ミチル? ミチル!
あのクソ婆、秘孔突いたんじゃなかろうか?
異常に長引くゲンコツの痛みをこらえながら
わちゃわちゃと、楽しそうに雑談をする三人を
軽い脱力感を感じながら、ボーっと見てる。
・・・興奮し過ぎた。
童話の国に入るたび、この興奮状態じゃ身が持たん。
何か打つ手はないかしら?
あれこれ妄想して、その度にクラっとしてを繰り返し
俺はある結論にたどり着く。
よし、もう、正々堂々もろガン見して慣れておこう。
しかし、如何せん免疫持たない穢れ無き俺。
下心やヤラシイ感情なんかじゃないから、
これも【 お仕事 】の為だから、と
自分に何故か弁明し、腰を上げてみたものの
やっぱ、近寄りにくく、尻込みしてしまう。
もじもじしてる俺に気付いたのか、
サージュが「ミチル、こっちへ。」と俺に手招きをする。
ニュイに、ジロジロ見んじゃねぇ、とか、コッチ寄るな、とか
言われはしないが、なんとも横に行きづらい。
「3人並んでみな。」
そう言われ、やっとこミューの隣に立つ。
大きな半たれ耳をピコっとさせて
ミューが俺を見上げ、ニコッと笑う。
はうっ! 慣れれる訳ないっ!
グアアアっと頭に血が集まる。
ゲンコツされた箇所が、ガンガンする。
「大丈夫ですか? お顔が真っ赤ですよ? 」
犬耳付けて上目遣いとか、もうそれ悪魔的です。
ギュムって抱きしめたい衝動を頭のズキンとくる痛みが制御する。
サージュ、こうなるのわかってて殴ったのかしらん。
そうだとすれば、恐ろしいババアだ。
俺達3人をズラッと並べて、サージュは大きな天眼鏡越しに見つつ
「なかなかいいじゃないか。それなりに出来てる。出来てる。」と
ニンマリ笑っている。
「ジロジロ見られるの、ボク好きじゃない。」
唇をとんがらかしてニュイが文句を言った。
「まぁまぁ、そう言うな。」
なだめる様にサージュはそう言った後、
「うーん。足らないかぁ。」と口をゆがめる。
「足りない? やっぱり、足りないのですね。」
ミューが、シュンとしてうつむいた。
「お耳に尻尾で私は、いっぱい、いっぱいですけど、
たりないなら付けます。・・・イヤだけど。」
「ん? ミュー、なんの話だい? 」
「サージュ様、足りないって。だから、付けますよ。鼻とヒゲ。」
「ええ? ボクやだ。鼻やだ! 息しにくいじゃん!」
ふたりのやり取りを聞いて、
「付けない、付けない。オマエさん達は、それで十分だ。」と
サージュは大笑いをした。
「問題は、ミチルだ。」
唐突に名を呼ばれて焦る。
「え? 俺? 」
「オマエさんじゃなくて、ミチルなんだ。えーと、ミチル、ミチル。」
まったく話が見えない。名前を連呼されて、ちょっとイラっとする。
サージュはお構いなしで「ミチル、ミチル、」と繰り返しながら
俺達を交互に何度も見返す。
「ミチル、いないかぁ? 」
「だから、俺が、ミチル。呆けたか? ばぁちゃん。」
「呆けるか。オマエさんがミチルなのは名前だろ? 」
名前だろ?って、名前だよ。悪いかよ? いい加減にしろよ。
女王婆さんと同じ様に、俺の名前でグダグダと。
俺がミチルだからなんだっつぅんだ。
「ミチル、ミチル、うーん。どこだ、知らんか? 」
「知るかっ。」
吐き捨てる様に言ってやる。
ミューが俺の服の裾を引っ張って、
怒らないで、と言わんばかりに小さく首を振る。
「おお、いいもん持ってんじゃないか。それ、こっちに。」
何を見つけたのやら、急に大きな声をあげ
サージュは俺の腰にぶら下げてある小さい巾着袋を指差した。
そして、ひったくる様に受け取とると
「あいつの事だから、抜かりはないはず。」とブツブツ言いながら
巾着袋の中に手を突っ込む。
「いやな、さっきも言ったように、
物語の登場人物にならなきゃなんなくて、だな。」
説明しつつ、ガサゴソ、ガサゴソと乱雑に中を引っ掻き回す。
自分の私物の鞄でコレされたら、マジキレるな、なんて思いつつ
半分呆れて、もう好きにしてくれと思う。
「ミチル、ミチル、ミチ、お、あった。」
散々探って、ようやく何か見つけた様で
「これで、完璧。」と満面の笑顔で何かを引っ張り出す。
「ほれ、ミチル、ミチルだ。」
何を訳わからん事を、と困惑する俺に
ポンと何かを投げてよこす。
「あ、」「あらぁ。」「え? 」
ニュイ、ミュー、俺。
それぞれが、そのサージュが投げたモノを認識するまで
それ程時間は要せず、ほぼほぼ同時に声を上げた。