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謁見の間

 足元の扉に勢いよく飛び込んだのにもかかわらず、

俺は立姿勢のまま少しつんのめった状態で あの空間から外に出た。

先に出ていたニュイが、少しイラッとした顔で俺を見ている。

 

「ようこそ。我が国、我が主の城、ビブリオテケムセイオンへ。」


後から出てきたミューが、キラキラした笑顔で両手を広げ俺を歓迎した。


 ミューの指し示す先に見えるモノは、鬱蒼とした木々の中にそびえ立つ

ボロッボロの小汚い建物だった。

城って言われれば城に見えん事もないが、どっちかっていうと

大掛かりなホラーハウス、というか何十年も放置された

巨大アミューズメントパークのシンボル城の成れの果て的な異様な雰囲気を醸し出している。

どう考えても ヤバい物件。

 

「さぁ! 行きましょう! 」


 鼻歌まじりに先導して歩き出すミューに対して ここに入るのか? と

躊躇して動けない俺に ニュイが近づいてきた。

そしてジェスチャー付きの

「アレなんで、アレですけど。」をボソッと吐き捨てる。

行っても地獄、行かなくても地獄。

同じ地獄なら行かなきゃ損損! ええぃ! 頑張れ男の子!

何とか自分を奮い立たせて 俺はミューの後に続いた。


 オカルト要素満載の木々の間を抜けて、

以前 何が咲いていたかもわからない花壇を横目に

とにかく、近寄るな危険の看板や黄色と黒の立ち入り禁止のトラテープが張られてないか注視して歩く。

ギシギシ軋む涸れた池に掛かった太鼓橋を恐る恐る渡り、

幾度か後ろを歩くニュイに蹴飛ばされながら、

なんとか無事に大きな木の扉の前に立った。


グガガガガギゴー


 おおよそ扉の開く音の形容じゃない音を立てて扉が開き 

ゆっくりと俺は城内に入る。


 思った通り、いや、予測を上回る廃墟ぶりに正直俺はビビった。

ホラーは苦手なんだよ、怖いのダメなの。

口から今にも飛び出しそうな言葉をグッと飲み込む。

見透かした様にニュイが 俺を見て鼻で笑う。


「こっち! こっちですよ! 」


はしゃぐミューに引っ張られて 長い廊下を歩き いくつもの角を曲がり

俺は素晴らしく豪華で美しかったであろうと想像の付く

ズタボロの【謁見の間】にたどり着いた。


「クラルテ様ぁー! クラルテ様ぁー! 」


ミューは一際大きな声を出しクラルテ様とやらを呼んでいる。

クラルテ・・・出てこんでいいわ。

マジで・・・出てくるな。

念仏の様に俺は唱え続けた。

 

確かにクラルテに会わなきゃ、俺の明日は来ない。

会うというイベントは俺の為に必要不可欠で絶対回避しちゃならない。

でも、しかぁしっ! ここははっきり言おう。

さっきも言ったが、俺はホラーが嫌いだ! 怖いの大嫌いだ!

 ここに来る前にミューからクラルテ様の事は聞いてはいる。

彼女は「女王クラルテ様は、お優しくて、

お美しくて、それは眩い光のようです。」と

目をキラキラさせて言ってた。

んな訳ないっ! って今の俺は断言する! 言い切れる!

何故ならば、ミューが最初に話したのは、この城の事!

言った城と来て見た城の全貌が話と違う!

違うどころじゃない。真逆だ! 詐欺だ! 誇大広告だ!

美しく豪華絢爛? いやいや、廃墟! ここ廃墟だから!

その一連を鑑みてクラルテを想像すると、

もうそれは怪物、化け物、クリーチャー。

恐怖の対象でしかない。


「なに ビビッてんだか。小心者が。」


あからさまに見下してくるニュイに、反論しようとしたその時

固い棒の様なモノが 俺の背中に触れた。


「ひぃっ!」


変な声を発しつつ、俺は後ろを振り返る。


「にょおおおおお!ばっ!ばっ!ばばああああ! 」


思わず叫んだ瞬間、ニュイの飛び蹴りをまともに食らって 俺は気を失った。


 僅か5分あったか、なかろうか位の意識混沌の中、俺は夢を見た。


 

 金色に光る絶世の美女が 泣いていた。



 ザッバアアアア!


大量の水を浴びせられ 溺死寸前の所で俺は目を開けた。


大きなバスタブを抱えて心配そうにしているミューが見える。

・・・バスタブ満タンの水を俺にかけたのだと理解する。


「良かったぁ。心配したのですよぉ。」

「良かったじゃねぇええわっ! 危うく溺死するとこだったわっ! 死ぬとこだったわっ 」

「あら死ぬ?! もう、ニュイが、蹴ったりするからいけないのです。」

「ちげええええっ! 溺死よ! 水で溺死! 」 

「ニュイ、反省して下さい! 」

「ボクが悪いの?! なんで?! 」


 俺が溺死しそうになった訴えが、全く届かない。

ずぶ濡れの俺の頭の上で 喧嘩が始まる。

あれ? これ 前もあったよね? デジャヴかしらぁ?なんて思ってると

俺の鼻先すれすれに 見知らぬ老婆のドアップが現れた。


「ばっばっ!」

ばばぁと叫びそうになった俺の口をしわしわの固い手が塞ぐ。


「騒ぐな。やかましぃぞぇ。そこの二人も。」


 それを聞いて、すぐさまミューとニュイが 跪く。

そして 俺は理解する。やっぱり詐欺だ、ミューは噓つきだ。

この老婆、多分、クラルテだ。

なぁーにが、お美しいだっ。眩い光だっ。

赤黒い肌の木の棒みたいな婆さんじゃねぇか。

ざんばらな白髪の髪に大きな鷲鼻。しゃがれた声。

どこをどう見ても、どのポーズを切り取っても、

童話やファンタジー映画で出てくる悪の魔法使いのお婆さんじゃねぇかっ。

笑わせんな!俺の明日は真っ暗じゃねぇかっ!


 恐さもマックス超えると怒りになる。


俺は今、超絶不機嫌だ。




.


 


 









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