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正義の味方、はじめました  作者: enforcer
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小さな星の小さな変化


 高所からの落下と成れば、只では済まない。

 

 軽い物ならば、或いは無事だろう。

 風に乗れる鳥の羽や、元々小さく軽い蟻などは、別にそのままに落とされた所でどうという事も無い。

 

 逆に言えば、速度と重さが在ればある程に被害は増す。


 多大な被害が出てしまうが、化け物を止める為には、其処までの事をせざるを得なかった。


   ✱


 爆心地とも言えるそのど真ん中では、巻き上がった煙が晴れていく。

 其処には、一人が立っていた。


 立っていたのは、ナオトではなく、青年である。


 ジッと見下ろす訳だが、その顔には勝ったという余韻は無い。

 寧ろ、したくない事をしてしまった苦味だけが残っていた。


 リアの力を受け継いだナオトだが、ちょっとやそっとの傷では止められない。

 その程度ならば、直ぐに復元してしまう。


 ならばどうすべきか、もはや復元や再生など出来ない程にするしかない。

 つまりは、即死させる他は無かった。


 原型すら留めない程に成ってしまったかつての仲間に、青年は鼻を唸らせる。

 

「……ばっか野郎がぁ」


 そんな声は、ナオトへと向けたモノと同時に、自分への向けたモノでも在った。

 もっと早く手を打っていたなら、こんな事をせずに済んだ。


 陣営を去るに当たり、手加減などせず、二度と戦おうなどと思えない様に、徹底的に恐怖を刻み付けるという事も出来た。

 例え、多少後味が悪かろうが、それならばリアとナオトは死なずに済んだ筈である。


「どうしてこう……俺って奴は不器用なのかぁ」

 

 後から後から【あの時こうして居れば】という上手いやり方が浮かんでしまう。

 だが、幾らそれを思い付いた所で、その場で実行出来ないなら意味が無かった。


 もはや、何を言おうとしようが、結果は変えられない。

 青年にすれば【結局自分は人食いの化け物である】という後悔が残る。


 最期に、かつての仲間を一瞥すると、スッと振り返った。


 倒すべき相手は倒したのだが、まだ事は終わっていない。


   ✱


 すり鉢状に成ってしまった其処から登り切ると、青年はハッと気付く。

 顔を上げれば、其処には派手な少女が手を差し出して居た。


「カエデ」

「ほら、掴まれよ」


 何かがこみ上げるが、ソレを飲み込みつつ、手を取る。


「よいしょ……っと!」


 グイと青年を引き上げるカエデだが、掴んだ手は放そうとしない。

 まるで【放したら失くす】とでも言わんばかりであった。


 そんな少女に、青年が何を言うより速く、カエデが口を開いていた。

 

「……で、アイツは?」


 首尾を尋ねる声に、言葉に詰まる。

 端的に言えば【殺してしまった】というべきなのだが、それは言いたくない。


「もう……居ない」


 遠回しな青年の声に、少女は「そっか」と一言返した。


 段々と、辺りを覆っていた煙が晴れていく。

 すると見えるのは、勝利とはとても言えない光景であった。


 組織が派遣した兵器の殆どは壊滅し、その残骸が残る。

 それだけでなく、街の中で戦ってしまったのだから、街そのものへの被害も大きい。

 建物は崩れ、その形を保っていても、穴だらけ。


 まるで、戦場の様な有り様。 それは青年が望んだ結果ではない。


 本来の計画とは全く違う結果に、青年は眉を寄せていた。


「こんな筈じゃ、なかったんだけどな」


 後悔を滲ませる青年の声に、カエデは少しは唇を尖らせる。

 如何に化け物を倒す為とは言え、失ったモノも多い。

 

「でも、あたし達は生きてるよ」


 居なくなってしまった者へと、掛けるべき言葉は多くは無い。

 それでも、生きている以上は、すべき事が残される。


「そう、だよな。 俺達、まだ生きてるよ」

「うん」


 手を繋ぎながら、顔を見合わせる青年と少女。


 以前に出掛けた際には、まだ二人の距離は遠かった。

 手を伸ばして届くかどうかという微妙さだったのが、今では、互いに手を取り合う程に近い。


 生死を共にしたという経験が、より距離を縮めたのだろう。


 但し、いざ二人の距離がより縮まんとした時である。

 青年の身体が動きを止めていた。


 思わず、目を閉じていたカエデも、来るべき感触が無い事に痺れを切らし、チラリと窺う。


 すると、其処には驚きの顔を浮かべる青年が見えた。


「おい? どした?」

「いや、なんか、身体が……動かない」


 何事なのかと見てみれば、なんと、青年の影が泡の様に膨らむ。

 ズズっと異様な音を立てながら、膨らみはある形を取った。


「カエデ。 抜け駆けなんてズルい」

「……あ、アヤ? 死んだんじゃ……」


 困惑するカエデの目には、間違いなく青年の影と成った筈のアヤが居た。

 それだけでなく、青年を背後から抱き締めてしまう。

 見える顔は、何とも言えない妖しい笑み。


「……死んだ? 私が? 別にそんな事は言ってない」

「え、だって……」


 少女にして見れば、亡霊でも見ている気分である。

 だが、確実にアヤ本人が顕現していた。

 

「だって私は、影だから……この人の」


 そう言うと、青年の肩へと顎を乗せて見せる。

 その様は、例えるなら大きな黒猫が飼い主に身を寄せる様な光景なのだが、ご丁寧にアヤの頭上には猫耳が形作られていた。

 

 こうなると、カエデも黙っては居られない。


「ふっざけんな! だったら今すぐ離れろ! もう済んだろ!」


 青年は無事に復活した以上、もはやアヤがくっ付いている理由が無い。

 ビシっと指差すが、アヤはううんと困った様に鼻を唸らせた。


「……申し訳ないけれど、それは、無理」

「が!? だ、なんでだよ!」

「だから言ってる……今の私は、この人の影だって」


 言葉少ないアヤだが、嘘は言っていない。

 影その物と化すことで、青年を助けはした。

 

 その代償は大きく、彼女はあくまでも青年の影としてしか存在して居られなく成ってしまったのだ。

 つまりは、この先、二人は離れる事が無いという意味でもある。


 光無き所に影は無く、影無き所に光も無い。


「いや、あの、アヤさん? それだと、トイレとか、風呂とか……全部丸見えなんじゃ」


 思わず、自分の未来に影が指した青年の声に、アヤはウンと唸った。


「……だいじょぶ……全部は、見ないようにするから」


 アヤが青年に語った【ずっと側に居るから】は嘘や比喩ではない。

 極単純に、文字通り、という意味である。


 青年は困るが、同時に熱さに気付いた。

 すわ何事かと見てみれば、カエデに文字通り火が点いていた。


「……あ~らら、そっかぁ……そんじゃ、その泥棒ねこを力付くでも引っ剥がそうかな」


 言葉は緩いが、轟々と燃え盛る様は実に恐ろしい。


「そんなに睨まれたら……怖いにゃん」


 ワザと煽る様に、青年に身を寄せるアヤ。

 直後、ボッと炎が巻き上がった。


   ✱


 多少の一悶着は在ったが、青年と少女は、総統の元へと辿り着けた。

 その際、どうにも困った様な青年と、釈然としない少女という、二人の顔に違いが在る。


「ご無事でしたか?」


 総統の声に、青年は難しい顔を見せた。


 無事と言えばそうなのだが、隣のカエデは頬を膨らませつつ凄まじい目で青年を睨んでいる。

 その目を例えるなら【浮気を見てしまい怒り狂っている】という風情であった。


 とりあえず、カエデの怒りは横へと置き、話すべき事が在った。


「これから、どうなりますかね?」


 総統の声には、一抹の不安が過ぎる。


 正義の味方と悪の組織とは、あくまでも陣営の呼び名に過ぎない。

 何方が正しく、何方が間違っているという事では無い。


 ただ単純に、色分けとして人がそう呼ぶだけだ。


 問題なのは、この先、必ず別の者が現れるという事に在った。

 倒してしまえば、次が湧き出す。 それを止める事は、誰であれ出来ない。


 だからこそ青年と総統は結託し、流れを止めようとした。

 その結果は、大惨事である。

 

 人の手に由って無理やり流れを塞き止めようとしたのだから、この結果は必然でもあった。


「どうって……そりゃあ、また次が出て来んだろうな」


 ナオトを倒してしまった以上は、予想は出来る。

 それが何処から出て来るにせよ、次が必ず現れて来るのは避けられない。


「そうですか……」

 

 残念そうな総統に、青年は軽く笑った。


「そう悩むなよ、総統さん。 良い手があるぜ?」


 ポンと出される青年の声には、誰もが目を向ける。

 総統は勿論の事として、側に寄り添うコユキとセラ、そして、今の今までジッと青年を睨んでいたカエデも。


「ソレは、いったい?」

「なぁに、簡単な事さ、俺達が、正義の味方名乗っちまおうぜ?」


 青年が言うままに解釈すると、看板を変えろ、という事になる。


 目を丸くする総統に、コユキとセラが顔を向けた。


「良いと思いますけど、総統」

「そうですよ、だってほら、それなら直接支援要求したって、文句言われなそうですし」


 意外にも乗り気な大幹部。


「そうだね、いーんじゃね」


 実に雑な返答だが、無理もない。


 カエデに至っては、もはや背負う看板などはどうでも良く、なんとか青年から影を引き離せないかしか考えていなかった。

 他の事などどうでも良いのだ。


 顔こそ見せないが、アヤは青年の側に居る。

 と言うよりも、文字通り一心同体なので否も応も無い。

 顔を出さないのは、単純にカエデが煩いからだった。


「……参りましたね、まさか、こんな事になるとは」


 長らく、悪の組織を引っ張って来た総統にすれば、今の結果は望んだモノではない。

 それでも、誰かが立たねばならぬのも事実である。


「これから、忙しくなるぜ? 宜しくな? あ~、正義の総統さん?」


 青年の茶化す声には、もはや言葉も出せない。

 この場の誰もが、まだ見ぬ敵に備えねば成らなかった。


   ✱


 宇宙の片隅。 辺境の銀河である天の川銀河。

 その銀河の中の小さな太陽系に属する星にて、小さな変化が起こる。


 それはいずれ、大きな変化を呼ぶかも知れない。




お読み頂き、ありがとうございました。

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