見てはいけない1
50名ほどの平民で構成された兵士部隊が行軍していた。
戦争なんざ、クソ喰らえだ。
パトリックは、心の中でそう毒付いてた。
だが、彼が生まれ育ったオスティアン王国とネペンテス帝国との間に戦争が始まってしまった。
そうなると、兵士としてメシを食ってきたパトリックとしては戦争に行かざるを得なかった。
自分は、まだ22だ。戦争なんかで死ぬのはまっぴらゴメンだ。
そう、心の中で愚痴りながらパトリックは、戦場となる国境付近まで行軍をしていた。
「おいおい、なに暗い顔してるんだ?」
パトリックが重い足取りで行軍しているとこの部隊を率いている先輩兵士から声がかかってきた。
「……先輩は怖くないんですか?これから死ぬかもしれないと言うのに」
「おまえ、そんなことで悩んでいたのか。ダメだねぇ、戦神様の身許にすぐ招かれちまうぜ、そんな考えだと」
先輩兵士は軽く言う。
それがパトリックには少し気に障った。
「だって先輩!おれは魔法も使えないし、この槍で突撃するだけだ!すぐ死んじまいますよ!!」
「……普通の戦場なら、おまえの言う通りかもしれねぇ……。だが、おれたちが今向かっているアスタリア平原なら、ちょっと事情が変わってくるかもしれねぇ……」
「……どういう意味ですか?」
先輩兵士は、パトリックの肩に腕を回し耳元に小声で話しかけた。
「……聞いた話しなんだが、かれこれ一年も睨み合ったままなんだってよ、両軍とも。しかも、両軍共に損耗率が極端に低い。」
「それがどうしたんですか?」
「バカ、おまえ。普通なら一年も睨み合いになるもんか!」
たしかにそうだとパトリックは思ったがその理由までは察せないでいた。
「なにかあるぜ、これにはよ」
そう言いながら先輩兵士はパトリックの肩に回していた腕を解いた。
パトリックは、怪訝な顔で先輩兵士を見つめたが先輩兵士はそれからなにも喋らなくなった。
着くな……着くな……着くな……
そう思いながらパトリックは行軍していたが、ついに戦場となるアスタリア平原に夜には着いてしまった。
オスティアン兵は5千名ほどであろうか。思い思いに食事を取っている。
「貴様らが補充兵か?」
パトリックが夜営の準備をしていると、先輩兵士とパトリックに声をかけてきた人物がいる。
「はっ!ニビル地方からやってまいりました!」
先輩兵士は、見逃さなかったんだろう。声をかけてきた人物の襟章には貴族の爵位を示すものがあったのを。だから、敬語で返して敬礼までしている。
パトリックにはお貴族様だとは分かったが、爵位までは分からなかった。
「そうか、よく来てくれた。これをよく読んでおけ」
そうお貴族様は、薄い冊子を手渡してきた。
「少しでも生きていたいなら、他のものにも渡して読ませておけ。それといいか、くれぐれも最後のページにあることは守れ。」
そう言うと、お貴族様は踵を返し闇夜の中を歩いていった。
最後のページ?
なんのことか分からないが先輩兵士と共に最後のページを開いた。
特記事項 存在Aに対しての対処法
その1 見てはいけない