初飛行?
「とりあえず、翁から話聞かなきゃなぁ。」
当たり前の段取りを俺はボソッと口に出す。
「そうですね。」
クチの端をトントンと軽く叩きながらミューが頷く。
「で? 翁はどこですか? 」
耳を疑うってこの状況。
すっとんきょんなミューの質問に俺は答えあぐねる。
今までの会話理解してます?
走って逃げてんだよ? 翁。
それ追いかけてきたんだよ? 俺達。
翁の居場所わかっているなら、行ってるよ。そこに。初めから。
「直線距離にして1550メートル。位・・・かな。」
耳を疑うACT2。なんつった?ニュイ。
凝視する俺に気付きニュイが翁の家を指差す。
「家の横。あれ、そうじゃね? 」
言われて『え? 』っと思いつつ翁の家に目をやる。
何かいる。間違いなく人影はあるけれど
見えるか。んなもん。俺の目はいたって一般だ。
「どうします? お話聞きたいのですが。」
「ボク、降りて捕まえるのが一番いい。」
「そうですね。ここからお声かけても聞こえないでしょうし。降りましょう。」
「こっから降りたらスグ翁の家。翁即捕獲。」
ニュイが立ち上がる。ミューが妹を抱っこする。
俺は身の危険を大いに感じ、ふたりを制し今後の展開を問う。
「ちょっと待った。降りるって、え? どこを? 」
「どこをって、」ミューがすまして言葉をなぞり
「ここをだ。」ニュイが豪快に指を指す。
「崖だよね? いわゆるこれ崖だよねっ? 」
「崖じゃない。傾斜地だ。」
「難しく言ってんじゃねぇ。崖だろうがっ。」
「うーん。それの定義は曖昧ですよねぇ。」
「いや、今、定義とか聞いてないからっ。」
「うるさい。崖じゃないから、ココを降りる。」
いやいや、いやいや、降りるってアンタ。
早まるな、つぅか、やめてよ。マジで。
俺の心の叫びをガン無視したまま
すまし顔でミューが、崖先に立つ。
「気持ちよくありませんが、手をつなぎましょう。」
俺に笑顔で手を差し出してくる。
言葉の引っ掛かり具合が、高級ハンガー並みで
俺は素直に聞き返す。
「気持ちよくないの、よくないは、其処に立ってるからって意味だよね? 」
「え? ここ? 気持ちいいですよ。」
「オマエの手がキモイんだよ。」
「はぁっ!? 」
おもっくそ言い返してやろうとクチを開けたのとほぼ同時。
「行く。」と言って猫が飛び出し
「はい。お手。」と犬に言われ
手をもぎ取られる勢いで引っ張られ俺は宙を飛ぶ。
空に吸い込まれる、人生初飛行。
などと感慨にふける暇もなく、重力に逆らえるハズもなく
あっちゅうまに落下。
ガガガガガ・ガサガサガサ・ドドドドドドド
聞いたこともないような音を立てて
絶賛只今地滑り中。
・・・・・・・死ぬかも俺。