ミチルだけどチルチル
復活が早いのか、元から落ち込んで無かったのか
俺達の言葉は、無用な心遣いだったようで
ひとしきり、例のポージングに対して掛け声をかけさせられて
もうこれは、逃げられないイベントなんだと
辟易しつつも、ちょっとだけ面白くなってきてたりして、
こういうの嫌いじゃない自分に少しビックリする。
「では、サージュ様、どうすればアレ出来ますか? 」
「おお、ソレな。色々アレして、見つけたさ。」
なんで、通じてるの?
アレ、ソレ、アレ、ドレ、熟年夫婦かっ。
「異種を受け付けないのなら、
同種であれば良いんじゃないかって思ってね、
試行錯誤の末、たどり着いた方法があるのさ。」
「難しい方法、ボクは苦手。」
「大丈夫。ちっともさ。シンプルで簡単。お前さん達なら出来るよ。」
サージュでさえ、入国出来ても、なんも出来ない。
そんな所に俺を含む、このヘッポコトリオが入って何が出来るのか。
・・・つーか、その方法あるんなら、サージュ達がやれば良いんじゃないの?
「ミチル、お前さん、方法あるなら
自分たちですればいいって、今、思ったろ?」
図星、的中、俺の心読んだのかっ?
俺は「えー。そんな事、なんで? 」と
しどろもどろになりつつ答える。
「だってな、出来る奴がやりゃぁいいって
思うのが普通だろうよ。私は少なくとも、そう思うさ。」
なるほど、エスパー的な話ではなく
ごく自然な考えからくる予測だった訳ね。
ちょっと残念。
「勿論、やったよ。方法見つけて、実践したさ。
私だけじゃなくて、ラボチームに司書官、有志募ってね。」
「それで、サージュ様、結果はどうだったんです? 」
「出来なかった。」
「出来なかった? 」
「手を変え、品を変え、繰り返し何回も行ったが、出来なかった。
ナニカが多くて、ナニカが足りない。そのナニカは未だにわからん。」
「わからんって、ばぁちゃん、
そのナニカっうのが、重要なんじゃないの?」
「うーん。そうでもない。」
「はいっ?」
何て切り返し、ナニカ足らんし、多いしで、何にも出来ない、
ナニカは何かわからん、でも、重要じゃない、だと?
スフィンクスのなぞなぞかっ。
「私らが入っても意味をなさない事が、わかったから
重要じゃないんだよ。」
「なんで、俺達なの?」
「さぁ、そっちはクラルテ嬢ちゃんに聞きな。」
クラルテかぁ。あの女王婆さんの娘だろ。
真実の指輪の光に照らされた女王婆さんは確かに
高貴な美があったが、美人とか可愛いとかっうんじゃなく
なんつーか、俺の好みではないのだ。
それに、あの指輪自体が、胡散臭いもんな。
まぁ、いいけどさ。壊した指輪の代償だし、
俺自身が、行くって決めたし。
「ばぁちゃん、行き方教えてよ。
とりま、行かなきゃ話になんないっしょ。」
「そうだな。よし、じゃ、始めっか。」
その言葉に俺達は緊張した面持ちで、姿勢を正す。
サージュはスッと立ち上がり
緋色の袂を2,3度大きくひるがえして・・・座りなおした。
「座るんかいっ! 」
「いやさ、袂、ケツに引いちまっててさ。座り悪くてな。」
「しるかっ!」
やば、またミューとニュイに怒られると身構える、が、
ふたりとも何も言わない。
それどころか、しれっとした顔でサージュを見ている。
サージュも、さすがにバツが悪かったのか
「すまん。」と言って、大きく咳ばらいをした。
「よく聞きなよ。童話の国の住人に受け入れられる方法は、
童話の国の住人になる事。童話の国の住人と化して入れば
同種と認められ、受け入れられるのさ。」
ん? 住人になる?
俺がサージュに尋ねるより早く、
ミューが首を横に大きく振って
「童話の国の住人になれと? 今更無理です。
住む国を変えるとか。私はイヤです。」と、拒否をし
続けてニュイも「お役所に行って、移転届とか、ボクやだな。」と
そっぽを向いた。
「違う、違う。移転とか、移住とか言ってない。
住人と化すって言ったろ?
あーなんて説明すりゃいいんだぁ。」
あーそういう事ね。
説明を理解した俺は、頭を抱えるサージュに助け舟を出す。
「住人に化けるって事だろ?なんちゃって住人、的な。」
「そう! それだ! 」
手をポンと叩いて、サージュは俺を指差し
「そうそう。それそれ。」と手をパタパタと振った。
「ああ。なるほど。それなら、私、出来ます。」
「ミューがするなら、ボクも。」
ふたりもガテンがいったようで、顔を見合わせてコクリと頷く。
「そんで、俺達、住人に化けるって具体的に何するの?
コスプレとかするの?」
「コスプレってわからんが、なりきりゃいいさ。」
「なりきる? 」
「んーと、だなー。」
余程、説明がややこしいのか、うーんとうなりつつ
サージュは、しかめっ面で唇の横を指先でトントンと叩く。
あれ、これって。
ミューも考え事をする時、こんな仕草してたな。
ミューとばぁちゃん、
師弟関係とか、血縁関係とか、なんか関係あるんかな?
絶対、姉妹じゃないのは確かだから、まぁいいや。
「うん、そうだ、もう、そのまんまでいこう。
説明考えるのも邪魔くさい。」
そう言ってサージュは、やたらスッキリした顔で
さっと立ち上がると、俺を指差して
「オマエさんはミチルだけど、チルチル。」と言った。