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ワン・ニャン・パラダイス!

 「ざつ! 扱いザツ! 」

 

 俺は胸の名札を持ち上げて、抗議する。


「なんで? これ名札だよねっ? 

俺の変身、『 名札 』って、設定どーよっ? 扱いどーよっ? 」

「分かりやすさ、重視。」

「確かに分かりやすいけれどもっ、これはどーなのっ?」

「じゃあ、オマエさん、本編通りになるか?」

「本編通り?」


サージュはスッと近寄って来ると、「本編はな、」と

俺だけに聞こえる音量で話す。


「緑の帽子にチョッキ、ピッチピッチの超短め半ズボン。

白タイツかハイソックス、これ基本だけど。」

「え、それは、」

「それでいいなら、そう設定してやるが? 無論手数料は頂くが。」


 俺は想像する。

この体に、かの有名なロックユニットのボーカル様ばりの

ぴちぴち短パンを装着。


 あー、これ、犯罪ですね。迷惑防止条例違反案件です。


「結構です。名札、最高です。」

「だろ。」


 俺はすごすごと退散しつつ、ふっと脳裏にある言葉が蘇る。


『ミューは犬、ニュイは猫。』


 体に電気が走る!

ハッシュタグつけりゃバズりそうな語列が、頭の中駆け巡る。

変身、なりきり、コスプレ、犬に猫!


もしや、あんな姿や、こんな姿が・・・。


 い・いかん! まてぇい! 俺っ! 落ち着けぃ!


 いうてもサージュ、一筋縄ではいかん女豪傑。

19歳の純粋な、ときめく心を踏みにじるなぞ、造作もない事。

期待せん方がいい。うん。期待せずにいよう。

俺と同じく、名札かもしれんからな。

犬耳、猫耳、可愛いしっぽ、なんざぁハナっから無いと

思ってた方が、良いに決まってる。


「ミュー、ニュイ、こっちにおいで。」


サージュがふたりを呼びつける。


 期待しちゃあダメだ。期待しちゃあダメだ。

そう、自分に言い聞かすが、いかんせん、自称純粋無垢な19歳。

期待せんで、いられようか。


 生つば飲み込み、瞼ガン開き、ドライアイなんか怖くない。

俺は三人の一挙手一投足に全神経を集中させる。


 俺の時と同じ様に、大きめの音叉の様なモノをふたりの首筋に当てる。

リーンと高い音が響き、ミューとニュイが体を震るわす。


 小さく、吐息まじりに「あっ。」と声がする。


 ふたりの姿が、カクカクと動いたと感じた瞬間。


 神はいらっしゃる! サージュは神様なのかもしれない。


 耳キタアーーー!

 尻尾キタアーーー!


 ミュー、白い半立ちの耳に、もふもふ尻尾。

 ニュイ、黒い猫耳、つやつやした黒い尻尾。


 尊い。あまりにも尊い。

虹色の後光がさしているわっ。感涙の雨アラレ、いや、嵐!

高津 充 19歳10ヵ月と3日、

平面じゃない女子のワン・ニャン・コスプレをこんな間近で

拝める日が来ようとはっ。


 ワンワンミューとニャンコニュイ。

あどけなく笑い合いながら、お互いの耳やら尻尾やら

見せ合いっこしたりなんかしてる。

 何という美しき光景!

うおおおおおお、生きてて良かった!

お母様、産んでくれてありがとぉおお。


「ミチル、ちょいアレ取って。」


 サージュは、出入り口ボンっと置かれている、

どっかの大手通販サイト的なダンボール箱を持って来いと言った。


 人が感動に浸ってるというのに、なんと空気の読めない婆だ。

しかし、サージュのとこまで運ぶっう事は

あの位置、ふたりに近い位置に自然に行けるという事で。

 俺は良い子代表的なお返事をして、気持ち軽やかに箱を取りに向かう。


 箱はデカいが、中身は軽い。

俺は意気揚々とサージュの元に箱を運ぶ。


 ガン見チャーンス!と側まで行ったのはいいが、

近い。あまりにも近い。目のやり場に困る。

正直、至近距離過ぎて、ガン見出来ない。

この状況でマジマジと見れる奴ぁ、ドスケベかド変態しかいねぇわ。


 そそくさとは箱を置いて、その場から離れようとする俺を

サージュが呼び止める。


やめて。俺、目線泳ぎっぱなしで、水没寸前なのよ。

席まで、帰らせて。ゆっくり鑑賞出来る距離に、俺を戻して。


そんな俺のちっぽけな願いなど叶える気など

毛頭ないサージは箱を開けろと俺に命ずる。


 手を伸ばせば触れそうな位置に、

ミューの尻尾の存在を感じながらも

は?やってらんねぇな、ホント人使い荒いのな、など

ぶちぶち言いつつ、俺は平気だ、猫耳やら犬尻尾なんぞ気にもならねぇぞの

雰囲気で、脇汗かきつつ箱を開ける。


「開いたぞ。箱。」

「おお、ごくろーさん。」


 俺はスカし顔で、ドッカっと自分の席に座ると

「はぁーやれやれ。」と言いながら

ドッキドキの鼓動と息を整える。


「ミューはこれ、ニュイはこっちだな。」


ガサゴソ、ダンボール箱の中をあさり、

サージュが、「つけてみ。」と

ニヤニヤしながら、それぞれに何か手渡す。

 

 にわかにキャッキャとふたりがはしゃぎだした。


 なんだ? 何を渡した?


 俺は、不自然極まりないのだけど

眠たいです、アピールのちの上半身ストレッチで

体を伸ばして様子を伺い、その瞬間、

怒涛の旋律、萌えの稲妻を全身に喰らった。


 もふもふ肉球手袋に、もこもこ獣スリッパですとぉお?!


 俺至上初フルセット装備謁見!


 ふたりがふざけ合って「ワン! 」とか「ニャン! 」とか

そんなポーズで、「ワン! 」とか「ニャン! 」とか

ワンニャンパラダイスですかっ!

リアルわがままペット様ですかっ!

俺ご主人様立候補させて頂けるなら、最高級のご奉仕させて頂きますっ。


 良かった。席に戻ってて。

良かった。この世界にこれて。

脳内録画1テラバイト分奉納させてもらいました。


 気絶寸前、魂半溶解の俺にサージュが

こそっと耳打ちをする。


「童話の国に入ると、ふたりは毎回この姿なんだぜ。

どーよ? 早く行きたいだろ? 」


 うおおおおおおおお。


 思わず叫んで立ち上がる俺に「うっさい! 」と

サージュが、ゲンコツを振り下ろす。


 あらゆる意味で、俺、逝きそうです。



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