夜を歩く
夜にラーメン屋さんにいったら楽しすぎて書きました。
「カラオケ日和だ」
3時と。いつもより夜更けに外に出た。
最近、毎日夜を歩くもんだからこの夜が少し明るいことに気づく。
信号を俺と自転車と車が同時に無視した瞬間が1番面白かった。
歌いながら歩くのが1番面白かった。
なんでもできそうな、それこそライトの光すら掴めそうなのが1番面白かった。
夜は少し眠い。眠くて涙すら流す始末。
涙のせいか、街灯の光が星に見える。
こればかりは毎日眠い。けど、寝てしまうと寝てしまったと後悔してしまう気がして、眠れない。
だから、こうやって毎日歩いてるわけなんだが、今日はいつもより楽しい。
マンションを横切るのさえいつもと違った。
カーテンの音がした。閉まったか、開いたか。この時間から起きるような、カーテンを開けるようなバカはいないだろ。そんなことを考えて窓の方に正解を求めると、
「しーっ」と子供が人差し指を口に当てていた。
靴を履き、パジャマ姿で今にでも飛び降りようとしている。
「よっと」
ここが2階じゃなきゃ止めていた。
「お兄ちゃん、ちょうど良かった。私を夜を案内してよ」
ちなみにこんな妹はいない。
「なんだ。お前も今日の夜が見たいのか」
「今日は特別な夜なんだ」
妹はふわーっと、眠そうなあくびを立てる。
「妹よ。初めての夜更かしはどんな気分だ」
「まだ知らんよ。でも、真っ暗だ」
「あー、傘は持ってるか」
「なんで」
「雨が降りそうな暗さだからだよ」
この夜は暗いとは感じない。ただ、少し青みがかったものが見えて、それが雨雲だって分かった。
「最悪、お兄ちゃんのその傘貰うからいいよ」
なんて恐ろしい妹なんだろ。
You are hereと書かれた場所から市役所方面へ向かった。
ホームレスがいて、リュックが散乱していると思いきや、それはただ酔いつぶれたオッサンだった。
クリスロードを通って、夜中イチャつくカップルに遭遇。イチャつきもここまで来るとやばいな。妹には絶対見せられなかった。
「眠い」
「なら、今すぐ家に帰って寝ればいいじゃない」
「ここまで来て寝れるわけあるかよ。ラーメンを絶対食べんだよ」
「えぇ、私ラーメンに連れてかれようとしてたの。金なんてないよ」
「奢りだよ」
ここまで来て、本当に多くのトラックを見た。ていうか、少し大人な雰囲気の道を通っているんだが、この時間から準備してる店ってちょくちょく見るとあるんだな。
バーミヤンなんて今ライト付いた。
「しゅっ!」
この時間だ。寒かろう。
「夏のくせに寒いなんて情けない」
「てか、遠くね」
「こんなんで遠いなんて言ってちゃ将来が不安だな。安心しろ、もう少しだ」
ここまで来るとガラの悪いやつが壁に寄りかかってたりする。
タバコ臭かったり、酒グルイ共のコール声がしたり、とにかく騒がしい。
けど、ここは人が多くて妙に落ち着く。
暖かい光が見えてきて、いくつかのランタンを通り抜ける。
小道を出るとそこは意外にもラーメン街。
左右にラーメン屋が並ぶ。
カラスがクソしながら飛ぶもんだから、臭くなりそうと思ったら意外と匂いとかしないのな。
行かなかったけど、ピンク色の光のエロチックなラーメン屋に2人のおっさんが
「おっパブみたい」とか豪語しながら入っていくのが見えた。
「おっ?」
「妹よ、覚えなくていいからな」
「変態」
なんで俺が怒られなきゃいけないんだ。てか、知ってたのかよ。
「とにかくよ。ラーメンはバリカタ、味噌ラーメン一択。モチのロン水餃子付き」
と意気揚々に頼んでみたら、
「ハリガネってなんだ」
これ以上硬いのあるんか。
「知らなかったの?」
おっと、ニワカがバレる……。
どうにか誤魔化さねば。
「妹よ。あの言葉を見ろ」
そこにはバリカタに1番人気の文字が書かれていた。
バリカタが一番人気。それはこれを食べたらわかる。
「んんあ。麺が細麺だからかな。1番ちょうどいい気がしなくもない。味噌ラーメンなんて初めて食べた」
「そうだろ。ところで妹はチャーシュー丼小盛でよかったのか?」
「ん。てかね。普通この時間ってお腹空かないものなんだよ」
「普通なんてこの場にないよ」
普通なんて言葉、1番似合わない。皆がラーメンを啜り、餃子を食べてニンニクを入れて、そこには女男、おじいちゃんおばあちゃん関係ない。
ラーメンが8割進んでからようやく水餃子があることに気づき、手を出した。
1個食べ2個食べ同じことが起きる。
「また落ちちまった」
俺には餃子水餃子を食べる時、タレにひたすクセがある。その食べ方だと餃子にのっていたネギが落ちてしまう。
それを見兼ねてか、雰囲気にお腹を減らされたかようわからんが、妹はそれをつまみ出した。
「なんだよ、お腹すいてるのかよ」
「もったいないだけだし」
そう言いながら、俺の水餃子も1個取っていった。
全部平らげ、勘定を済ませ家に帰る途中、妹がよろけ出した。
「さすがに眠くなってきた。おんぶして」
今日初めて出会って夜をエスコートして、ご飯を奢り、良いことばかりしてきたが、さすがにここまで無防備なのも如何かと思う。
「信用しすぎだし」
「妹だもん」
その言葉に少し鼻がこそばゆくなった。
そうだ。今夜だけはこいつは俺の妹なんだ。
「ゆっくり寝な。ハッピーバースデー、妹」
俺だけしか見れない景色。
店初めの準備、朝の工事片付け、何よりこの綺麗な朝日が見たかった。なんでもない。建物から溢れ出る光だけでもその価値を感じさせる。
妹が寝てくれて助かった。
雨なんて全く降らないじゃねーか。
俺もまた3ヶ月ほどしか夜を歩いてない夜のニワカ。
そして、明日もきっと。夜を歩く。