ミューとニュイ
「だから、話を整理するとだな、俺にそのナントカっうやつが、」
「ナントカじゃないですよ。クラルテ様です。」
「ああ、そのクラルテが、」
「呼び捨てにするな。クラルテ様だ。」
「あああ、そのクラルテ様が、俺に頼みたい事があって俺を呼んでると、
で、そいつの」
「そいつじゃありません。クラルテ様ですよ。」
「あああああ、クラルテ様の所に俺を連れて行く為にお前らが来たって訳ね。」
「オマエら、ではない。ミューとニュイだ。」
「ああああああ、はいはい。ミューとニュイね。」
「アアアアアハイハイ・・・いらない。」
さっきから この調子で、俺は何か言う度に注意され
律儀に訂正させられながらも
この二人の女子から、俺がここにいる理由を聞いている。
の、だが。
全く現実的ではない不透明な話よりも、まず、これからの俺に重要な関りを持つかもしれない、
この二人の女子をちゃんと観察せねばなるまいと俺は思った。
勿論、下心はない。・・・ないと思う。
まずは、向かって右の俺の予想、ツンデレボーイッシュ系女子。
俺が、咄嗟に自己防衛、危険回避の為、胸を掴んでしまい
そのお返しに強烈なビンタを放った黒髪の女の子ニュイ。
背は俺の肩位だから、150ちょいって所だろうか。
真っ黒なビスチェと、同じく真っ黒なショートパンツに やっぱ真っ黒なニーハイブーツ。
勝気そうな赤い瞳とツンと尖った鼻の小悪魔系女子。
正直言って・・・・・大好物です。
しかし、このスレンダーな体からは、想像もつかない あのビンタの破壊力。
グーパンなら俺、成仏してただろうな。・・・気を付けよう。
で、左の白い靴の君。ミュー。
言葉使いが丁寧で、ほんわかしてて 癒し系の天然って感じかな。
背はニュイより少し大きいか。
ロリータ系の真っ白いショートのワンピースと同じく真っ白いロリータ靴。
白く抜ける様な肌に銀色の髪。大きなくるっとした紫の瞳。
はっきり言って・・・・大好物です。
だけど、なんだろう。あのツンツンくだりの丸太抱え込みジャンプ。
直撃、即終了だったな。危険極まりない。・・・気を付けよう。
「おい! 聞いてんのか? 」
ニュイに頭を小突かれて、俺の首はメキョっと変な音を立てた。
「で? どーするんだ? 行くのか? 行かないのか? 」
「行かないって選択肢あるの? 」
「ありますよ。でもソレはアレなんで、アレですけど。」
「ミュー、言ってる意味わかりません。」
「馬鹿か? 行かないっう事はだな、」
ニュイがジェスチャーまじりで答えた。
「アレなんで、」
右親指で首筋に横線
「アレですけど、」
その親指を真下にグイン
「だ、わかったか? 」
わかった・・・デスですね。断るイコール死亡フラグ成立。
行く一択じゃねぇか。
俺の狼狽した姿を見て、ミューが優しく笑いかけて言う。
「大丈夫。怖くないですよ。」
どっちがですかぁああっ! どっちの内容で、そのセリフ使った?!
「で? 」
「はい? 」
「行きますか? やめますか? 」
俺には このミューの問いかけが
『逝きますか? 病めますか? 』って聞こえて 一気に脇に変な汗が噴いた。
「行きます。行かせて下さい。」
早口で俺はそう言った。
活字にしたら『生きます。生かせて下さい。』になるんだろうな、なんて思いつつ。
どこまで歩いても端っこのない この空間の出口は 意外にも簡単に見つかった。
ミューとニュイの後ろをついて歩くこと わずか20歩たらず。
彼女達は床の一部を指さして 出口だと言う。
は? 何が? どこが? と訝しがる俺をよそにミューが その床に触れた。
「開いた。」
「当たり前だろう。扉なんだから。」
「扉? 出口? 足元に? 俺めっちゃ歩いて探したのに、足元にあるとか! 」
こんなのわかる訳ない! と文句を言う俺に
ちゃんと表示されている、とニュイはあきれ顔で吐き捨て
ぴょんっと床に開いた扉に飛び込み消えた。
「ほら、よく見て下さい。この床だけ緑色で発光してるでしょ。それから、ここ。」
ミューの指さす場所に顔を近づけてみる。
【PUSH】と書かれた表記の上に
例の【ドアから出る人】のピクトグラムが表示されてあった。
間違いない・・・・・・出口だな。