電光石火
ガシャン・ガチャガチャン・ガチャン
女王婆さんから受け取った、というか
押し付けられた鉄製の鳥籠が、
俺が歩く度その振動で、結構大きな音を立てる。
何に使うかもわからないこの鳥籠、
重いし、うるさいし、ガチャガチャ鳴る度に
俺の前を歩くニュイに
「ガチャガチャ、まじ うるさい! 」と怒鳴られるし、
なんだろう、この理不尽感。
俺が10歳若かったら、泣いてる、絶対、泣いてる。
つか、今、泣いてやろうかしら。
それとも、おもっきり振って、ガッシャン・ガッシャンいわせて
ぶん投げてやろうか、などと思いつつも耐えて歩いてる。
俺って、意外と我慢強かったのね。
ふと先頭を歩いているミューが、何か言ってるのに気づく。
「ですよぉ? わかりましたかぁ? 」
鳥籠ガシャンガシャンで、よく聞こえない。
ですよぉ、は辛うじて聞こえたけど、何言ったんだろ?
「聞いてますかぁ? わかりましたかぁ? 」
「え? 何? 」
大事な話かもと、足を止める。
「『え? 何? 』じゃねぇわっ! わかったかって、ミューが聞いているっ。」
いきなりニュイに肩口を引っ張られ、危うく転げそうになる。
「危ねぇだろっ! こっちは荷物抱えてんだ! 」
「オマエが聞いてないからだ!色んな事、説明してんだ。ちゃんと聞けよっ。」
「聞いてなかったんじゃねぇわっ。 聞こえねぇんだよっ。」
ニュイが俺を睨む。俺もニュイを睨む。
一触即発、上等じゃい! 男の俺のが、強いって事、思い知らしてやる!
女の子相手にどうとかないから、男の沽券に関わる一大事だから。
倫理なんて、くそくらえだ!
俺は威圧的、尚且つ、高圧的プラス暴力的に
声を荒げる。
「ニュイ!! てめぇ偉そうに言ってんじゃねぇわっ! 」
さすがにニュイもビビっただろう、と鼻膨らす間もなく
瞬き一瞬、電光石火ってこーいう事いうのね、って
19年生きてきて、その本当の意味を体感させて頂きました。
何が起きたのかわからん速さ、
いってんじゃねぇわっ! の『 わっ! 』を
言うか言わないかの間に、俺の体は宙を舞ったね。
因みに、殴られてはないよ、寸止めでしたよ。
寸止めの風圧で、俺吹っ飛びました。
この子、タダモンじゃないのね、お勉強になりました。
でも、俺もちょっとスゴイカモって思ったね。
俺は吹っ飛んで、尻着地したけれども、
鳥籠も離さず抱えたまま、フラフラしつつだけど、
ちゃんと自力で立ち上がったからね。
伊達に男4人兄弟の末っ子やってない。
やられても、強がりとヘラズグチは天下一品なんだ。
俺は、めーいっぱい強がって、今言えるヘラズグチを
ニュイにお見舞いしてやった。
「へっ、おめぇのパンチなんか、効かねぇんだよ! 」
ちょっと、情けない気もするけど、
せめて一太刀ならぬ、一言だ。
続けて『ザマァー』って言おうとした俺の前に
ニュイが歩み寄ってきた。
ヤバい、俺は身構える。
「てめぇじゃない。ニュイだ。」
・・・ソコかい。