その言葉、通訳致します。
「何て、何て言ったのですか? 」
潤んだ声でミューが俺に答えを求める。
なんか・・・イイっ。今のミューなんかイイっ。
俺に教えを乞う様な感じで、イイっ。
オカルトな妹、オカイモを抱いているから
確認は出来ないが、心配顔で俺を頼ってると想像する。
『センセ。教えて下さい。』『いいよ。こっちに来なさい。』
『センセ・・・アッ』
目くるめく妄想の乱舞っ!この展開し・しみるっ。
少し鼻の穴膨らませ、俺は答える。
「ミナサン、シンパイシテクレテ、アリガトウゴザイマシタ。だよ。」
サラっと答えてはいるが、ミューの反応がかなり気になる。
しかし、それに食いついたのはニュイで、
「そうなのか? 」と俺とホラー妹を交互に見つつ
「ファィ。」と返事が返ってくるや「おおおぉっ。」なんて声まで上げて
「妹、次、次、なんか言ってみ?」と催促をおっぱじめやがった。
ニュイよ。何をそんなに興奮する事があろうか。
「あんあぉいあえあっても。」
「おい、何? 何? 」
「ナニカトイワレマシテモ。」
「そうなの?」
「ファッイ。」
「おおおお。凄いっ。」
ニュイのどーでもいい質問にヤツは律儀に答え
それを俺も律儀に通訳する。
その度にニュイは「おおぉっ。」と声を上げ拍手する。
正直、何が楽しいのか俺にはわからん。
完全に妄想は途絶え、俺は色んな意味で萎える。
ちょっとイライラしてきたところで
「感動してますっ。」とミューが会話に入ってきた。
「凄いですね。私には何を言ってるのか正直わかりません。
やはり兄弟ってすごいですね。」
「ファァイ。、いっ、ふぇぇふ。」
何が兄弟だ、ちげぇからっと言いかけて言葉を呑み込む。
ん?なんかおかしいぞ。ハイ、イイデスって言っているのだけれど。
まさか、裂けめ広がってる?
「おりぃたあぁ、あぁいぃえぅ。」
やっぱおかしい。『オニイチャマ』が『おりぃたあぁ』になってる。
『あぁいぃえぅ』は多分『ヤサシイデス』だ。
目で見てチェックは出来ないが、耳がそれを俺に教える。
確実に裂け目拡大中。
これ以上喋らせるのは、絶対ヤバい。
だけど、俺が止めると揶揄されそうで、そこは勘弁。
うぅ。どうする?
あぁん? どうする?、だと?
いくら怪奇現象王道の妹でも、可哀想だろうが、
止める一択!
「もう、喋るなっ。お前、裂け目広がってるだろっ! お前らも喋らすな! 」
俺は声を上げる。上げたと同時に勢いで、ヤツを直視してしまう。
大きく避けてめくれ上がった口。
垂れ下がった顎の脇から、黄土色の小さな塊がボトボト垂れ落ち、
もごもごもごと不自然に動く頬が見えた。
動く、不自然に動く頬?
「オマエッ、何喰ってんだぁあああ? 」
「フエッ。」
「何って、アップルパイですよ? 」
「アップルパイぃぃっ?」
「大きな声出すから、ビックリして喉詰めちゃうじゃないですか。」
「欲しかったのか? 」
「いらねぇわっ! 」
「ファィ。」
「いらんと言っとろうがっ。つか喰いさしわたしてんじゃねぇわっ。」
オカルトな妹が差し出すぐちゃぐちゃのアップルパイを
軽く払ったつもりが、加減間違え叩き落ちる。
そうなると、当然俺は誹謗中傷、罵詈雑言を浴びる訳で。
「あー。」だの「あらぁー。」だの「フォォオ。」だの
うるさいっ。うるさい。うるさいっ。
言い訳するのもめんどくさい。言ってもどうせ通じない。
「そこで、ギャアギャア言ってろ。俺は任務が、あるんで。」
捨て台詞吐き捨て、俺は一人村に入る。
なんか、心配して損したッ。なんか、ヤな気分だ。