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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

蘇りし地球

作者: レチー茶

食糧を探し求め歩き回る。荒廃した世界をひたすらに。


少し昔までは文明が発達していたというのに。しかし核戦争や人工ウイルスにより、人口は大幅に激減し、今では人を見かけることは極希である。


文明が発達すればするほど、たった1人の悪意に全人類は滅ぶ程の技術を備え持ってしまう。


そうなればどうだ。結果この有様だ。この世界はウイルスが蔓延している。2XXX年、あるウイルスが蔓延した。その名はムーン、月のような見た目とのことからそう名付けられた。何十億もの人間が死に、動物も例外では無い。今となっては自分以外の人間はいまだ確認が出来ていない。皮肉な事に草木は人類がまだ多く存在していた頃よりも沢山生い茂っている。どこか遠くの昔の人が言っていた。史上最悪のウイルスは人間であると、僕はそうは思わない。きっと分岐点は沢山あったのだ。愛よりも文明の発展ばかりを優先していなければこんな事にはならなかったはずだ。

【愛のために私たちは生き、また死ぬ。 愛は神であり、神は愛だ。】


アインシュタインの言葉だ。


愛というエネルギーを恐れ。他の種類のエネルギーで自分たちを養う。だからこうなってしまった。


誰も彼もがこの言葉の本質を理解しようとしないまま、文明の破滅への道を辿った。


歩く…歩く。目的地なんてものは無い。靴はボロボロ、瓦礫が突き刺さり血の道ができる。食糧も無い、飢えることの苦しみも…もう忘れてしまった。


もうこれで最後にしよう。


もし、次の建物に食料も何も無いのなら自身に安楽死剤を注射して死を選ぼう。


そうしてスーパーマーケットへ入る。どのコーナーにも食べられるものもなく倉庫にも何も無かった。


「もうダメか…」


リュックを開け、注射器と液体を取り出す。これは自決用の毒だ。人々の希望とされたものだ。注射器にセットし腕に刺そうとする。手が震える。


もういいじゃないか、生きていたって辛いだけじゃないか。そう、頭ではわかっていることなのに。


なのに…できない…死ねない。


気がつけば涙は止まらなくなっていた。ただ、死ぬだけだというのに。産まれて愛されてそれが罪として僕に報いを…?僕が一体何をしたというのだ。嫌だ嫌だ。本当は死にたくもない。けれど生きていたくもないんだ。死んだらどうなるのか分からない。分からないというのはただただ怖い。でもそれは生きることも同じだ。生きても待っているのは孤独の世界。

もし、食糧が見つかっても…こんなに孤独なら生きる意味がないじゃないか。

注射器を地面に落とす。馬鹿みたいに泣いているうちに疲れてきた。僕は壁に寄りかかり、深い眠りに落ちた。


瞼が開く、そこには見慣れない部屋の中だった。


何故か毛布がかかっていてベットの上だった。


理解できないまま立ち上がりドアを開ける。


「やぁ。目覚めたんだ」


人がいた。今まで探しても見つからなかったあの人間がここにいた。


「夢…だよな…」


「俺も夢だと思ったよ」


そう言いながら笑う彼。ただただ驚愕する。

ほっぺをつねる。まさか本当に僕以外の人間がいたなんて。色々な感情が混ざり合う中。彼は黒焦げの何かを僕に差し出してきた。


「ほら食えよ。腹減っているだろう?」


言われるがままに串刺しになった黒焦げの何かを口にする。焦げたエビのような…なんとも表現しづらい味だった。


「これは…なんですか?」


「わからないのか?ゴキブリだよゴキブリ」


思わず吐き出しそうになった。こんなことなら聞くべきではなかったのだ。


「おいおい…お前まさか虫も食えずに今の今まで生きていたのか?なかなかいないぞ。お前みたいなやつは」


確かにそうなんだろう。こんな何も無いのだからそうするしかない。でも僕はどうにも好きになれないのだ。


「仕方ないな…これなら食べられるだろう」


そう言いリュックの中から肉のようなものを取り出した


「ほら、干し魚だ。これなら大丈夫だろう?楽しみに取っておいたっていうのに…感謝しろよ」


「ありがとうございます」


久しぶりのご馳走だった。今まで食べていたものは雑草ばかりだったから、とても嬉しかった。


「美味いか?」


「美味しいです」


「そうだろうそうだろう!」


ハハッと彼が笑う。人の笑顔はなんだか心を穏やかにするような気がした。


「そういえば名乗るのを忘れていたな。俺の名前はクワだ。よろしくな」


「シオンです。よろしくお願いします」


握手を交わす。こんな奇跡が他にあっただろうか。両親は死んで他の人間も次々死んでいき、もう出会うことのないものだって考えていたのに。心に空いた穴が埋まりそうだった。


「折角出会えたことだしトランプゲームでもしないか?」


「トランプゲームですか…」


「そう、ババ抜きをしよう。」


そうして僕は彼とババ抜きをした。同じゲームを何時間もやった。二人でやるババ抜きなんて運でしかないと思っていたのだけど、僕は連戦連敗だった。


「どうしてそんなに強いんですか」


「そりゃあシオンはすぐ顔にでるからだよ。まぁ…俺の方が人との関わりが多いからかもな」


「他に人間がいるんですか!?」


思わず声に出してしまった。殆ど見かけないあの人間が他にもいるのならこれほど嬉しいことはない。


「…全員死んじまったな。まぁ気にしたってしょうがないのさ!」


「そうだ…たんですか」


「つい最近まで生きていたんだ。病気でな」


「その彼女は最期に人を見つけて1人にならないでと」


「その願いが叶ったのか、シオン…お前に出会うことができた」


「…」


「俺は嬉しくて仕方がないんだ。こんなこと、誰も予想できなかっただろうに…もう誰もいないがな!」


これがブラックジョーク?なのか、ただなんだか僕も嬉しかった。もう僕以外の人間は居ないんだとずっと思っていた。今でさえ夢なのではないかと思うほどに。


「さて、今日は特別な日だ。せっかくなんだ。祝おうじゃないか」


クワさんは椅子から立ち上がった。


「ほんとに…ゴホッゴホッ」


「え…?」


口から血が流れている。何が起きたのか一瞬分からなかった。


「だ…大丈夫だ。心配しなくていい、感染るものではないから」


「そういう問題じゃないですよ!早くベットに横になってください」


そう言うと、クワさんはベットまで移動して倒れるかのように横になった。


僕はしばらく看病することにした。そうするとクワさんは口を開いて


「ありがとうな。シオン、出会ってすぐで申し訳ないが俺はそんなに長くいられない」


「持病でな…薬もとうに尽きてなんとか生きていたんだ」


頭がパニックになりそうだった。今日初めて出会った人が長く生きていられないなんて。分かってはいたんだ。動きの鈍い手足、そして繰り返される咳…でも理解することを拒んでしまう。そうしないと理性が保てないからだ。


「…大丈夫だ。長く生きられないだけですぐ死ぬわけではない」


「そんなこと言われても安心できないですよ…」


「それで…頼みがある」


「頼み…?」


「最期まで一緒にいてくれないか」


ああ、この人は1人になりたくないんだな。でもあなたが死んだら…僕が孤独になるじゃないか。


「シオン…本当にすまない。俺が死んだら一人にさせてしまう。俺は残酷なことをしてしまった」


僕の気持ちを読んでいるかのようにクワさんは言った。


「気にしないでください。その代わり、なるべく長く生きていてください」


「…わかった」





「今日は釣りをしようじゃないか」


慣れた手つきで釣り糸を飛ばす。


「ほら、シオン、持ってみろ」


「やってみます」


待つこと数十分、竿に重さを感じた。


「今だ!引っ張り上げろ!」

すぐさまリールを回す。絶対捕まえてやる。そんな意思で。


バッシャーン。そう音を立てて現れたのは錆びた小型ロボットだった。


「はは、へたくそー」


「うるさい」





「今日は虫を食べよう。ゴキブリは栄養満点だぞ〜?」


「いやだぁ!」


クワは焼いたゴキブリをシオンに食べさせようとする。


「なんでもチャレンジ精神さ、やるに越したことはないだろう!」


「わっ分かりましたよ…やるよ」


アムッ…


「まずぃ…」


「だろ?俺もゴキブリは大嫌いだ!」


今この場で殺してやろうか





「すまない、こんなことになってしまって」


「なんで謝るんですか」


「体が上手く動かせない。お前の迷惑になってばかりだ俺は」


「そんなこと言わないでください。僕は幸せです。1人で死のうとしたんです。でもできなくて…その時クワさんが来てくれて。嬉しいんです。少しでも独りじゃないだけで」


「ありがとう…ありがとう」


ただただ感謝を並べるクワさん。感謝したいのは僕の方だ。


それから数ヶ月、僕はクワさんと過ごした。沢山のことをした。でもそれは無理をしているように見えた。


ただでさえ体調が悪いのに、無理に色んなところに巡って…それは僕への負い目からなのだろうか。でもある時クワさんは動かなくなっていた。


突然のことだった。クワさんは動かないままだった。

恐る恐る手を握ると、その手はとても冷たくなっていた。


「クワ!どうして!まだそばに居てくれよ!」


「ああぁあぁぁ!」


ひたすらに苦しく、悲しかった。彼はもう居ない。クワさんと過した日々は言葉にできないほど素晴らしいものだった。あなたがいなければ死んだも同然だというのに





宵に暮れる頃、僕はやっと行動を移すことを決め、部屋にあったものを物色する。


タンスの中を開くと一枚の紙が置いてあった。


紙の表紙には、シオンへと名前が書かれていた。なんとなく、その手紙は自分が死んだ時のために作られたものだと理解した。


「(シオンへ、これを見ている頃には…ってドラマかよってな。それで言葉にするのは恥ずかしいから、手紙として残すことに決めた。シオン、本当にすまない。こんな最後になって謝るのは良くないことかもしれないけど、どうしても言わずにはいられなかった。また一人にさせてしまうことを、許さなくていい。憎まれて当然だ。でもこれ以上それについて話してもシオン、お前は嫌な顔をするだろう。だから最後くらい、明るく終わらせたい。シオン、ありがとう。短い間だったけれど、とても楽しかった。そして俺はお前のことを愛してる)」


全てを読み終えたあと、もう一回読み直す。何度も…何度も。気がつけば紙は半透明になっていた。あんなに泣いたのに、また涙が止まらない。ありがとうと死ぬ前に言えていれば…愛してると言葉にできたなら…後悔の念に駆られる。もうクワさんはいないというのに。





焚き火をする。火を見ているとなんだか心が落ち着くような気がした。

焼くか…。串刺しにしていたお肉を焼く。

次第にいい匂いが立ち込める。

「そろそろ…かな」丁度いいくらいに焼けた肉を少し冷まして口に頬張る。少し鉄の味がするような気がしたが普通に美味しかった。でも悲しかった。肉を食べれば食べるほどに。クワさんが消えていくような気がしたからだ。でも生きるためには食べなければいけない。

僕は…泣きながら食べ続けた。

「泣いてばかりだな…ほんと」


数日後

骨だけが残った。食料をまた探さなければ死ぬだろう。

でも…もういいんだ。

注射器を取り出す。腕に向ける。

彼と過ごした日々は僕が体験したことの無いようなものばかりだった。

誰かと生きることが。誰かと飯を食うことが。誰かとじゃれ合うことが。こんなにも幸福なんだって。

もう。悔いなんて一つもないんだ。もし、このまま生きていたら、僕はこの星に産まれてきたことを恨むだろう。

そうなるくらいなら。ここで人生を終えるべきだ。

幸せなまま、事切れたなら幸福な人生だったと思える。

もう僕の目からは涙は流れない。これは悲しいことじゃないからだ。

針を腕に刺し、流し込んでゆく。これで生きるという選択肢は消えた。

数秒経てば意識がぼんやりとした。思考回路も徐々におかしくなっていく。

ただ一つだけハッキリとしていることは、僕は幸せだった。

そう…信じたいんだ。



1億年後…

地球には草木が生い茂り、様々な動物たちが自由に草原を走り回れる世界となった。

人間に支配されていた地球は開放され、地球はみるみると蘇った。

誰も地球を支配するものはいない。あるべき姿に戻ったのかもしれない。

それでも、人間は地球に消えない傷跡を残したことは間違いない。それは人間がいた事の証明になる。僕らは生きていたんだ。

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