表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/71

デキル男、大仏キューピー・ガリバーさん

 「気を付けて。行って帰りー。」


大きな体の大きな手を振って、キューピー声のガリバーさんに見送られながら

俺達は大図書館目指し、森を進む。


「ミュー、何か受け取ってたけど、それ、何? 」


ミューは別れ際に、ガリバーさんから小さな紙袋を手渡されて

それを大事そうに抱えている。


「ああ、調合薬と傷薬ですよ。」

「薬? ああそっか、ガリバーさんって薬師なんだよね? 」

「とても、優れたお薬を作られてます。」

「しかも、ガリバーさんの薬は、使う相手を選ばない。」


 人でも、動物でも、植物でも、命のある存在に対して

用途が同じであれば使えるらしく、

一家に一つの常備薬として有名らしい。


「城にもある。」


城の常備薬って、王国御用達じゃねぇか。

大仏キューピー・・・やるな。


「ずーっと薬師なのか?」

「いえ、以前は違ったそうです。私が生まれた頃にはもう

 名の在る有名な薬師さんでしたが。」

「そうなんだ。あのさ、ちょっと気になったんだけど

 俺の知ってるガリバーとガリバーさんって繋がりあるんかな? 」

「繋がり?」


俺は、俺の世界の童話の中にガリバーって男がいて

それは、すげぇ巨人で、髪の毛とか杭で打たれて、でもそれ起きたら取れて、

などと、小さい頃読んだ絵本の覚えてる絵を説明した。


「ガリバー旅行記、ですね? 」

「おお、それそれ、そんなやつ。」


俺は少し得意になって、こんなシーンもあった、

なんて話して聞かせる。

きっと、『 まぁ、お詳しいのですね。』と

ミューは俺に、ときめくに違いない。


「それは、第1篇のお話のガリバー旅行記ですね。」

「ガリバーの話は4編ある。第1篇はリリパット国渡航記。」

「ガリバーが、巨人になるんじゃなく、漂流して小人の国に行きつくお話です。」

「第2篇はブロブディンナグ渡航記。ここではガリバーが、小人になる。」

「巨人の住む国でしたからね。」


お、『 お詳しいのですね。』これ、俺のセリフだああっ。


「子供向けとして読まれてはいるが、本来、ガリバー旅行記は風刺小説だ。」

「第1篇と第2篇が、児童文学として扱われたので、冒険のお話って形で

 幼児向けの絵本になったのでしょうね。」

 

 さようでございますか。お勉強になりました。


「知らなかったのか、オマエ。」


 唇の端をめくり上げ、とてつもなく意地悪な笑みを浮かべて

ニュイは俺を見る。

けッ、知らねーわ、そんなもん、知らんくても立派に成長して来とるわ。


「それで、どうしたのです? 」

「あ、うん、ここってほら、童話の世界を守ってるじゃない?

 だから、童話の主人公が、存在するっーか、

 ガリバーとガリバーさんと、」


 説明に困っていると、ニュイが

「同一人物か、って事だろ? 」と辟易した顔で言う。


「さぁ、どうでしょうか? でも、有り得なくもないです。」

「と、いうと?」

「私の拙い説明より、大図書館にいらっしゃるサージ様に御教授頂いた方が

 わかりやすいと思うのですが、」


 そう言ってミューは暫く、んーっと考えて、

「勉強中なので上手くお話出来ません。」と笑った。


 ただ、話の中の登場人物は、ちゃんと存在し生きているという。

ある条件を満たせば、彼らに会う事も、話す事も可能で

その方法を知っているのは、女王クラルテと大図書館のサージのみ。

とにかく、行かなきゃいけない、行かなきゃわからない、って事だった。



 何度か目の大きく、くねった道を進むと

ぽっかりと口が開いた様な景色が見えてきた。

木立の間から、差し込む陽の光と違って、かなり明るく、白く光って見える。


「出口が見えてきましたね。もうすぐリブレリー村ですよ。」


やれやれ、やっと抜けるか。俺は安堵のため息を吐く。

ふたりもホッとしたのか、声のトーンが明るい。

三人並んでザクザクと歩く。


「村、ってどんなとこ?」

「村は村ですよ。」

「ボク、山桃のジュレミルク飲みたい! 」

「いいですねぇ。私はオレンジペコ、ナッツケーキ付きがイイです。」

「じゃあ、ボクはアップルパイだ。」

「あの、あのさ、」

「何? 」

「なんですか? 」

「結局、ウルって何だったの? 」

「え? 」


 なんかふたりの足がピタっと止まり、表情が固まった。


「だから、ウルだよ。」


 返事もせず、ふたりとも足早に歩きだす。

聞こえてないのかと思い大きな声で言ってみる。


「ウル! ウルだよ。 」

「バカっ! 声がデカいっ!」

「へ? 」


ザザザザザッダダダダダッ。

何か来るっっ?!


「バカ! 立ち止まんなっ! 」

「逃げますよっ! 出口まで、走りますよっ! 」



 俺達は全速力でゴール目指して走る。

 俺達は、今、風になる。



 なんて言ってる場合じゃねぇえええっ。

何起きてんのっ? 何が走って来てんのっ?

10文字以内の説明求むっ!




「出口だっ!」


叫ぶように、ニュイが言った。



やっと森を抜ける。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ