国営大図書館
敷地内といっても、まだ建物は見当たらなく
俺達は深緑色の葉が青々と茂る生垣の通路を進んでいく。
道幅が広いので圧迫感は左程感じはしないが、
そこそこの高さのせいで立体迷路を歩いているみたいだ。
一本道の通路を直角に2回曲がると風景が一変した。
大きなミモザの木が、円を描くように立ち並び
その円の中心に大きなオリーブの樹木が、高々と立ち
銀白色の葉裏を風に揺らしている。
「でけぇ。こんなオリーブの木、見た事無い。」
「大図書館のシンボルツリーですよ。」
「空の上から見ても、ここが大図書館だとわかる。」
「え? ニュイ、空飛べるの? 」
「飛べる訳ないだろ。バカか。」
小さく、握りこぶしを振りかざし、
ニュイのちっちゃい頭めがけて振り下ろす・・・想像だけする。
「静かですね。」
レンガで舗装された道をカツカツと歩きながら、
しきりに、ミューは周りの様子をうかがう。
「いつもなら、誰かしらと会うのですが、
ここに入ってまだ、誰とも会ってません。」
「皆館内にいるんじゃないの?」
「そうだと良いのですが。」
ズズズズズズッ。
地鳴りのような音が、奥から聞こえた。
ミューは足を止め、急に険しい表情になり
「急ぎましょう。」と駆け出した。
俺とニュイも、すぐその後に続いて走る。
国営大図書館と書かれたアーチをくぐると
緑で囲まれた大きなガラスの箱の様な建物が目に飛び込んできた。
ガラス面が光を反射し、キラキラと輝いている、。
近づくにつれ、それがとてつもなく大きい建物だとわかった。
外からでは、構造も何もわからないが、
うちの近所に出来たショッピングモール位の大きさはある。
ミューは、すでに正面入り口に回り込んでいたが、
「こっちはダメです。開かないっ。」と言い残し、走り去っていく。
「東かっ。」
ニュイが走り出す。俺もついて走る。
建物を大きく迂回すると、なだらかなスロープのついた階段が見えてきた。
一息つく間もなく、ニュイと俺は一気に駆け上がる。
階段の踊り場で、向こう側から上がってきたミューと合流する。
ズズズズズズッ。
凄まじい音と共に、さっきまでなかった揺れを感じる。
「なにが起こってんだっ?!」
「わかりません! とにかく急いで! 」
正面の階段を上り切り、一面ガラス張りの壁の一画にミューが手をかざす。
キュートゥルルルル
小さく高い電子音がして、ミューの目の前のガラスの壁が消えた。
「良かった、開いた。入りましょう。」
駆け込んでくふたりの後ろを俺は正直ビビりながらついて行く。
入り口を抜けると、天井の高いエトランスホールになっていて
全面ガラス張りの壁から、差し込んだ日差しが床の上に光のすじをつくり
幾重にも重なり輝いている。
エトランスホールの奥に、高いガラスフェンスが見えた。
ふたりはその角を曲がって行く。俺は慌てて後を追う。
エトランスホールを突っ切り、高いガラスフェンスにたどり着くと
1階から天井までぶち抜いた巨大な吹き抜けのあるフロアーが見えた。
フロアーの中央はこんもりと盛り上がり、丸い山の形になっていて
この1階のフロアーを囲む様に各階にスロープ付きの通路があり
全ての階を行き来できる構造になっている。
「下です! 」
俺達は、なだらかなスロープを一気に駆け降りる。
下に降りるにつれ、ホールの中央にあった丸い山が巨大な球体である事に気付く。
「あれは何?!」
「国定文庫収蔵庫だ!」
ズズズズズズッ。
さっきより、音も揺れも激しい。
危うく転びそうになり、スロープの手すりに摑まる。
ズズズズーン。
音が鳴りやむと同時に揺れが収まる。
俺達は、また、下に向かって走り出す。
下に近づけば、近づく程、音は大きくなり、揺れはひどくなる。
手すりに摑まり、揺れをしのいでる間、
俺はある事に気付く。
ちょっと前に見た時、球体だと認識出来たモノが
今や半球になってる。
「沈んでる? 」
微弱の振動が起こる中、滑り込む様に1階のホールにたどり着く。
たどり着いて分かった事が3つ。
地響きと揺れは、この国定文庫収蔵庫なる球体が
沈んで行くから起こるという事。
今、球体は頭3分の1だけ、ホール内に発露しているという事。
そして ホールのあっちこっちに、人が倒れている・・・という事だ。