聞き込みでござる
ヒリヒリする顔面を押えつつ
雑木林を抜けて、青々とした竹林にたどり着いたが、
何も別段変わりなく、というか何も異変を見つける事も出来ず
とりあえず情報収集だと、こうして麓の村里迄来た訳だが・・・。
のどか、ひたすらのどか。
子どもの頃テレビで見た昔話の村里そのものの場景に
あながちアレは嘘じゃなかったんだと、
自分でも変な所に関心しつつ、
目の前で怪しく揺れる白い尻尾と黒い尻尾を見つめながら歩く。
「何も異常無いですね。聞き込みしますか? 」
予定外の振り向きに焦りつつも、平常心保って
「そうだね。」と答える。
ミューの後ろでニュイが中指オッ立てて、顎をしゃくり
オマエが聞いてこい、と顔面で命令する。
なんで俺が? っと思いつつ、目の前を
ちょうど通る女の人に声をかけてみた。
「あの、すいません。聞きたい事あるんスけど。」
「・・・・・・。」
あれ? 聞こえなかったか?
少し大きな声で話しかけるか。
「あのぉ、すいませぇん。」
「・・・・・・。」
む、無視されてるっ? 何で? どうして?
言葉使いが違うのか? え? 昔の日本語ってどんなんだ?
早くしろよ、と言わんばかりのふたりの視線が痛い。
なんだ? 現代日本語じゃあ通じないのか?
この時代、って、いつの時代か知らんけど、この時代の言葉使いってどんなんだ?
昔言葉、昔の日本、侍、あっ時代劇、そうだ、時代劇!
確か、語尾に『 ござる 』って ついてたな。
俺はふたりにこっくり頷いて、自信満々に声をかける。
「すいませんでござる。聞きたい事があるでござる。話するでござる。」
「・・・・・。」
「待でござるでござるっ!。」
思わず手を伸ばす。
「え? 」
女性の腕を掴んだつもりが、お手の手は空を切る。
「す、すり抜けたっ! え!えええっ。」
幽霊? いや、【かぐや姫】はホラーじゃない。
なに?何が起こってんだ?
ミューとニュイも合点が行かない様子で、
俺達は道の真ん中で顔を見合わせる。
「どうなってんだ? 」
「おかしいですねぇ。」
唇の端を軽くゆっくりトントンしつつミューが小首をかしげる。
「嫌われてるからじゃね? 」
ニュイ、いきなりなんですと?
「そうですねぇ。」
ミュー、否定せんのかいっ!
「俺のせいな訳? 」
「ボクには、それ以外の理由が見当たらない。」
「嫌われてるかどうかは、わかりませんが・・・イヤがられてる可能性はあるかもですね。」
『 嫌われてる 』と『 嫌がれれてる 』
送り仮名違いでも屈辱的な意味には変わりないわっ。
「あーあー。オマエのせいで。話、進まない。」
「俺のせいだつーなら、お前がいけばいいだろっ。」
「はぁ? なんでボクが? そういうのオマエの仕事。」
「ああっ? 誰が決めたっ? 」
「ザコはツカイッパ。」
「ざこぉーっ? 」
カッっと血が上る。
ザコと言われて笑える程、俺は精神成熟しとらん。
可愛い猫耳も抑止力にはならんわ。
一気にニュイとの間が詰まる。
久々にくる一触即発ムード。
俺は引かないし引く気もないが、ニュイもその気配はなく
お互い腹に溜まってるモノもありきでジリジリとした空気が立ち込める。
「あああああ! 」
いきなりのミューの大声に俺とニュイは前につんのめって
互いの鼻同士ぶつけそうになり、俺は慌てて距離をとる。
しかし、ニュイは一瞬グッと下に下がって
俺の胸元に潜り込んでくる。
ニュイが消えたと思った瞬間、激痛! いきなり激痛!
体をどう使ったら、そうなるのか、俺がこうなるのか
説明を強く求めたくなる程
その一瞬で俺は地面にうつ伏せ、見事にホールドを取られていた。