魔法のアイテム
「では、サクッと説明始めようか。早々に済ませようぞ。
サクッサクのマキマキで参るぞ。」
サクッサクのマキマキって・・・。
ついさっきまで、あんなに威厳があって、王族オーラ半端なかったのに
女王婆さん、いきなり豹変? なんか、カルっ!
あっけに取られている俺に女王婆さんが、両手を前に出せと言う。
俺はポカンと口を開けたまま、言われた通りに両手を前に出した。
女王婆さんは指先を少し曲げて、俺の両手の平をトントンと打ちながら、
何かブツブツと呪文を唱え、フッっと息を吹きかけた。
と、同時に俺の手の平の上にドサッと物が乗っかる。
いきなりの荷重! 耐えれるはずなく落っことす。
「これ、ソナタ、また壊す気か? 慎重に扱わんか。」
「なんの説明もなく、いきなりこの重さくりゃぁ、落っことすわ! 普通! 」
「・・・ミチル・・・ソナタ、軟弱者よのぅ。・・・残念だ。」
「何が?! 何が残念っ?! 」
「口のきき方! 」
ニュイが、俺の頭をはたく。首が、また、メキョッと変な音を立てた。
俺の前に、女王婆さんが出したアイテムが並ぶ。
それを、ひとつ、ひとつ指さしながら、女王婆さんが説明をはじめる。
「ミチル、よく聞き、しっかり覚えなさい。
はい、これは指輪、光の指輪。」
「光の指輪。」
「はい、これは本、導きの本。」
「導きの本。」
「そして、これが、巾着で、これが、」
「ちょっ、ちょっと待って、」
「これが、籠。わかったかい?」
「ちょっと待って、説明は? つか、最後のコレ、鳥籠って、何? 」
「説明したぞ? 聞いていなかったのか? 」
「いやいや、あれ、説明じゃないから、品名言っただけだから、
使い方とかあるでしょ普通、つか、鳥籠って。」
女王婆さんは、全くもって俺の話を聞いてない様子で、
ごそごそ何かを探している。
「あのう? 聞いてます? 聞こえてます? 」
「おおお、あった、あった。」
にこやかにローブの内側から、女王婆さんは何かを取り出し
俺に渡してきた。
受け取ってギョッとする。
「え? 何??! これ! コワッ! 何! 呪いの人形?! コワッ! 」
慌てて投げ捨てようとする俺を制して、女王婆さんは、ごく当たり前の様に言った。
「この子は、妹だ。」
「い、いもうとっ?! 」
「うむ、ソナタの妹だ。 名は、」
「いや、ちょっ、ちょっと待て! 俺に妹はいない。
いたとしても、ホラー映画の主人公みたいな人形であるはずないっ!
コレ、俺の妹って、どっからどうやって そうなったっ?! 」
「はて、気に召さぬのか? 」
「気に召す訳ねぇだろうっ! 」
「ソナタに相応しいように、一生懸命、作ったのだがなぁ。ソナタの妹を。」
「いや、ババァ裁縫下手すぎっ!
つか、コレ妹なら、うちの親父と母ちゃんに謝ってっ! 」
「しかし、困ったものよ。」
「話聞いてますかっ?! 」
「ソナタ、名が、ミチルだからなぁ。本来それは妹の名であるのだが、
まぁ致し方無い、ここは妥協で。」
「なぁーにゴチャゴチャ言ってんだ! なんだっつーの?! 」
「ふむ、その子の名は、ミチル改めチルチルだ。」
「はぁああっ?! 」
女王婆さんが、名前を言ったとたん、小汚い呪いの人形が、パンっと光って動き出した。
「さぁさ、ミチル改めチルチルよ、おにいちゃまに御挨拶なさい。」
人形の首が俺の方を向く。
ぎゅぎゅぎゅっとゆっくり捻じれたせいか、縫合が悪いせいか、
一部分が破け、首が大きく傾く。
「オ兄ィチャマ、コンニチハ。」
挨拶するのにスカートを持ち上げたせいか、
やっぱり縫合が悪いせいか、肩から中綿がボヨンとはみ出る。
人形が動き話した事に、「おおお。」っとミューとニュイは関心していたが、
「オ兄ィチャマ、抱ッコシテ。」と言いつつ
バランス悪く歩み寄ってくるソレは、もう、ホラー映画の一場面でしかなく、
余りの恐怖に胃液諸々を吐き散らかしてしまった。
「真実のペンダントさえあれば、この子の本来の姿が如何に可愛いか、
ソナタも分かったであろうに。」と
しきりに女王婆さんは残念がった。
俺は動いて時折、「オ兄ィチャマ。」と囁くソレを見るだけで、
カラエヅキに襲われ、その場にしゃがみ込む。
その状況を見て、これではいけないと思ったのか、
ミューもニュイも、女王婆さん力作のミチル改めチルチルを
側に置けとは言わなかった。
ゴゴゴッ
突然、体に強い振動を感じる。
「地震? 」
俺は周りを見渡す。
幸い揺れはすぐに収まった。
「母王様。」
静かにミューが、女王婆さんの傍らにつく。
「大丈夫。まだ、大丈夫。でも、残り時間が、僅かなのも確かな事。
急がねばなるまい。」
神妙な面持ちで女王婆さんは、そうつぶやく。
何が起こっているのかはわからないが、この緊張感、
この国にとって一大事な事柄が起こっている事に間違いは無さそうだ。
「ミチルよ、早速だが、仕事を始めておくれ。
私が思っていたより事態は急を要するようだ。
仕事の云々、道具の使い方云々は、ミューとニュイからお聞きなさい。
ミュー、ニュイ後は頼みます。」
「はい。かしこまりました。」
二人は深々とお辞儀をし、くるりと踵を返して俺の前に立った。
「参りましょう。母王様に御挨拶を。」
「急げ。グズグズするな。」
「急げったって、この荷物どーすんだよ。」
「早くしろ。オマエの末裔にも関わる問題だという事、忘れるな。」
「わかってます、わかってますとも、あーはいはい。」
なんでこういう言い方するかなぁーとムカつきつつも
お仕事せねば末裔まで迷惑がかかるのは事実だし、
俺は不貞腐れつつも、アイテムを拾い抱え込む。
・・・鳥籠じゃまっ! これ必要なの?
こっそり置いて行こうとしたら、「あらっ、忘れてますよぉ。」と
ミューに指摘される。
「全て母王様から預かりし大切な物だ。全部必要な物なんだ。
忘れるとかありえない。」
ニュイのあからさまな威圧を感じ、俺はそそくさと鳥籠を持ち上げる。
はっきり言って、これ重い。
本当に必要なの?
色んな意味で、俺は疑心暗鬼に陥りそう・・・かもしれない。