映姫嬢。人外だし腕力に問題は無かろうが、んな無茶な。


「……自分は嫌ですよ、地蔵背負った奴と歩くのなんて。人里にだって立ち寄るんですから」

「そ……そうですか?」

「ほらほら、仕舞っちゃいましょうねえ」

「むう……」


 石地蔵も『窓』に放り込む。ちょっとむくれる映姫嬢。


「さあ、とっとと行きましょうや。山下る前に日が暮れちまいます」

「はいはい……」


 俺がさっさと歩き出すと、映姫嬢もついて来る。ざくざくと、さくさくと、重い音と軽い音が雪に足跡を付けてゆく。


 ―――鼬と地蔵が行く後には、来た時より増えた二列の足跡が、残されてゆくのであった。


えーきさま!えーきさま!えーきさま!えーきさまぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!

あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!えーきさまえーきさまえーきさまぁぁあわぁああああ!!!

あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん

んはぁっ!四季映姫・ヤマザナドゥたんの緑色ショートの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!

間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!

東方花映塚のえーきさまかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!

イ夢月抄出演できて良かったねえーきさま!あぁあああああ!かわいい!えーきさま!かわいい!あっああぁああ!

三月精も発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!

ぐあああああああああああ!!!コミックなんて現実じゃない!!!!あ…STGも小説もよく考えたら…

え い き さ ま は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!

そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!幻想郷ぅうううう!!

この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?pixivイラストのえーきさまが僕を見てる?

支部絵のえーきさまが僕を見てるぞ!えーきさまが僕を見てるぞ!支部絵のえーきさまが僕を見てるぞ!!

花映塚のえーきさまが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!

いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはえーきさまがいる!!やったよ小町!!ひとりでできるもん!!!

あ、コミックのえーきさまああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!

あっあんああっああんあ藍様ぁあ!!レ、レミリアー!!フランドールぅうううううう!!!椛ぃいいいい!!

ううっうぅうう!!俺の想いよえーきさまへ届け!!幻想郷のえーきさまへ届け

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