ニュイ下僕計画( 仮 )
とりあえず、城の大門扉を出てすぐの場所に
俺は持っていた、つうか、持たされていた荷物を並べた。
ここに来た時は気付かなかったが、この整備された石畳の城郭を見る限り
あの廃墟の城が、かつては立派で美しい城であったと推測できる。
女王婆さんやミューの言った事は、嘘ではないのかもしれない。
今から、色々とミューが説明するって言ってたな。
よし、真面目に話聞こう。
俺はちゃんと姿勢を正してミューを見上げた。
「さてと、始めましょうか。まずは、アイテムの用途からですね。」
ミューはそう言って、指先で指輪をつまみ上げ、俺の手の上にのせた。
銀色に光る小さな指輪には、細かい唐草細工が、丁寧に施されていて
指輪の真ん中に赤い小さい石がはまっている。
見るからに高価で、もし無くしたら、と想像するだけで胃が痛みそうだ。
「その指輪は、光の指輪です。主に通信、連絡手段に使います。
持ち主の能力にもよりますが、魔力を貯めて使う事も出来ます。」
「魔力を貯める? 」
「ええ、ある一定以上の魔力を貯めて、ドーンって放出出来るのですよ。
それが破壊の力なのか、回復の力なのかは持ち主の潜在能力次第です。」
「ええ、じゃあなに、俺も貯めりゃぁ、ギガデ・ナンチャラとか、
イオ・ナンチャラーとか出せるの?!」
「うーん、ギガナントカやイオナンヤラァは、わかりませんが、
ミチルの能力次第ですよ。持ち主の能力を反映しますので。」
そうか、そーかっ!
俺、撃っちゃう? 俺、やっちゃう?
俺の中の少年が、一気に活気づく。
「ふんっ。」ってニュイが、鼻で笑ったが、そんなの気にしません。
気になりませんぜ。
「なくさないうちに、指にはめて下さいな。どの指でも良いですよ。」
「え?これ無理じゃね?すげぇサイズちっせぇよ? 」
「大丈夫です。指輪が指に合わせますから。」
俺は左手の中指の先端に、言われた通り指輪を通してみる。
指輪は少し突っ掛かったが、嘘の様にスルっと奥まで入った。
さすが、魔法の指輪。あっという間に俺の指に馴染んだ。
「次に使い方ですが、連絡があったときは、指輪が震えて教えてくれます。
『 アロウ 』って言って受けて下さいね。
こちらからの連絡は、『 アプレ 』って言って
相手の名を告げれば良いだけです。」
「おお、スマホの『 オッケー 』とか『 ヘイ 』とかと同じな。」
「それは、知りませんが、まぁそんなトコなのかも。
それから、アロウやアプレ、覚えられないと思いますが、
心配ないですよ。指輪に文字が浮かぶんで。
勿論、ミチルの読める字です。」
なんか、トゲある言い方だなぁと思ったが、ここは気にしない。
それよりも、その先の魔力放出ドーンの説明をしてくれい。
俺は今、多分だが、キラッキラの少年の瞳になって、
放出の仕方を待っているのだ。
「で、次ですが、」
キタキタキタ! 魔法放出ドーン!
「これは、導きの本といって、」
「いわんのかぁーいっ! 」
期待して待ってた分、来なかった時のリアクションはデカい。
俺の声に反応して、小さくミューが、「キャッ! 」と驚いて、
その「キャッ! 」に反応して、ニュイが俺の腕を固める。
素晴らしい反応。さすが電光石火! なんて言ってらんねぇ。
痛い! まじで痛い!
「大丈夫? ミュー。」
「大丈夫。ビックリしただけ。ニュイは大丈夫ですか?」
お前ら、聞く相手違うだろっ! 大丈夫じゃないのは俺!
ミューが、安全だと認識し、ニュイが、俺から離れる。
過保護かっ? ビックリして、キャッって言っただけで
ニュイの対応っぷり、過保護過ぎだろ。
言いたい事いっぱいあるけど、
色んな意味で、イタすぎて言う気失せる。
「何か聞きたい事あったのですか? 」
放出のやり方を聞こうとしたら、ニュイが口をはさむ。
「どーせ、リベラシオンのやり方だろ?
能力のないバカな奴に限って、そーいうのやりたがる。」
「悪かったな、能力なくてよっ! 」
またもや、一触即発ムード。
俺とニュイは、相当相性が悪いらしい。
お互い睨み合ったまま、沈黙する。
この状況で、ミューは何事もなかった様に
「落ち着いた所で、次の説明しますね。」と微笑む。
落ち着いた? なにが? って言いそうになったけど、グッとこらえる。
言っても、どうせ、ミューには通じないし、
下手すりゃ、またニュイが襲ってくる。
俺も学習すんのよ。ここは、もうハイハイでいいや。
それよか、魔法放出、なんだっけ、リベラァー? だっけ。
それマスターして、俺、絶対、ニュイにぶっ放してやる。
俺は能力ないからな。やりたがるんだよっ。
でもさ、俺きっと強いと思うんだよなぁ。
ここの女王に呼ばれちゃうくらいだから。
と、なると、ニュイもタダじゃ済まんのだ。
うーん。さすがにそれは、可哀想かぁ。
じゃぁどーする?
ぶっ放し見せつけといてからの『俺に逆らうんじゃねぇぜ。』でいくか。
で、泣いて謝ってくるニュイに、『オマエは、今日から俺の下僕だ。』
『ミチル様、なんなりと。』・・・くぅうう、イケル!
「あのぉ、もしもし、説明始めていいかしらぁ? 」
ニュイ下僕計画(仮)の俺の構想タイムに、
しびれを切らしたミューが聞いてきた。
「いいんじゃね? どうせ聞いてもわからないだろうし。
バカだから。」
また、人を馬鹿呼ばわり。やっぱ、こいつにぶっ放そう。
うん。 俺は能力ないバカな奴だもんね。
今にみてろや、ニュイ! 俺は執念深いのだ。