契約のクチズケ
「壊れたねぇー。」
「見事にパッカァーンですねぇ。」
「オマエ、斬首決定だな。」
「コレ、国宝級なアレでしたものね。」
「魔法アイテムではS級ランクじゃ。」
「しかし、見事に粉砕。斬首しかないな。」
俺の手元を覗き込み、口々に好き勝手な事を言う。
「わざとじゃないから! つか、女王婆さんが、いきなり殴るから! 」
「なんと、私のせいだと? そなたが、よからぬ事をしようとしたから、
咎めただけだ。」
「母王様のせいにするとか、ひどいです。」
「オマエ斬首1万回。」
「さてー。どうするか・・・。困った事だ。」
「困りましたね。どうしましょう? 」
「きっかけは何にせよ、オマエが壊した事に何等変わりない。
オマエの首をはねて石と挿げ替えてやる。」
みんなのため息やら、やり取りを聞いてるうちに、
とんでもない事をしでかしたのが、良く分かってきて
俺は冷や汗が止まらなくなった。
「べ、弁償ですか・・・ねぇ。」
恐る恐る女王婆さんの顔を見る。
「あのぅ・・・ローンとかありでしょうかぁ?
出来たら最長でお願いしたいのですが。」
どっから持ってきたのか、ニュイが電卓をピピっとはじいて、俺に見せてきた。
そのゼロの多さに、俺は驚愕した。
「オマエ、来世、来来世まで、かかっても足りない。」
「親御さん含め、一族の皆さんからも頂かなくては、間に合いませんね。」
ミューの冷静な取り立てに、胃がキリキリしだした。
「ご、ごめんなさい! 俺が悪いです。」
俺はいくらか安くしてもらいたくて、必死で頭を下げた。
「ミチルよ、これは国宝級の代物だ。
ソナタや、ソナタの一族が、末裔いや、来世までかかっても
払いきれるか、どうか。
ソナタはまだ見ぬ我が子や、孫、ひ孫にまで、この支払いをさせるかい? 」
「俺が悪いんです。ごめんなさい。俺、どうにかします。」
「どうにかと言ったって、そんな簡単な額ではなかろう? 無理だ。」
俺の口の中はカラッカラになり、それに相反して顔からは汗が、噴き出る。
狼狽する俺に女王婆さんは、ニッコリ微笑んで、提案がある、と言ってきた。
「ミチルよ、どうだろう?
先ほど私が言った依頼を受けてくれるなら、
ペンダントの弁償を免除してやってもよいぞ。」
「免除? え? 支払いナシって事っすか?! 」
やったぁ! 助かった! と思ったが、なんか引っ掛かる。
支払いゼロは、ありがたい。ありがたいのだけれど、なんか引っ掛かるのだ。
「あのぉー。もしかしたら、俺、ハ」
「さすが、母王様。なんと慈悲深いのでしょう! 」
,
俺の言葉を遮って、ミューが感嘆の声を上げた。
「あんな簡単な仕事で、全部免罪って凄い! ニュイならこの話乗る。」
「そうですよね? 御請けしますよね?
だって 払えませんもの。一家路頭ですもの。」
「何も知らない、責任のない子どもが、
『パパ、辛いよぉ、おなかすいたよぉ。』って泣く。」
「その通りです。泣きます。『ひもじいよぉー』って。」
「その子の子ども達も泣く。
『ボクが何をしたっていうの?おなかすいたよぉ苦しいよぉ。』
・・・・・可哀想。」
「そうですね、可哀想です。悲劇です。その子らは、何の罪もないというのに。」
「悪いのは、オマエなのに。」
「ええ、あなたなのに。」
チクチク刺さってた言葉が、ザクザクに代わって、
俺はもう声を上げてワンワン泣いて、
腹でも切れば許してもらえますか? 位の面持ちになって、
気が付いたら、皺だらけの女王婆さんの手を握りしめ
「やります! お仕事、やります! やらせてください。」と懇願していた。
「うむ。ではミチルよ、引き受けてくれるのだな? 男に二言はないな? 」
俺は大きくうなずく。
女王婆さんは、大きな真っ赤な宝石の指輪のはまった、
枯れ枝の様な指を俺の目の前に差し出す。
「契約の口付けを。」
言われるがままに、俺はその指輪に唇を寄せた。