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正義の味方、はじめました  作者: enforcer
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総力戦


 悪の総統は、組織へと声を掛ける際、ある一つの事を言い忘れた。

 ソレは、敵は誰か、という事である。


 青年と手を組み【正義の味方ごっこ】をすると言う事は、組織に最小の被害で最大の利益をもたらしていた。


 その事自体は、悪い事ではない。 だが、全ては一長一短であった。

 

 全てには良い面も在れば、当然の如く悪い面も在る。


 以前の大型随伴兵器は、本来ならば外観よりも機能に特化していた。

 当たりの事として、破壊が目的でないのであれば、其処までの機能美は拘る必要が無い。

  

 そうなると、必然的に中身よりも外見に気をかけた二束三文の代物と言う事になってしまう。

 ソレは実際の質実剛健な兵器とは真反対に位置していた。


 そして次に、青年は人を殺す事を拒んでいた。

 だからこそ、今の今まで、悪の組織には犠牲者が出ていなかった。


 それ故に、組織の内部に流れる空気には緩みが生まれている。


 それこそ死物狂いで戦う内は、組織の構成員も必死だったが、負けてばかりと成れば、それも無理はない。


【あ~はいはい、どうせまた負けるんだろうな】と。


 それでは、やる気が出ないと云うのも無理は無かった。 

 或いは、もっと初期に総統が組織に今やっている事を打ち明けていれば、事態は変化したかも知れないが、後の祭りであった。


   ✱


 大幹部も奮闘はするものの、今やナオトは青年に劣らない化け物と化していた。

 そして、それを止める事は難しい。


 大型兵器が、次から次へと堕ちていく。

 無人化が間に合わなかった以上、其処には人が乗っている訳だが、それはナオトに取っては関係が無い。


 彼の目的は【正義の味方として悪を討つ】という事に固執していた。


 悪の討つと言うよりも、敵を倒す事が目的なのだが、其処には周りへの被害が考慮されていない。


 大型の兵器が堕ちれば、止める事は難しい。 


 如何に大幹部達が逃げろと促した所で、撮影を止めようとしない者も多かった。

 そして自分は大丈夫と高を括って居れば、逃げ遅れるのも無理は無かった。


 乱戦となると、より状況は悪化していく。


 周りへの被害を考慮する側と、しない側の何方が有利かと言えば、それはしない方が格段に楽なのだ。

 そしてその者が規格外の力を持っているとなると、止めようが無い。


「もういい! 下がれ!」

 

 カエデは、大型兵器へとそう声をかける。

 出した所で、ナオトには対抗出来ないのならば、それは無駄死にでしかない。


『申し訳ありませんが大幹部の命と言えど、こればかりは聞けません』


 兵器の一つからは、そんな声がした。


 如何に空気が弛緩していたとは言え、元々悪の組織へと集まっていた者達の多くは、総統の理念への賛同者達である。

 死ぬ事を恐れては、悪の組織など務まりはしない。


「なんで、なんでだよ!」


 言う事を聞いてくれない部下に、カエデは怒鳴る。

 死んで欲しくないからこそ、命令を下しても、それは無視されてしまう。


 それは何故かと言えば、構成員達も口では言わないが、その実は、皆も青年と同じ様な事を考えていた。

 多くの大幹部達は、正義の味方との戦いにて命を落としている。


 だからこそ、残った四人には生きていて欲しい、と。


 その結果は、一つ、また一つと堕ちていく光景であった。


   ✱


 覆面の青年ならば、兵器を壊すにしても操縦者を狙ったりはしない。

 あくまでも、最小限の被害に留めようとする。


 ナオトにはその歯止めが無かった。


「はっはぁ! どんどん来い! 全員地獄へ送ってやる!」

 

 新たなる力は、それを持つ者を高揚させた。

 かつて青年が語った通り、楽しくて楽しくて仕方ない。


 次から次へとやって来て、相手には困らない。

 それはかつての青年が辿った道でもあった。


 いずれは、ナオトも青年の様に虚しさに気付くかも知れないが、それは今ではない。


 それがいつ訪れるにせよ、飽きるまでは玩具を捨てる事は無いだろう。

 だが、この場にはナオトだけが居る訳ではない。


 向かい来る兵器の隙間を縫って、何かが飛び来る。


「やっぱ、生きてたか!」

「あれっぽっちで、死ぬ訳がねぇだろ!」


 ナオトに肉薄したのは、覆面の青年。

 顔は隠れている事から、表情は窺えないが、その声は心底怒気に満ちていた。


「ちぃっと、まずいか……」

 

 強くなったとは言え、肉弾戦となるとナオトの方が劣る。

 だが、別に無理をしてそれをする必要が無い。


「そら、止めて見ろよ?」


 言いながら、何をするかと言えば、お得意の雷の槍を放つだけ。

 しかしながら、標的は青年ではない。

  

 四方を取り囲む、悪の組織へと向けていた。


「……っだ!? こなくそ!」


 青年が悪の組織と結託している事は、もはや隠せて居ない。

 だからこそ、それを利用する。

 

 以前から、青年は無駄に人を助けようとする癖がある事はナオトも知っては居た。

 お互いに正義の味方だった頃は、寧ろそれを黙認していたが、利用出来るとなれば何でも使う。


 悪の組織を倒そうとすれば、それを青年が止めようとする事は疑いようも無い。


 当たらないならば、自分から当たって貰えば良かった。


 大型の兵器ですら撃ち倒す雷ともなれば、如何に青年でも辛いモノがある。

 避けさえすれば被害は無いのだが、それをすれば後ろの者が死ぬ。


 させない為には、自らを盾とするしかない。


「ほら! もっと頑張れよ!」


 放つ側にすれば、これ程に面白い事もない。

 わざわざと的の方から、当たってくれるのだ。


 ナオトにすれば、実に馬鹿げた行動として見えている。


 本来ならば倒すべき悪の組織を、身体を張って護ろうと青年。

 その動きが鈍く成った頃、息を深く吸い込む。

 

 以前よりも増した力は、より大きく太い槍を創り出す事を可能にしていた。


「そぉら、よ!」


 ソレを、躊躇せずにワザと青年を狙わずに放つ。

 

「くそったれが……」


 もはや身体は痺れ、動こうにも動けない。 このままでは、また誰かが死ぬ。

 ただ、幸いな事に、この場には青年しか居ない訳ではなかった。

 

 黒い膜の様に広がった影が、雷を飲み込んでしまう。

 そして、それが出来る者は一人しか思い当たらない。


「ごめんなさい……遅れた」


 夜であれば、遠くまで行けるアヤでも、昼間である以上、その動きは制限が課される。

 それでも、ようやく追い付いていた。


 青年とアヤの前に、三人の大幹部。


 人数的には圧倒的な有利の筈だったが、実際にはそうではない。

 寧ろ、立場的にはたった一人のナオトの方が遥かに優位と言える。


 誰を守る必要も無く、好き勝手暴れれば良い。

 それは、この上ない開放感でもあった。


 だからか、ナオトは鼻で笑う。


「はっ……ぞろぞろと、よくもまぁ、そんなに死にたいか?」


 言いながら、居並ぶ大幹部質の顔をよくよく眺める。


「でもまぁ、よく見りゃみんな可愛いな……どうだ? 今なら、正義の味方に鞍替えしたって良いんだぜ?」


 それは、以前にカエデが青年に仕掛けた勧誘と言えた。

 リアを失ったナオトにすれば、新しい誰かが欲しい。


「そうすりゃほら、そっちとも戦わずに済むしな」

 

 何れは見つかるかも知れないが、今現れた大幹部達も、皆が個性的かつ魅力的といえば間違い無い。


 とは言え、悪の大幹部達がそんな言葉に乗るかと言えば、寧ろ火に油を注ぐ行為であった。

 ただでさえ、部下を殺されている。


 そんな犠牲を無視して相手の誘いに乗る様では、大幹部とは名乗れない。


「ふざけんな! 誰がお前なんかと組むか!」

  

 最初に口火を切ったのは、カエデである。

 内心では既に怒りの頂点を極めていた。

 

 子分とも言える者達を殺されたのも在るが、同時に少女を最も怒らせたのは、青年の負傷であった。


 必死に庇う度に、青年の傷は深くなる。

 そしてそれこそが、何よりもカエデを怒らせていた。


 怒りはそのまま行動に直結してしまう。

 直情的な性格は時に素直と言えるが、この場で裏目に出ていた。


 頭に血が登れば、細かい事を忘れてしまう。

 今のナオトは、青年以上に厄介なのだが、ソレをカエデは失念してしまった。

 

 誰に言うでなく、ムカつく相手を倒そうとする。

 

 炎を纏う分だけ派手なのだが、同時にそれは的としてよく見えた。


「……あっ、そ」


 言いながら、ナオトは飛び掛かって来るカエデへと雷を放つ。

 アヤならばそれは防げるが、カエデにはそういった便利な技が無い。


 それでも、回避する方法は残されていた。


 ボッと炎を強く巻き上げ、姿を消す。

 ただ、その方法は既に一度使ってしまっていた。


 つまりは、次にどうなるかがナオトにはお見通しである。


 相手の死角である背後へと一瞬で移動出来ても、予想していれば別にそれはどうと言うことも無い。

 更に言えば、ナオトにはカエデを殺す理由も在った。

 

 一人を惨たらしく始末してしまえば、残りの三人は少なくとも、脅しは掛けられる。


 多少人数が減りはすれど、それは致し方ないと決めていた。


「……な!?」

「お前、馬鹿だろ? 何度もおんなじ手に引っ掛かるかって……の!」 


 手に顕現させた雷を槍を、カエデへと振り降ろす。


 余りに眩しさと、自分は駄目かという感覚から、少女は思わず自分を腕で庇う。

 ただ、見えない視界の中で感じたのは、誰かが自分を抱える感覚であった。


 ハッと成って目を開けば、見えるのは広い背中。


「ヒデオ!?」


 カエデの目の前では、いつの間にか青年が壁になる為に立っていた。

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