盲人の願い
寓話とか好きだった方に読んで欲しい小説です。夢の内容や、ふと思ったことをカタチにできればと思い書き始めました。色々と至らないところだらけですが、ご容赦いただければと思います。これを読んで何かを考えるきっかけになりましたら幸いです。
その人はひたすら山の頂を目指した。そこにはどんな願いも叶えてくれるという存在がいるらしい。
道はひたすら険しかった。
道中出会う者の目的は皆同じだった。中には人数制限があるかもしれぬと、邪魔をしてくる者もあった。
男は長い時間をかけ、ようやくそこへ辿り着いた。ただ一人、歩み続けたので考える時間は山ほどあった。しかし、たまに出会う悪人によって、すっかり疑心暗鬼になってしまった。もはや当初の目的などすっかり忘れてしまっていた。
いかなる人の善意も裏があるように思えた。老婆が寒かろうと淹れてくれたお茶ですら、要らぬと断り逃げるように登った。気になって振り返ると老婆は一人で木の根元に座り、お茶を飲んでいた。やはり、感情などいらぬ。男は逆に決意を固めた。
旅の中、唯一信頼できたのは途中で出会った野良犬だった。犬は少しの餌ですぐに懐き、よくいうことをきいた。悪そうな他者に牙を向け、無用な争いを減らしてくれた。夜は暖となった。しかし、犬は熊と戦って途中で死んでしまった。犬も犬で分かりやすい対価があったからこそ働いてくれたのだと思った。やはり、感情などいらぬ。男はさらに決意を固めた。
男はもう少しで頂上に到達するという時、盲人と出会った。その人は杖をつきながら、手足で周りを確かめながら、ゆっくりと、しかし着実に頂上を目指していた。
男はその姿を見て決意を固めた。やはり、目に見える物質的なものこそ価値がある。そして、遂に頂上に辿りついたのだった。
男は世界で一番高い山の上で叫んだ。
「目に見えないものの存在を、全て消し去ってくれ!」
これで、何もかもがすっきり、シンプルになる。男は最後にそう思った。
世界はたちまち、何もかもなくなってしまった。
お読みいただきましてありがとうございました。これらの寓話は主にシャワーを浴びている時か寝ている時に生まれます。日常の何気ないところから思わぬ発見をすることがありますね。そういったきっかけになれたら嬉しい限りです。