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正義の味方、はじめました  作者: enforcer
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新たなる化け物


「待てい!」


 悪の大幹部と随伴する兵器が派手に演出する中、そんな声がする。

 勿論現れるのは、覆面にて顔を隠す青年であった。


 二人の大幹部と対峙する成り、ビシッと指差す。


「おま……悪の企みも、此処までだ!」


 言葉を濁す青年だが、其処には理由が在った。

 そう難しいものではなく、少女が【お前】と呼ばれる事を嫌うからである。

 だからこそ【お前達】という言葉は飲み込んでいた。


 さて、正義の味方役の台詞に、悪の大幹部達の反応はと言えば、溜め息である。


「……大根なのは、どうにも直らなそう」

「別にさ、怒らないよ? 演技なんだしさ」

 

 小さめの声にて、台詞間違いをソッと指摘する。

 そうされると、青年の肩の力が抜けかけてしまった。


 だが、人目もある事から一応は体勢を保つ。


「え~と……掛かって来い!」


 なんとか台詞の端っこを思い出し、声を掛ける。

 折角アヤが色々とそれっぽい台詞を用意していたのだが、ど忘れである。


 一応は正義の味方を演ずる青年に、悪の大幹部は顔を見合わせた。


「どうする?」

「仕方ない……貴女のアドリブで助けてあげて」


 もはや台本は忘れて、カエデに丸投げ。

 とは言え、青年と長々と戦って来た少女からすれば、ある意味では、お茶の子さいさいと言えた。


 単純に言えば、如何にも大幹部らしく派手に立ち回りさえすれば良いのだ。


「オッケ~……んじゃ」


 軽い声と共に、少女は全身に炎を纏った。

 燃え上がる様は実に画になる。

 

「お前の命も……此処までだ!」


 青年とは違い、キッチリと台詞を口にすると、バッと跳び出すカエデ。

 誰の目にも見えてないが、台本を書いた本人であるアヤだけはこっそりと微笑んでしまう。


 文句を言いつつも、少女は自分の台本を忘れていない。

 それはつまり、彼女なりのアヤへの態度を示していた。


   ✱


 人々見守る中、正義の味方も悪の大幹部達が戦う。


 カエデが連続で放る火の玉を素手で弾く青年。

 その間に、青年の背後へと回ったアヤが動く。

  

 影から飛び出す棘を、跳び上がる事では避けた。

 

 一見する分には、危機的な状況に見えなくも無い。

 とは言え、事前の打ち合わせは入念に行っている。


 だからこそ、アヤとカエデは存分に力を振るっていた。


「チィ!? すばしっこい!!」


 如何にも苛立っている様なカエデだが、それは台本通りである。

 仮面で顔を隠していなければ、裏の愉しげな顔が見えてしまうだろう。


「え~と……へ、そんなもんきくかよ!」

 

 若干棒読み気味な青年の声だが、無理もない。

 彼はアクション俳優ではないのだ。


 なんとか台詞を思い出しながら、派手に跳んで回る必要も有り、それは本職の様には上手くは行かない。


 だからか、アヤの髪の隙間からはため息が漏れていた。


「前途多難」

「もうちょいなんとか」


 二人の掛かりの応援か、はたまたダメ出しなのか、それは攻撃以上に青年にダメージを与えていた。


「……うぐぐ」


 巨大な兵器や悪の大幹部を向こうに回しても平然として居る筈の青年でも、呻きが漏れていた。


 兎も角と、演技は続行せねば成らない。

 この場の三人は、あくまでも悪の大幹部と正義の味方という役割がある。


「そんじゃあ、行くよ!」

「解ってる」


 それぞれに声を掛け合いながら、今一度ぶつかろうとする二人。

 覆面の中では、青年が思わず笑っていたが、ふとある事に気付いた。


 遠目ながら、チラチラと窺える光。


 何を言うでなく、青年は前へと駆け出す。

 その速度は余りに速く、目で追うのも困難である。

 

「んぇ!?」「きゃ!?」


 それぞれに声を挙げるカエデとアヤだが、急に青年が台本には無い動きをした事で、完全に不意を突かれていた。


 二人を肩にそれぞれ抱えて、青年は跳ぶ。


 直ぐ様、カエデが立っていた位置に飛来した何かが着弾した。


 アスファルトを容易に叩き割り、地面を穿つのは雷。

 それが出来るのは、一人しか思い当たらない。


 ストンと着地する也、二人を肩から下ろすと、青年は雷が飛んで来た方を睨む。


 人々の混乱も聴こえるが、それはこの際気にしている時では無かった。


「……あんの野郎」


 思わず、青年は声を出すが、程なく、誰の目にも解り易い姿が現れていた。


「よう! 見てたぜ」


 何をとは言わないが、ナオトの声に、青年は鼻を唸らす。


「おーう、そうかい? で、まぁた不意打ちってか?」


 言いながら、青年はチラリと辺りを窺う。

 ナオトしか見えていないという事は、何処かにリアが潜んでいる事を警戒していた。


「そういや、相棒はどうした? コソコソしてんのか?」


 探りを入れる目的でそう言うと、視線の先ではナオトが笑う。

 ただ、その笑いは以前のモノと比べると、異質であった。


 目を剥き、歯を剥き出しで笑う。 それは、飢えた肉食動物を想わせる。

 これ以上ない程に空腹状態であり、飢餓故に半狂乱な目。


「なに言ってんだよ、ちゃんと来てるだろ?」


 そうは言うが、どう見てもナオトは一人しか居ない。


「はぁ? お前……頭をおかしくなったのか? どう見ても独りだろ?」


 以前に投石にて打倒した際、頭のネジが飛んだのかを疑う。 

 そして、その勘は正しかった。


 青年の指摘に、ナオトは持参自分の胸を強く叩く。


「此処だよ、此処。 ちゃんと居るんだぜ? 愛する二人はいつも一緒ってな」


 どんな相手にも怯んだことが無い青年でも、思わず寒気を覚える。

 言葉に嘘が無ければ、リアはナオトの中に居ると言う。


 どの様な経緯にてそんな事に成ってしまったのかは定かではない。


 とは言え、違う意味で捉えるのであれば、ナオトはリアを喰ったという事になる。


「バッカ野郎共がぁ……」


 それしか、言葉が思い付かない。

 わざわざ見逃してやったのに、そんな二人は、青年の思惑とは違う道を歩んでいた。


「今度はどうか、試して見な!」


 言いながら、ナオトは高く挙げた片手に蒼白い稲妻を纏わせる。

 瞬く間にそれは槍となり、放たれる。


「……芸のねぇこった」


 避けても良いのだが、下手に避けては道路に被害が出てしまう。

 其処で、仕方なく青年は雷の槍を手で受け止めようとする。


 次の瞬間、ドンと青年の身体が弾かれた。


「英雄!?」


 思わず、カエデが声を挙げていた。

 どういう訳か、天下無敵の筈の青年が弾かれる。


 何が起こったのかを確かめる前に、青年は身を起こしていた。


「……いってぇ……どうなってやがんだ?」


 悪の大幹部の大技でも【多少痛い】で済ます筈が、ほぼ全身に痺れが在った。

 その原因を、追求すべく、急いで頭を巡らせる。

  

 自分が弱くなったのでなければ、ナオトが急に強くなった、という方が自然な形であった。

 

 驚く三人の前へと降り立つ正義の味方。

 ただ、見える顔は、とてもそうは見えない。


「お前さ、やっぱりソイツ等と結託してただろ?」


 ナオトからの声に、青年はすっくと立ち上がるとフンと息を吹いて胸を張る。


「さぁてね、なんの事だか?」

「今更惚けるもんじゃないな」


 以前とは逆に、青年の方が不安を感じていた。


 睨み合う正義の味方と元正義の味方。

 そんな二人の横ではアヤとカエデが立っている訳だが、二人はほぼ同時にある事に気付いていた。


 雷を受け止めた青年の手からは、血が滴っている。


 如何なる兵器でもそれは不可能な筈だったにも関わらず。


 つまりは、今のナオトは青年と同等か、もしくは上という事になる。


 思わず、青年は以前に総統と語り合っていた時を思い出していた。

 正義の味方と悪の組織とは、実は大きな差は無い。

 

 あくまでも、呼び名が違うだけなのだ、と。

 そして、何方かが傾けば、それを直そうとする何かが働く。

 

 つまりは、青年が正義の味方である事を辞めれば、その事に因って、新たな怪物が現れた事になる。

 

 それが、新たな化け物が三人の前に立っていた。


「さぁ、悪の大幹部共、正義の味方が御相手してやるぜ」


 如何にも自信たっぷりと言ったナオトだが、それは決して虚勢ではない。

 とは言え、相対する三人が黙っている訳もなく、アヤがコッソリと随伴の兵器に指示を出していた。


 青年に向けては遠慮をしていたが、今は違う。

 

 現れた正義の味方を叩き潰すべく兵器が動き出す。 

 次の瞬間、バッとナオトの全身が輝いた。


 余りに強い光は目眩ましとも言える。


 ドンと派手な音と共に、巨大兵器の腕が千切れた。

 

 そんな腕はどうなるかと言えば、勿論落ちる。

 問題なのは、避難せずに撮影しようとしていた者達が周りには居た事だ。


 ドスンと鈍い音を立てながら、腕が落ちる。 

 当然の事だが、普通の人間には落ち来る鉄塊を止める術など無い。


 なんとか動こうとするものの、痺れが邪魔をする。

 僅かに初動が遅れてしまった。

 

 落ちた先では赤黒い染みが、僅かに滲む。


 それを見て、青年が痺れを振り切って飛び出す。 

 声とは違う、まるで動物の咆哮様な叫びを上げていた。


   ✱


 街での出来事は、遠くからでも見える。

 突如として現れた者によって、兵器の腕がもがれてしまう。


 それを見ていた総統は、慌てて組織へと連絡した。


「説明の時間が無い! 今すぐに出せるだけ全部を出すんだ! そう、全部だ!」


 迷っている暇は無い。

 総統の目線の先では、大事な部下と友達が戦っている。


 それを見捨てられる程に、総統は悪党でもなかった。

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