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正義の味方、はじめました  作者: enforcer
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独りぼっちの化け物


 大幹部と青年を乗せたまま、総統操る兵器はぐんぐん高度を上げていく。

 

 この間、青年の隣ではカエデが居たが、その顔はジェットコースターの時とは違い、笑っていた。


「なんだよ、随分余裕そうだが?」


 訝しむ青年に、少女は流し目を送った。


「だってよ、ほら、結局あたしの言う通りになったじゃないか」

 

 観覧車にて、少女は青年を悪の組織へと勧誘した。

 その際には青年は曖昧な返事しか返せなかったが、今の結果を見れば、間違いでは無い。


 形はどうであれ、青年は悪の組織と轡を並べて居た。

 

「……あぁ、そうだな」


 本来ならば、この場にはもう一人居るべき筈だった。

 敢えて、この場ではそれを言おうとはしない。

 

 彼女は最期に【ずっと側に居るから】と語っている。


 その意味を問う事はもはや出来ない。

 同時に、青年の浮かない顔は隠されて居なかった。


「なんだよ?」


 訝しむカエデに、青年は首を横へと振る。


「いや、なんでもないさ」

 

 悔やむ事は、いつでも出来る。 今すべき事はそれではない。

 だからこそ、青年は言葉をはぐらかした。


 はぐかしつつ、顔を上げて上に行こうとするかつての仲間を見る。


 雷を操るだけあって、如何にも派手な暗雲が実に似合う。


 内心では【思えば可哀想な事をした】と詫びていた。

 

 今のナオトは兎も角も、以前の彼は其処までの強さが無かった。

 その時点で、彼を役目から降ろすべきだったと思えてしまう。


 功績を重ねる内に、知らず知らずも彼とリアは自分達の実力を過大評価をし続けていった。


 コレだけ悪の組織を倒したのだから、自分達は強い正義の味方なのだ、と。

 敢えて裏方等に徹せず、青年は自分が前に出るべきだと後悔の念に駆られる。


 もっともっと速い段階で、サッサと二人を役から降ろして居れば、今の仕事もずっと楽だったろう。

 今は居ない大幹部も、その構成員も、街の人々も、死なずに済んだ筈である。


 降りないと言うなら、降ろす力は在ったのだ。

 

 例え嫌だと言われても、無理やりだろうとそれは出来た。

 何故しなかったのかと自分に問えば、もしかしたら、頑張ってさえ居れば、誰かの目に留まるかも知れない、そんな答えが浮かぶ。


 実際には仲間の陣営からは便利な道具としか見てもらえず、人々の関心も他の二人へと向いていた。


 皮肉にも、青年を一番見ていたのは、敵だった悪の組織。


 胸の内では【もっと上手いやり方はなかったのか?】と言うが、答えが出ない時点で、それは無いのと変わらない。

 実際に上手くやれていたなら、今頃は総統と打ち上げをしていた筈だった。


 だが、実際には総統と青年は同じ相手へと向かっている。


 然も、今回の戦いに報酬は期待出来そうもない。

 これだけの被害が出た以上、そんな事を問うている場合でも無かった。


   ✱


 離れようとしても、悪の組織が追い付いてくる。

 その事には、当然ナオトも気付いていた。


 大きな何かが接近しているのに、気付くなと言う方に無理がある。

 舌打ち漏らすと、身体を反転させる。


「……これからデッカイのぶっ放すんだからよ、待ってろ!」


 言いながら、雷を何本か投げ付ける。


 一本二本程度ならば、青年もそれを受け止めるが、全ては無理だった。


「あ!? くそ!」

 

 投げられる内の一本が、兵器を射貫く。

 ドンと派手な音と共に、総統操るソレは火と煙を吹き出していた。


『推進系が……これ以上は……』


 機械である以上、故障しては飛べない。  

 だがまだ追い付いてない以上、乗っている者達で何とかせねば成らなかった。


 顔を見合わせるコユキとセラ。


「どうする?」

「そりゃあ、何とかしなきゃね」


 セラの声に、コユキが手を突き出し、氷の塊を作り上げて行く。


「乗って!」


 かつては敵として相対した筈の青年に、コユキは声を掛けていた。

 今は敵同士ではなく、同じ目的を持った者同士と言える。 


「よっしゃ!」


 サッ青年が氷へと跳び乗るのに合わせて、セラは既に溜めを始めていた。


「押し上げる事しか出来ないよ!」


 仕事の打ち合わせとは違い、細々とした事は話し合っている暇が無い。

 それでも、この場の四人は言葉が少なくとも、相手の意図は察知できて居た。


 不思議なものであると、青年は思う。

 以前の仲間よりも、ずっと連携が出来てしまう。

 

 ソレはたぶん、自分の中に溶けたアヤのお陰ではないかと思えた。

 さあ行くぞと、思う青年だったが、トンと体に当たる感覚にきづいた。


「カエデ?」

「あたしも行くぞ! 置いてけぼりなんて、絶対やだ!」


 青年が何かを言うよりも速く、セラが「いっけぇ!」と吠えた。


 放たれる太い光線に由って、氷の塊は文字通りロケットの如く飛ばされる。


 自分と少女はナオトへと向かうが、対して、二人を送り出した総統と二人の大幹部は、落ち始めてしまう。


「頑張ってね!」「絶対彼奴をやっつけてよ!」

 

 コユキとセラからそれぞれ激励とも取れる声が贈られる。

 程なく、一気に距離が離れて姿は見えなくなった。  


   ✱


 セラとコユキのお陰で、また少し距離が縮む。

 だが、まだ今少し遠い。


 追い付くには、何かが要る。


「どうすっかな……」

 

 アヤの力のお陰で、雷は怖くは無い。

 ただ、防御だけでは決着が着かないのも事実だった。

 

 跳ぶ事は出来ても、飛べる訳ではない。

 日さえ落ちくれればと想いはすれど、太陽迄はどうこうできるはずも無い。


「ヒデオ! アレだ! ロケットだ!」

「はい?」

「空に飛ぶだろ! 次のエンジンに火を点けてさ!」


 カエデの言うソレは、所謂多段式ロケット方式の事である。

 最初のエンジンと燃料使い果たしたなら、それを切り離し、次のを点火する。


 だが、二人が乗っているのは単なる氷の塊で、推進剤もエンジンも付いては居ない。


「そら、どういう……」

「ごちゃごちゃ言うな! しっかり捕まれ!」


 言いながら、自分から青年へと抱き着くカエデ。

 いきなりの事に、青年は驚くが、それ以上にどういう訳か脇腹当たりがチクリと傷んだ。


「……ぃ……」


 まるで、誰かが抓った様にも感じしてしまう。 


「行くぞ!」


 声と共に、青年とカエデは一瞬で炎に包まれ、氷の上から姿を消していた。


 一瞬にして、視界が切り替わると言うのには青年は慣れては居ない。

 それでも、ナオトまでもう少しで届く所まで来ていた。


「テメェ!?」

 

 さしものナオトでも、飛べない筈の相手に追い付かれるとは思いも寄らない。

 最後の仕上げとして、カエデが全身全霊の力を込めて、青年を放る。


「必ず! 戻って来いよ!」


 落ち始めるカエデだが、青年は振り向かなかった。

 ただ、代わりに声を背中に受けながらも相手へと向かう。


「ようやく追いついたぜ! 待たせたな!」

「しゃらくせえ! 此処で殺してやる!」


 輝くナオトと、黒い霧を纏う青年がぶつかっていた。

 何方かと言えば、光輝く方が派手なのだが、その雷は青年の纏う影が吸ってしまう。


 追い付かれた時点で、ナオトは落ち始めていた。


 捕まえられてしまうと、青年の膂力から抜け出す事は難しい。

 雷で何とかしようにも、それが届かない。


 だからか、ナオトは悔しげな顔を青年へと向けていた。


「こんの、クソッタレが!? お前さえ、お前さえ居なけりゃあ!!」


 その声から察するに、リアを殺した負い目は残っているのだろう。

 意図せずしてしまったとは言え、それはナオトの心に影を指している。

  

 掴まえる程に近くに居るからか、それが余計に青年には解ってしまう。


「悪かったなぁ……もっと速く、ブチのめしてやれば良かったよ」


 もっと速い時点で、ナオトを止めてさえ居れば、結果は違ったかも知れない。

 であれば、今頃は引退した正義の味方として、二人は何処かでバカンスでも楽しんでいた筈である。


 二人の間に、子供がいたかも知れない。

 

 あれやこれといった絵は浮かぶが、全てはもはや実現し得ない事だった。

 思えば、青年も多くを殺している。


 誰もが、生きていれば別の事が出来たかも知れないが、それを悔やんだところで、結果は変えられなかった。


 そのせいか、今のナオトは独りぼっちである。

 逆に、青年には助けてくれる者達が居た。


 立場の変化は、想像以上に辛い。


「いい加減、放しやがれ!?」

「悪いな、そりゃあ……無理だ」


 孤高の怪物と化してしまった以上、ナオトを野放しには出来ない。

 放って置けば、勝手に人食いを始めるのは目に見えている。


 今居る悪の組織を全て皆殺しにした所で、また別の者達が湧いてくるのは必然であった。

 

 そして、青年に取って悪の組織は倒すべき敵ではない。

 寧ろ、護るべき者達である。

 

 高く上がった分だけ、落ち始めればそれは速かった。


   ✱


 先に不時着をしていた兵器だが、其処から総統が運び出される。 

 

「大丈夫ですか? 総統!」

「お加減は? 何処かに怪我は!?」


 甲斐甲斐しいコユキとセラに、総統は、苦くとも笑いをみせる。


「……私は、大丈夫ですよ」


 そんな総統に、ホッとした様な大幹部達。


「良かった……」

「ホント、安心しましたよ」


 二人の言葉は有り難い。 と同時に、総統にしてみれば苦かった。

 何せ、今回の一件では相当数の被害が出ている。


 街の人々は勿論の事として、組織側にも。


 総統にしても【もっと上手くやり方はなかったのか?】という疑問が残ってしまう。

 何かを出来た筈だと想いはすれど、結果は変えられない。


 悔やむ総統に肩を貸しながらも、セラがある事に気付く。


「………アレは」

 

 そんな声に、コユキと総統も顔を向けるが、見えたのは、落ち来る二人の姿。


 そして勿論、受け止めるモノが無ければ、ナオトと青年は地面に叩き着けられる事になる。

 それは奇しくも、かつては青年がアヤに仕掛けた技と同じ物であった。


「いけない! 何処かに隠れないと!」


 総統の声に、コユキとセラが慌てて身を隠す。


 程無く、隕石でも着弾したかの如き爆音が轟いた。

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