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3 こがれるもの




 扇の鮮やかな黄。

 月の落ち着いた橙。

 骨の茫と発光する白。


 天空にも、地上にも新たな広彩を与えんとする銀杏。

 葉は音もなく空を舞い、音もなく地へ落ち、音もなく地で跳ねる。


 どこからかかっさらってきたか、秘泉からくんできたか、まっとうにか。調達方法はさまざまだが、どちらかが用意した酒の肴にしていた。


 まずは目だけで。

 その内に酔いが回り、全身で楽しみたい欲求が擡げ始めて、おとなしく座っていた縁台から飛び立つ。


 あいつが風で一気に集めた枝葉に実にと俺が狐火で燃やし、頃合いを見てあいつが風で器用に殻を取り出す。

 今度は全身への肴にする。

 

 橙のやわいが口には含めない果肉は火によってそげ落ち、露になった肌色の固い殻を割り、黄葉もみつ以前の銀杏の葉の色の実を取り出す。


 食べ過ぎるなよ。

 互いに注意をして、銀杏の焚き火の前で、膝を曲げて踵を地につけた状態で、ほくほくの銀杏の実をいただく。




 顔が真っ赤なのは、酒のおかげ。焚き火のおかげ。

 身体が温かいのは、酒のおかげ。焚き火のおかげ。


 心が温かいのは。

 酒と。

 焚き火と。

 銀杏と。




 別段何があったわけでもなし。

 ふと。

 何かの拍子に。

 こぼしてしまったのだろう。

 あふれださせてしまったのだろう。

 眼前の相手を意識して。

 意識してしまって。


 酒と焚き火に感謝するのだ。


 深く。

 ふかく、











『なあ、長老たちに見せつけてやろうぜ』


 消えるというのに、快活に笑ってみせるあいつに俺は誓ったんだ。


 美も知も才も技も想も。

 この身にあまねく浸みつかせる。

 骨にも肉にも血にも、魂にさえ同化させて、本物にする。


 あいつを迎えるまでに。

 どこの誰にも文句を言わせない。

 完璧な存在になってやる。と。


 あいつを驚かせてやる。と。










(2021.11.6)



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