見てはいけない3
ネペンテス帝国もオスティアン王国と同じく五千ほどの兵に見えた。
だが、オスティアン王国とはネペンテス帝国は違い、その先頭には黒に金の装飾が施された鎧を纏った帝国の第二皇子が騎乗していた。
「一年もの膠着状態、この私が打開する!突撃!!」
第二皇子のカリスマ性がもたらす士気の高さから、ネペンテスの突撃は正に雪崩のようおしかけてかた。
カチカチカチカチカチカチ
最初、自分の口から出ている歯の音だとは思わずパトリックは歯を鳴らしていた。
「行くぞ!パトリック!足を動かさねば死ねぞ!」
先輩兵士が、なにかを言っている。
足?
足を動かせば死なないのか?
「あぁぁぁぁぁ!!!!」
パトリックは、言葉にならない声を上げて槍を前に突き出し突撃する。
死にたくない死にたくない死にたくない、そう思いながら前進してきたが、もう少しで敵に槍がそして敵の槍が間合いに入ろうとしていた所、急にネペンテス側の兵が立ち止まった。
そして、オスティアン側も止まっていた。
パトリックは訳もわからず周りをキョロキョロと見ていた。
すると、両軍の真ん中に小さな子供が居るのを見つけた。
(なんだ、あの子供は?)
もっとじっくりと見ようと目を凝らしていた所、先輩兵士に目を塞がれてしまった。
「バカ!おまえ、昨日の冊子を忘れたか!あれが例のやつだ!」
「え、先輩。あれ……なんですか?」
「おまえは、なにも感じないかもしれないがおれのスキル直感がガンガンに警報をならしてやがる!絶対に見るな!!」
パトリックが困惑しているとネペンテス側から声が聞こえてきた。
「なにをしている!子供なぞ踏み潰せ!!」
第二皇子だ。
「で、殿下。なりません、あれに手を出せばただではすみませぬ」
ザシュ!
「で、殿下……」
パトリックは目を疑った、帝国の第二皇子が味方を斬ったからだ。
「ふん!腰抜けはいらん!誰ぞ、そこの子供を切り捨てい!!」
ネペンテス兵にもマニュアルがあって注意喚起されていたのか、誰も子供に斬りかかろうとはしなかった。
(誰だって子供は切りたくないよな……)
パトリックは、そう思ったが先輩兵士は違った。
あんな化け物に手を出そうなんてどうかしている!
あれは子供の形をしているがなにかだ!
誰も斬りかからないのを見て、痺れを切らした第二皇子は子供の前まで乗馬しながら近づいていく。
「なんと、情けない奴らだ!見ておれすぐに首を刎ねてやる!」
そう言うと、第二皇子は片手剣を振りかざし子供に向けて振り下ろした。
ザシュ!
しかし、子供はなにもされていなかったように地面に座り込んだままだった。
「な!なぜ、死なない!?」
第二皇子は、2回3回と切りつけるが子供は無反応だった。
「パトリック、今のうちに後方へ下がろう……」
「は、はい。先輩……」
パトリックと先輩兵士は、部隊の仲間たちにも声をかけながら後退していった。