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正義の味方、はじめました  作者: enforcer
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正義の皮を被った何か


「……ありがとうございます」


 もはや居ない者に声を掛けても意味は無いかも知れないが、青年は胸に手を当て、そう礼を述べていた。


 返事は無い。 ただ、僅かに体が包まれる様な気がする。


 それに鼓舞されてか、青年はすっくと立ち上がった。


「お、おい? 大丈夫なのかよ」


 ついさっきまで、死んだと思われていた以上、いきなり立ち上がった青年をカエデは案じる。


 そんな心配そうな声に、青年は軽く笑った。


「なんて言うのかな……なんか、生まれ変わった様な気がするんだ」


 そんな声は、力に満ちていた。


   ✱


 青年と大幹部二人が居ない分、残された悪の組織は徹底抗戦を行う訳だが、結果は芳しく無い。

 

「痛……」

「コユキ……生きてる?」

「ビッグなお世話って言いたいけど……生きてる」


 残って立ちふさがった大幹部にしても、満身創痍であった。

 

 まだ死んでないのは、組織の奮闘もだが、ナオトが敢えて残したという事も大きい。

 殺してしまっては、意味が無いからだ。


 二人はまだ生きては居る。

 それでも、見える光景は惨憺足るモノであった。


 この場へと派遣された兵器の殆どは、すでに壊滅し、残っている分も損傷激しい。

 既に動けない者の方が多かった。


 そんな凄惨な場に、一人立つのはナオトである。

 散々壊して回ったからか、フゥと一息吐いていた。


「あ~らら、コレ、やっべぇかなぁ」


 何故そんな事を言うのかと言えば、被害は悪の組織だけに留まらない。 

 化け物が好き放題に力を振り回した結果、街の一部は瓦礫と化している。


 それだけでなく、その下には巻き込まれた人間も多い。


 だが、だからといってナオトには後悔の色は無かった。 

 多少のやり過ぎたかという気がするだけである。


「……ま、正義の為さ。 コラテラルダメージ……ってね」 


 ナオトの言うそれは、副次的な被害の事である。

 大規模な戦闘に際して、被害が時に民間人へと及ぶ。

 それは【仕方のない犠牲】とされた。


 そんな言葉で納得出来るのかと言えば、文句を言える者もこの場には居ない。


   ✱


 崩れ行く建物の中では、一組の親子が必死に出口を探す。


「ほら、もうちょっとだけ頑張って!」


 必死に、子供をコ鼓舞する母親に、子は顔を歪める。


「おかぁさん……でられないの?」

 

 そんな声に、母親は返答に困っていた。

 偶々買い物に来ただけなのに、訳の解らない騒動に巻き込まれてしまう。


 そして、崩れ行く建物に閉じ込められしまった。

 出口を探そうにも、大人ですらどうしていいのかが解らない。


 何とか出ようと試みるが、大きな瓦礫や火が彼方此方に在って行く手を遮っている。


「あ、え~と」


 何とか子供を元気付けようとする母親だが、ふと、頭の上でガラッと何かの動く音に気付いた。

 すわ何事かと見上げれば、瓦礫の一部が落ちて来る。

 

「危ない!?」


 必死に子供を胸に抱き、せめてこの子だけど願う。

 ゴンという鈍い音には気付いたが、瓦礫は当たっていない。

 それどころか、痛みも無かった。


 恐る恐る、目蓋を開ければ、其処には見知らぬ青年。


「いや、奥さんどうも。 ところで、ちょっと退いて頂けますかね? ちびっと重いんで」


 平然と車一台は有りそうな瓦礫を、涼しい顔で支える青年に、母親は慌てて言葉に従う。

 親子が退くなり、ヒョイと瓦礫を放るのだが、ドスンと凄まじい音を立てていた。


「あ、あの、あ、ありがとう、ございます」

「え? あ~、まぁまぁ」


 母親の震える声に、青年は苦く笑った。

 礼を言われるのは、慣れては居ない。


「おじちゃん! ありがと!」

 

 母親の腕の中では、子供も礼を贈った。

 但し、青年にすれば【おじさん】という単語は嬉しくない。


「んぁ〜、ま、良いか」


 多少の言いたい事は、飲み込み、さっさと出口を作り始める。 

 邪魔だった瓦礫や鉄骨を放って、瞬く間にそれが出来た。


「さ、今のうちに」


 青年の声に、母親は子供を抱えると、ペコリと軽く一礼して外へと急ぐ。

 親子を見送った青年だが、直ぐ側に少女が現れた。


「やっぱりさ、面倒くさくない? そういうの」


 悪の組織にすれば、人助けなど意味が無いと思えてしまう。

 それでも、カエデの声は柔らかい。


「いーだろ? 別にさ」

  

 特に気負いを見せない青年に、少女はフフンと鼻を鳴らした。


「そうだね、お じ さん?」


 そんなカエデの何気ない一言は、青年には辛かった。


   ✱


 悪の組織も、もはや虫の息という状態である。

 今のナオトは、正に総統が以前に危惧していた【遠慮をしない化け物】そのものであった。


 人知を超えた膨大な力を、好き勝手に振り回す。

 ソレはある意味では、刃物を持たせた子供と言えた。


 よく切れる刃物を預けられたなら、その刃を見てみたくなる。

 切れると解ったなら、何かを切って見せたくなる。

 そして最後には、他人に気にせずにソレを振り回す。


 歯止めがかからないからこそ、止まらない。

 

 ただ、もはやどうにも成らないという時に、派手に音を立てて現れる者が居た。


 巻き上がった煙が晴れれば、姿が見える。

 其処に立っていたのは、覆面を取り去った青年。


「……なんだよ、生きてたのか?」


 心底意外という声に、青年はガンと腕を組む。


「おう、生憎とお迎えよりも先に戻って来たぜ」


 返事を返しつつも、周りを見渡す。

 見える光景は、戦ったのだから当たり前としても凄惨であった。


「正義だ正義だと抜かす割には、このざまか?」


 青年にすれば、今の光景は望んだモノではない。

 誰かの為にと言うよりは、ただただ怪獣が暴れ回った跡でしか無かった。


「あ? しょうがないだろ? 悪モン倒す為さ」


 自分なりの持論を呈すナオトに、青年は組んだ腕を解く。


「へぇそうかい……んじゃあ、悪党は倒さないとな?」


 青年にしてみれば、身勝手に力を振り回すかつての仲間は悪党としか映らなかった。


   ✱


 二人が対峙している間に、カエデが伏す二人の同僚へと近寄る。


「コユキ、セラ、生きてたか?」


 実にご挨拶だが、ソレは少女らしさを示す。


「生きてちゃ悪いの?」

「どうやったか知らないけど、彼奴も戻ったみたいだし」


 セラとコユキにすれば、かつての敵に頼るというのも悩ましい。

 それでも、今はそれに頼るしかないのも事実である。


 ただ、ふと顔が見えない事にも気付いた。


「ところで……アヤは?」

「そうだよ、どっかに潜んでるの?」

 

 投げ掛けられる質問は、カエデにとっては答え辛いモノだった。

 居ない、一言言うだけだが、ソレは言いたくない。


「今は……ヒデオと一緒に居るから」


 そんな声に、二人は揃って青年を見る。

 どう見ても、其処には一人しか立っていなかった。


    ✱



「ま、せっかく来てくれたんだ……歓迎しなきゃ、な!」


 言葉と共に、雷を放った。

 前の青年ならば、ソレを受け止めるのが精一杯だったが、サッと手を挙げる。


 青年の動きに合わせて、影が蠢き、膜の様に持ち上がった。

 ソレは、アヤの力と同じモノである。


 コンクリートを砕き、大型兵器ですら壊せる筈の雷も、闇夜では僅かに周りを光らせる事しか出来ない。

 

 一瞬だけ明るくなったと思われたが、直ぐにそれも治まる。


「てめぇ、ソレは……」

「あぁ、お前なら、解るだろう?」


 青年の声に、ナオトはペッと唾を吐き捨てる。


「なんだよ、結局お前だって、人食いじゃないか」


 どんな言い訳をしたところで、同じだと罵るナオトに、青年はフンと鼻を鳴らした。


「そうだよ。 俺はお前と同じバケモンさ。 だから、昔のよしみで止めてやるよ」


 そう言うと、青年は真っ直ぐにかつての仲間へと駆け出した。


「ふざけんな! 誰のせいでこうなったと思ってんだ!」


 ナオトが今の状況へと陥った一因は青年にも在る事に間違いは無い。

 仮に、自分の待遇にも文句を言わずに黙っていれば、リアとアヤはまだ世界に居た筈である。

  

 そんな二人は、青年とナオトそれぞれ背負っていた。


「ああ、俺のせいだろうな。 だったら、自分のケツぐらい自分で拭くさ!」


 今のナオトを止められるのは、青年も自分以外には以内と解っていた。

 何れは、自分達よりも強い【誰か】が現れるにせよ、ソレは今ではない。


「やって見ろ! 今度は復活出来ない様にバラバラにしてやる!」 

 

 青年に合わせる様に、自分も前へと出た。

 腕に雷を帯びさせ、突き出す。


 文字通り雷波に速い攻撃なのだが、ソレは青年の手が止めた。

 

 元のままならば、雷が青年を貫いたかも知れないが、今は違う。

 手の平に浮かぶ影が濃くなり、雷を吸ってしまう。


「……ちぃ!?」

 

 慌てて、相手の腹へと蹴りを放って距離を離す。

 蹴られた青年だが、クルンと後方へ一回転してストンと降りた。


「……やっぱ、お陰さまかなぁ」

 

 感慨深いといった声だが、蹴られた割にはどうと言う事もないのか、其処に動揺が無い。


 ソレは、ナオトをより苛立たせる。


「このクソッタレが!」


 雷を全身へと纏うと、バッと跳ぶのだが、ただジャンプではない。

 文字通り、ナオトの身体は空高くへと登って行く。


 それだけでなく、空にはいつの間にか暗雲が立ち込めていた。


「冗……談だろ?」


 如何に青年と言えど、空は飛べない。

 日が完全に落ちれば、或いは追い付けるが、まだ其処まで日は暮れて居なかった。


 何とかしなければ成らないのだが、良い手が浮かばない。


 其処へと、残っていた浮遊型の兵器が青年へと近付く。


『さ、乗って!』


 響く声は、総統のモノであった。


「総統さん!? なんだってまた……」

『全部部下に任せて、引っ込んでたら、示しがつかんでしょ!』


 普段の落ち着きは何処へやら、この時ばかりは総統の声にも熱が籠もる。


 誘いに乗って青年が兵器へと文字通り乗っかるのだが、この時には独りではなかった。

 慌てて追いついたであろう大幹部達も、姿を見せる。


「カエデ? 良いのかよ?」

「なに言ってんだよ! 悪の組織揃い踏みだろ!」


 そんな声に、間違いは無い。

 今や、アヤの力を受け継いだ青年は大幹部と言えなくもなかった。

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