依 頼
「ミュー、ニュイ、ご苦労であった。」
ボロボロの絨毯の上をボロボロの女王が歩いている。
なんだかカオス過ぎて、泣けてくる・・・そんなエズラを
俺はただ、ぼーっと見ている。
勿論、話は聞いている。
ちっとも頭には入ってこないけど。
俺の運命に かなりの影響をおよぼす位置にいる女王が
これだと、正直ノラナイのは 19歳の男として
ごくごく正常な証だと俺は素直にそう思っている。
「不機嫌そうだねぇ。怒っているのだねぇ。」
女王婆さんが、俺をみてフォッフォッと笑う。
笑い方まで、悪の魔女。もう これ何の罰ゲームよ。
イライラが、加速していく。
「存じておるよ。そなたの事。ちゃんと、わかっておる。
そなたもご苦労であった。」
上から目線の物言い! わかる? 知ってる? 何を?
カァアアっと頭に血がのぼる。血圧が上がるって、これかって認識する。
「で、 そなた、名前は? 」
「知ってるんじゃねぇのかっ! 」
思わず全速力で つっこんでしまい ニュイに小突かれ、ミューに たしなめられる。
「そーいう細かい事は知らぬのだ。
我が娘クラルテなら知っておるのだが、すまない。
しかし、そなたが、クラルテの導きにより ここへ参じてくれたのは承知しておるよ。
そして 感謝もしておる。」
ん? ちょっと待て。今 我が娘って言った?
俺は耳をそばだてた。
「して、クラルテ様は、今いずこに? 」
俺の『ん? 』に全く連動はしていないが、
ミューが疑問の答えを解き明かす質問をしてくれた。
「こども達が、病にかかってしまったのでな、看病にいっておる。
私も行きたいのだが、この状況では それも叶わぬ。」
話の全容は全くもって理解出来んが、この女王婆さんは、女王ではなく
女王のお母さんだと言う事が分かった。
母親が、この年齢ならば女王は熟女か。しかも子持ち。
・・・うん。アリかもしれない。
ほんの少しエロめいた妄想の展開準備中の俺に、
またもや女王婆さんが ドアップで覗き込んできた。
ばばぁああと叫びそうになったが、今度はグッと堪える事が出来た。
「で? そなた名前は? 」
「高津、高津 充。」
「タカツ ミチルか。フォッフォッ。」
ナニ ワロトンネン! 心の中で最低10回は平手付きのツッコミを入れる。
「ミチルよ、そなたに頼みがある。是非 聞き入れてくれぬか? 」
「頼みによります。」
俺のぶっきらぼうな、しかし正当な返しに、
ニュイが即座に立ち上がるが 女王婆さんに窘められ
『次その態度取ったらコロス』のオーラを全身から漂わせ俺をにらみつける。
「さっきも話した通り、こども達は病にかかってしまった。
これは非常事態で、一刻の猶予もならん。
急いで策を講じなければならぬ。
そこでミチルよ、そなたに、この病を治してほしいのだ。」
「あのー、俺、医者じゃないんで、無理っすよ。」
今度はミューが立ち上がる。
しかし 女王婆さんが、またもそれを窘める。
「勿論、褒美はとらす。それ相応の褒美を与えよう。」
「褒美って・・・こんな廃墟のボロ城で? 」
とうとう 二人同時に立ち上がる。
やべぇ! 俺 やられる! 咄嗟に身構える。
「よいよい。これ 二人とも、よいから、よいから。
ミチルよ、そなたは正直だ。心に正直、思いに正直。
そういう正直さ 嫌いじゃない。」
「そりゃぁ・・・どうも。」
「しかし、のぉ? 」
女王婆さんが、ぐぐぐっと俺の鼻先に顔を近づけてきた。