デキル男、大仏キューピー・ガリバーさん
「気を付けて。行って帰りー。」
大きな体の大きな手を振って、キューピー声のガリバーさんに見送られながら
俺達は大図書館目指し、森を進む。
「ミュー、何か受け取ってたけど、それ、何? 」
ミューは別れ際に、ガリバーさんから小さな紙袋を手渡されて
それを大事そうに抱えている。
「ああ、調合薬と傷薬ですよ。」
「薬? ああそっか、ガリバーさんって薬師なんだよね? 」
「とても、優れたお薬を作られてます。」
「しかも、ガリバーさんの薬は、使う相手を選ばない。」
人でも、動物でも、植物でも、命のある存在に対して
用途が同じであれば使えるらしく、
一家に一つの常備薬として有名らしい。
「城にもある。」
城の常備薬って、王国御用達じゃねぇか。
大仏キューピー・・・やるな。
「ずーっと薬師なのか?」
「いえ、以前は違ったそうです。私が生まれた頃にはもう
名の在る有名な薬師さんでしたが。」
「そうなんだ。あのさ、ちょっと気になったんだけど
俺の知ってるガリバーとガリバーさんって繋がりあるんかな? 」
「繋がり?」
俺は、俺の世界の童話の中にガリバーって男がいて
それは、すげぇ巨人で、髪の毛とか杭で打たれて、でもそれ起きたら取れて、
などと、小さい頃読んだ絵本の覚えてる絵を説明した。
「ガリバー旅行記、ですね? 」
「おお、それそれ、そんなやつ。」
俺は少し得意になって、こんなシーンもあった、
なんて話して聞かせる。
きっと、『 まぁ、お詳しいのですね。』と
ミューは俺に、ときめくに違いない。
「それは、第1篇のお話のガリバー旅行記ですね。」
「ガリバーの話は4編ある。第1篇はリリパット国渡航記。」
「ガリバーが、巨人になるんじゃなく、漂流して小人の国に行きつくお話です。」
「第2篇はブロブディンナグ渡航記。ここではガリバーが、小人になる。」
「巨人の住む国でしたからね。」
お、『 お詳しいのですね。』これ、俺のセリフだああっ。
「子供向けとして読まれてはいるが、本来、ガリバー旅行記は風刺小説だ。」
「第1篇と第2篇が、児童文学として扱われたので、冒険のお話って形で
幼児向けの絵本になったのでしょうね。」
さようでございますか。お勉強になりました。
「知らなかったのか、オマエ。」
唇の端をめくり上げ、とてつもなく意地悪な笑みを浮かべて
ニュイは俺を見る。
けッ、知らねーわ、そんなもん、知らんくても立派に成長して来とるわ。
「それで、どうしたのです? 」
「あ、うん、ここってほら、童話の世界を守ってるじゃない?
だから、童話の主人公が、存在するっーか、
ガリバーとガリバーさんと、」
説明に困っていると、ニュイが
「同一人物か、って事だろ? 」と辟易した顔で言う。
「さぁ、どうでしょうか? でも、有り得なくもないです。」
「と、いうと?」
「私の拙い説明より、大図書館にいらっしゃるサージ様に御教授頂いた方が
わかりやすいと思うのですが、」
そう言ってミューは暫く、んーっと考えて、
「勉強中なので上手くお話出来ません。」と笑った。
ただ、話の中の登場人物は、ちゃんと存在し生きているという。
ある条件を満たせば、彼らに会う事も、話す事も可能で
その方法を知っているのは、女王クラルテと大図書館のサージのみ。
とにかく、行かなきゃいけない、行かなきゃわからない、って事だった。
何度か目の大きく、くねった道を進むと
ぽっかりと口が開いた様な景色が見えてきた。
木立の間から、差し込む陽の光と違って、かなり明るく、白く光って見える。
「出口が見えてきましたね。もうすぐリブレリー村ですよ。」
やれやれ、やっと抜けるか。俺は安堵のため息を吐く。
ふたりもホッとしたのか、声のトーンが明るい。
三人並んでザクザクと歩く。
「村、ってどんなとこ?」
「村は村ですよ。」
「ボク、山桃のジュレミルク飲みたい! 」
「いいですねぇ。私はオレンジペコ、ナッツケーキ付きがイイです。」
「じゃあ、ボクはアップルパイだ。」
「あの、あのさ、」
「何? 」
「なんですか? 」
「結局、ウルって何だったの? 」
「え? 」
なんかふたりの足がピタっと止まり、表情が固まった。
「だから、ウルだよ。」
返事もせず、ふたりとも足早に歩きだす。
聞こえてないのかと思い大きな声で言ってみる。
「ウル! ウルだよ。 」
「バカっ! 声がデカいっ!」
「へ? 」
ザザザザザッダダダダダッ。
何か来るっっ?!
「バカ! 立ち止まんなっ! 」
「逃げますよっ! 出口まで、走りますよっ! 」
俺達は全速力でゴール目指して走る。
俺達は、今、風になる。
なんて言ってる場合じゃねぇえええっ。
何起きてんのっ? 何が走って来てんのっ?
10文字以内の説明求むっ!
「出口だっ!」
叫ぶように、ニュイが言った。
やっと森を抜ける。