かみ合わない会話
深い深い嘆きの色をした溜息を一つ吐いて
「そうですか。そんな事があったのですね。」と
ミューはクチの端に指先を当てがう。
竹がぶっ刺さったまんまの岩にもたれて
俺は俺達が見たアノ光景を包み隠さずミューに共有している。
話してる内容と背景のがあまりにもそぐわず
・・・なんともカオス。
おまけに、どっから持って来てるかわからんが、
オカルト妹人形が、せっせと運んでくる食い物を
何の疑いもなく俺は喰いまくってる。
あんな現場を見た後で、しかもヤツが持ってくるモノを、と
自分でも少し引くのだけれど
人間の三大欲には勝てないのです。
・・・これまた、なんともカオス。
「でもさ。実際、翁がやったのかはわからないんだ。」
「わからない、とは? 」
トン・トンと軽く叩きながらミューが俺を見つめ返す。
「現場、見てない。」
ニュイがボソッと答える。
「見てない? じゃあ、今、話してくれた事は妄想ですか? 」
「妄想? ミチルじゃあるまいし。ボク妄想とかしない。」
「じゃあ、想像ですか。」
語彙力の低いニュイに、推察力の低いミュー。
当然ながら的外れな口論が勃発する訳で。
いつもならトバッチリ受けないように知らんに徹しているが
今はソレどころじゃない。
俺は受け身の体制を保持しつつ、ふたりの間に割って入った。
「翁の仕業かどうか、現場を見てないからわからないんだ。」
「なるほど。」
俺の説明を聞いて、静かにミューは頷き
トン・トン・トンと唇の端を叩く。
「ボク『光る竹を見たことあるか?』って聞いた。
そしたら翁、何も言わず走ってった。それ追いかけたら、あの場所に着いた。
現場は見てないけど、やったのは翁って思う。」
「俺もそう思う。なんの証拠もないけど。」
「そう・・・ですか。」
どうしたものかとそれぞれが思いあぐね
押し黙る空間をスッと抜ける風が、竹の葉を揺らす。
物言えぬ姫の代わりにザワザワと音を立てているようで
心が少し重くなる。
「ぶっちゃけ証拠っている? 」
「確証は必要です。」
「証拠なきゃ確証取れない。」
「あのさ、今更ながらなんだけど。」
爺さん捕まえてどうするの? って言いかけて
俺はクチをつむぐ。
・・・・・どうせ、ろくな結果にはならない。
平和的解決なんてない。
「今更、なんですか?」
ミューが俺を覗き込む。
「いや、ここ、どこかなぁって。ね。」
「ここ、ですか?【 かぐや姫 】の童話の中ですよ?」
「え、いや、そういう事じゃなくて。」
「んん。竹藪の中って事でしょうか? 」
「いや、それ見たらわかるから。」
「翁の家の裏手の山じゃね。」
ぼそっとニュイが言って指をさす。
500円玉位の大きさで下の方に翁の家が見えた。
「ぐるっと回った感じか。」
「意味わかんない。」
「これからどうしますか? 」
「どうします、って俺に聞く? 」
「ぐるっと回るって意味わかんない。」
「ほら 向こう側から、こう上って来たから、」
「どうしますって、聞いてはいけない理由あるんですか? 」
「え? そんな事ないけど俺には判断とかできないよ。」
「判断できないのに、ぐるっと回ったのか。」
「へ? 」
「判断なんて求めてませんけど? 」
「は? 」
「判断出来なくて、ぐるって回るヤツに判断任せらんない。」
「何を言っとるのだ? 意味わかんないぞ。」
「意味わかんないのはオマエだ。ばか。」
「んんーん。これからどうしましょう。」
・・・・・・・頭いたくなってきた。