身勝手な正義
悪の組織が人々を襲い、正義の味方がそれを止める。
それが、今まで人が見て来た構図と言えた。
だが、いま人々が見ている光景は、正に異様と言えた。
周りへの被害をなど一切考慮せずに暴れ回る正義の味方を、それをなんとか止めようとする悪の組織。
果たして、どっちがどっちなのか解らなくなる。
「そらよ!」
掛け声と共に、ナオトが雷を放って行く。
両手を振る度に、雷が飛んでいく訳だが、大幹部でも全ては止めきれない。
大幹部随伴の兵器など、本来ならば街を壊して見せる筈が、寧ろ率先して人々の壁となって居た。
こうなると、誰からも正義の味方と知られるナオトの方が、怪物に見えてしまう。
「やめろ! このバカ!」
悪の大幹部であるカエデが、正義の味方を咎める。
その様は、まるで悪の正義が反転している様に映っていた。
「俺はよ! 正義の為に戦ってんだよ!」
一聴する分にはナオトの言葉は正義の味方らしく聴こえる。
ただ、その実は自分勝手な正義に酔っているだけでしかない。
青年はソレに気付いたからこそ、戦いを終わらせようとした。
その逆に、身勝手な思想に染まれば、何処に居ようとも正義の味方などではなく、単なる怪物でしかない。
力に酔うからこそ、ナオトはそれには気付く事が無かった。
「……ん?」
自分の思想の変化には気付かないかも知れないが、別の変化には気付ける。
いつの間にか、空には別の兵器が現れていた。
歩行型と違い、飛行型は手早く現場に駆けつける事が出来る。
ソレを見て、ナオトが狼狽するかと言えば、寧ろ笑った。
「なんだ? おかわりか?」
既に最初の大型兵器はもはや戦える状態には無い。
後は大幹部と裏切り者の青年を片付けて、それで終わりだった筈だが、そうではなかった。
✱
宙空に浮かぶ兵器だが、当然の如く、大幹部は随伴する。
空高くから見えるのは、街の惨状であった。
「いきなり呼び出されたからどうしたと思ったけど……」
セイントフィメールことセラの声に、同乗のアイスウーマンことコユキはムッとする。
「アイツは、あんなに強かったっけ?」
二人の大幹部の記憶では、厄介なのは覆面の青年だけの筈。
残りの二人に関して言えば、其処までの驚異では無かった。
以前に戦った際も、其処までの驚異ではない事から、悪の組織の注目を集めては居ない。
だが、実際には兵器は壊れ、街への被害も出てしまっている。
本来の作戦ならば、街への被害は最小限に留める予定であった。
「……って、ああだこうだ言ってる場合じゃないでしょ!」
「それもそっか、それじゃ、行くよ!」
声を掛け合うなり、臆することなく大幹部は跳んだ。
✱
本来ならば、有り得ない光景が広がる。
たった一人相手にも関わらず、悪の組織が可能な限りの全力出撃を掛けた。
それは正に、壮観である。
道路上には後々出す筈だった兵器が居並び、空には飛行型が群れを成す。
「はっはぁ……こりゃすげぇ……何処に隠してたんだか」
ナオトの声は余裕綽々だが、その実、声に嘘は無かった。
ある意味では、今のナオトは過去の青年そのままと言える。
強くなったからこそ、試したくなる。
そして、その為の相手には困りそうもない。
だが先ずはと、四人の大幹部達が顔を見せていた。
「急な呼び出し、申し訳無い」
「駆け付けてくれた事は、あんがと」
アヤとカエデの声には、セラとコユキは目を丸くさせられる。
二人共に、そんな事を言ったのは初であり、前代未聞であった。
「なんだかなぁ……初めて聞いたかも」
「ホントだよ、めっずらしい……これじゃ、明日は雨が降りそう」
軽口を叩くセラとコユキだが、緊急事態なのは解っている。
事実、口は開けど、目線はジッとナオトを捉えていた。
「それじゃ……行くよ!」
真っ先に飛び出したのはカエデだった。
その全身からは炎が吹き出す。
感情の昂りに因ってもその体は火が噴き出してしまうが、この時はそうではなかった。
ただ乱雑な感情任せでそうはせずに、あくまでも力を意思によって顕現させている。
何故ならば、かつてはカエデは怒りだけで戦った。
その際、苦もなく青年に負けている。
其処から、少女もある程度は学んでいた。
バカ正直に突っ込むだけでは、勝てるモノではない、と。
「一番ちっこいのからか!」
ナオトは、迫り来るカエデにそんな言葉を投げ付ける。
事実、四人の内では彼女は一番の小柄ではあった。
かと言って、そんな挑発には乗る事は出来ない。
多少はムカついたても、それは飲み下す。
ボッと一際大きく炎を纏ったと思った途端に、少女は姿を消していた。
「あ? 消え……だ!?」
突如として、ナオトが前のめりに揺れる。
背後に回ったカエデの飛び蹴りが、その頭を捉えていた。
かつて、同じ技を青年に見舞った。
その際には【声を出してはいけない】という助言をされており、それをカエデは忘れては居ない。
「……そぉれい!」
蹴りに因って体勢が崩れた所へ、コユキが手を伸ばす。
手の先からは、冷気の塊が放たれた。
ソレは、ナオトの足を狙っており、着弾した時点で一気に周りを凍り付かせてしまう。
それだけでは片方の足しか止められないが、別の足には当然の如く影が有り、その影はアヤが止めていた。
動きを止めたなら、仕上げが要る。
「いぃ……やっ!」
普通に撃ったのでは決して当たらないで在ろう、溜めの長い極太の光線。
大幹部らしいセラの大技だが、的が止まっていれば話は違う。
動き回る相手には使えない技を、この時は放った。
放たれる一条の光に、ナオトの姿が消え。
道路を抉る程の威力である以上、周りには燃える煙が立ち籠める。
普段では先ずは見せないであろう四人の大幹部の連携。
以前はバラバラだった四人だが、今は見事なそれを披露していた。
「スッゴイじゃん、カエデ。 いつからそんなの使えたっけ?」
素直な褒め言葉を贈る同僚に、少女はフフンと鼻を鳴らす。
「べっつにぃ……たゆまぬ努力って奴かな」
実際には、四人大幹部がそれぞれに覆面の正義の味方を倒そうと切磋琢磨していた。
戦う度に工夫を重ね、欠点を削いでいく。
だからこそ、今の戦いが在った。
ある意味では、青年という良い相手が居たからこそ、彼女達の実力も自然と上達し、より強まったと言える。
但し、それでも青年は倒せて居ない。
立ち込めていた煙が晴れる。
「……うぇ、セラ、やり過ぎだって」
第一声は、コユキからだった。
大幹部が全身全霊を込めた光線である。
そんなものがマトモに当たったならどうなるか。
「んなこと言ったって……」
実際に光線を発したセラはと言えば、バツが悪そうである。
ナオトだったモノは、ほぼほぼ全身が丸焦げであった。
動けない状態から避ける事も出来ずに浴びたのだから、それも必然かも知れない。
これで終わりかと、誰もが思うが、地面に横たわる体は動いた。
咳き込むと、ビクンと跳ねる。
「……あ~、いでぇ」
焦げているせいか、その声は酷く聴き取り辛い。
それでも、確かにナオトは喋っていた。
「……うそ」
大幹部の前で、丸焦げの体が光る。
瞬く間に、ボロボロだった部分が治っていく。
纏う衣装までは復元出来ないが、その体はほんの数秒で元の姿を取り戻しつつ在った。
「いやぁ……リアのお陰だわ、すぐ治る」
そんな声に、意味を知っているカエデとアヤはそれぞれ顔をしかめる。
「ね、どういうこと?」
事態が飲み込めないセラの声に、アヤが鼻を唸らせた。
「前に、もう一人居たのは憶えてる?」
「うん、居たけど、女の子でしょ?」
「その子を……彼奴が食べた」
端的なアヤの説明に、セラは手で口を覆う。
やり方云々はこの際は問題ではなく、味方を食べたという事実が、吐き気を催させる。
悪の組織ですら、仲間への私刑や攻撃などは厳に戒められていた。
例え自称でも、正義の味方が平然とソレをやる。
全身が徐々に復元されていくのを、黙って待っているつもりは無いからか。
随伴する兵器がナオトへと腕を振り下ろす。
「へっ……悪党ったら待つもんだろうがよ」
そんな言葉と共に、バッと光を放ち、ナオトが跳んだ。
カエデが全身に炎を纏える様に、彼も同じ事が出来る。
全身一つの稲妻と成って、巨人とも言える兵器の胸に大穴が穿たれてしまう。
ソレを見て、コユキがヒッと息を詰まらせた。
「ちょっと、なんだよ?」
同僚の童謡に、カエデは訝しむが、コユキは唇を震わせて居た。
「アレは……無人じゃないのに」
そんな声に、カエデは炎を司るにも関わらず、寒気を覚えた。
総統の急な呼び出しによって、組織は総出で出撃している。
ただ、余りに急な事もあってか、無人機にするのが間に合わなかった。
ではどうするかと言えば、誰かが動かす他はない。
大型とは言え、乗れる部分は多く無い。
唯一空間が確保出来そうなのは胸部だが、其処には焦げた大穴が穿たれていた。
ドスンと倒れるのを見て、カエデの全身に炎が噴き出す。
青年が動けない以上、誰かが代わりに成らねばならない。
その役目を、少女は負おうとはしていた。




