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正義の味方、はじめました  作者: enforcer
22/30

悪の組織とは


 温泉地での大幹部の対決には決着が着かなかった。

 それから、暫く時間が過ぎた頃。


 悪の組織から派遣された二人の大幹部は、在る場所に立っていた。


 そこは何処かと言えば、ビルの屋上である。


 グッと腕を組んで仁王立ちに構えるカエデに対して、隣に立つアヤは特に気負うでもなく、ゆったりと立っていた。


 高い位置な分、強く風が吹く。

 そんな風をどこ吹く風と気にせず、カエデはフンと鼻を鳴らした。


「てゆーか……教えてくれたって良かったじゃん?」


 そんな声に、隣のアヤはなびく髪をソッと手で抑えた。


「彼は、貴女を悲しませるつもりは無いから……だから」


 アヤの声に、カエデはまた鼻をフンと唸らす。


「どーりで、最近ロボットがヤケにポンコツだと思ってたよ。 上手く動かない癖に、無駄に派手なんだもん」


 カエデの不満だが、特に難しい事でもない。

 彼女の苛立ちは、総統と青年が裏で組んでいた事に起因する。


 とは言え、それは青年が危惧していた様に少女を怒らせたかと言えば、それ自体は些末な事であった。

 怒ってるのは【自分だけ爪弾き】にされていた事である。


 如何にもプンプンと言った様子の同僚に、アヤはフフと軽く笑った。


「でも、貴方はもっと激しく怒ると思ってたのに……案外平気そうね?」


 ファイヤーガールという異名通り、燃えるように怒るかと言えば、カエデは少し苛立っているだけである。


「べっつにぃ……だってさ、考えて見れば悪い奴らからお金ふんだくれるんでしょ? それならさ、教えてくれれば良いのにさぁ……コッチだって色々と出来たのに」


 今のカエデにして見れば、青年との仕事に不満は無い。

 それどころか、アヤが出るというから自分も自分もと率先した出撃を申し出た程である。


「でも、私達は負け役だよ? 良いの? それでも?」


 自分達の【役割】に付いて、アヤはそんな事を尋ねる。


 勝負を演じる以上、其処には【勝ち役】と【負け役】が居らねば始まらない。


 問われたカエデだが、怒るどころかハッと鼻で笑った。


「……ま、納得はしてないんだ。 でもさ、負け役でもギャラは出る訳だし、それに……」

「それに?」

 

 言葉を促すアヤの目には、少し俯いてムフフと笑うカエデが映っていた。


「彼奴から、い~っぱい奢らせれば、気も晴れるっしょ?」


 集る気が満々なのだが、別にそれをアヤも咎める気は無い。


【正義の味方と悪の組織ごっこ】をやるには、二手の内、何方が欠けても成立しないのだ。


 如何にも凄まじい力を持つ者達が行うからこそ、其処には迫力が在る。

 カエデの声に、クスリと笑うと、アヤは顔を整える。


「そうね、でも、何を奢らせる気なの?」

「うん? う~んと……」


 尋ねられると困ってしまう。

 それこそ、アレヤコレヤとモヤモヤと色々と浮かんでしまうからだ。


 そんな妄想の中には、実に際どいモノも含まれているのだが、幸いな事に人の考えは外へは漏れ出ない。

 その代わりに、カエデの衣装は前とは少し違っていた。


 理解り易い所では、何方かと言えば男装寄りだった筈が、女の子らしさを強調して居る。


「そういえば、貴女の格好……前はスカートなんて履いてた?」


 唐突なアヤの突っ込みに、カエデがブフッと吹き出す。


「べ、別にぃ……は、履いてたけど?」


 本人は必死で否定するものの、動揺は隠せていない。

 実際には、慌てて買い込んでいたのは既に露呈している。


「ところで……そろそろ時間」

「あ、はいはいっと」


 行動を起こす時間が決まっているからか、カエデは自分の顔を隠す為に仮面を被り、アヤは前髪を顔の前へと垂らす。


 何故に二人が青年の如く顔を隠すのかと言えば、悪の組織の大幹部という建前も在れど、それとは別に、人々に顔を見せまいという判断からである。


 もし顔を隠さなければどうなるか。 単純に見えてしまう。


【なんか、悪の組織と正義の味方が楽しそうにしてました】


 となっては大問題である。

 あくまでも、正義の味方と悪の組織はそれぞれが戦っている、という構図を演じねば成らない。 


「そう言えば、台本は覚えた?」


 ポンと出されるアヤの質問に、カエデは肩を竦める。

 顔は隠れているが、げんなりしているのは丸見えである。


 ハァと息を吐くと、アヤを窺う。


「いやあのね、あんな量さ、無理だからね?」

「そう? あの人にも言われたから、少なめにしたんだけれど」


 やはり、今回の台本を用意したのはアヤであった。

 カエデも一応は目を通したのだろうが、首を左右へと振る。


「全編通しで五十ページとか、暗記出来ると思う?」


 少なめにした分だけ減ったのかと言えばそうではなく、頁が増えただけと言うカエデの苦情。

 それには、前髪の隙間から覗くアヤの眉はハの字を描いていた。


「せっかくだから、貴女の出番も増やしたのに……」

「あ~もう! 良いから! 行くよ!」


 我先にも跳ぶカエデに、アヤはフフと笑う。

 それでも、顔を悪の大幹部らしく引き締めると、彼女も同僚の後を追った。


   ✱


 悪の組織が騒動を起こすまで、正義の味方役は待たねば成らない。

 同じ時間に現れては、示し合わせた事がバレてしまう。


 その間には暇なのだが、この時、青年は独りではなかった。


 大幹部二人が別の建物で待機していた様に、この場には青年だけではなく、もう一人が居た。


 では、青年の暇潰しの相手は誰なのか。

 傍目には背広姿であり、一見する分には何処かのサラリーマンに見えなくもない。


 しかしながら、その誰かは悪の総統である。


「なぁ、総統さん」

「はい、なんです?」


 もはや、さん付けでも慣れたのか、総統は青年の呼び方に動じなかった。

 対する青年はと言えば、まだ顔を覆面をしていない。

  

「俺は思うんだけどな、いいのか? 親玉がこんなとこでさ」


 青年の質問は、ある意味最もだろう。

 

 これから悪の組織が悪の計画を実行しようとしているのに、その総統は正義の味方と共に居る。


「まぁ、今更じゃあないんですか?」


 気負いが無いからか、総統は持参のペットボトルを傾け、喉を潤す。

 そんな様から分かる通り、其処には悪の総統らしさが無かった。


 以前に遭った際には、もっと威厳が在ったと青年は感じる。

 実のところ、それも無理は無い。

 

 何せ、今の総統には別に気負いなど無いからだ。

 勝ち負けが決まっている以上、特に何かを思うことも無い。

 

「ところでさ、なんで此処に居るんだ?」


 青年からの素朴な疑問に、総統は軽く鼻で笑った。


「いや、偶には、部下の仕事振りを観察しようかと……」

 

 総統の言葉からは、嘘は感じられない。

 偶々上司が部下の様子を見に来たとしても、不思議な事では無かった。


 言葉に嘘は無くとも、声はある意味では雄弁に語る。


「で、ホントのところは?」


 促す青年に、総統は鼻から息を抜く。

 その顔は、苦味に耐えている様にも見えた。

 

「我々は、このままで良いんでしょうか?」


 総統からの質問は、短いが重要なものと言えた。

 元正義の味方と悪の組織が結託し、騒ぎを起こして相手を恫喝し、それを倒して見せる代わりに金銭を要求する。


 やっている事自体は、間違い無く詐欺と言えなくもない。


「なんだよ? もしかして、良心の呵責が……とか言わないよな?」


 悪の総統に良心が有るのかと言えば、それは在るだろう。

 でなければ、青年はとっくの昔に総統殺していたと話している。


 悪の組織より余程ワルっぽい青年に、総統は鼻を少し唸らせた。


「ところでさ、前々から聞いてみたかったんだけど……」

「……なんです?」

「総統さんはさ、なんだって世界征服なんてやろうとしてんだ?」


 青年の質問は、ある意味では根源的なモノであった。

 果たして、世界を征服した後、其処で何を為すのか。


 それを問われて、総統は遠くを見詰める。

 

 見えるの街並みだが、ソレを眺めている訳ではない。


「世の中って困ってる人がいっぱい居ますよね? その逆に、圧倒的な権力と財力に物を言わせて、圧政を強いている人も居ます」


 ポンと出される総統の声に、青年は目を丸くする。

 言葉通りに取るなら、間違い無くその通りであった。


「あ~まぁそうだろうな」


 目も眩みそうな生活を送る者達が居る一方で、住む場所も無ければ、着る物にも困り、食べられない人は多い。

 世界中見渡せば、それこそ数え切れないが、其処には助けは来ない。


「ですから、私は……変えようとしたんですよ。 例え、力付くでも」


 総統の声に、青年は言葉を失っていた。  

 促されずとも、総統は言葉を続ける。

  

「もちろん、無理やり変えようとすれば、犠牲者は出てしまうでしょうね。 それでも、誰かが今の世の中を壊してでもね、変えなきゃって……そう思ってたんです」


 やり方は兎も角と、総統の言葉に青年は言うべきかを迷っていた。

 結局は何も言わず、黙って聞くに留める。 


「在る物の形を変えようとするならば、それは壊すしかない。 そんな事をすれば、その過程では多大な犠牲者を伴うでしょう」


 だからこそ、総統は巨大な兵器を創り上げる事で、ソレを成そうとていた。 


 一言二言で人が変われるならば、刑務所は要らない。

 泥棒や強盗をしようかとして居る者に向かい【止めましょう】と一言で犯罪が止まるなら、世の中は平穏無事に済む。


 誰もが、言葉だけでは止まらないからこそ、警察や軍隊が存在する理由であった。


「最も……そんな計画は、貴方に潰されましたが」


 残念そうな声と共に、総統は青年を見た。

 見られた青年にしてみれば、悪い事をしてしまった気になる。


 見方を変えるならば、悪の組織は正義の味方に見えるからだ。


 個人の身では遠く及ばない巨大な相手に際して逃げ出さず、立ち向かわんとする。

 強きを挫き、弱きを助け、多くは求めない。


 それこそ、正義の味方の本質でもあった。


「なんだかなぁ……これじゃ、どっちが悪の組織だかわかんねーや」


 何故に総統率いる集団は【悪の組織】と呼ばれるのか。

 答えは単純で、彼等がそう名乗っているだけだった。


「なあ、総統さん」

「はい」

「こんな事を言っちゃなんだけど、あんたは、やっぱり悪党向いてねーわ」


 青年の言わんとする事は、既に総統もかつての打ち上げの際に聴かされていた。

 完全なる悪に成り切れないワルだからこそ、助けたのだ、と。


「褒められてるんだか、貶されてるのか、迷いますね」


 悪の総統にすれば、青年の言葉は難しい。

 聞き方によっては、何方とも取れてしまう。


「どうせなら、あんたみたいなのに世界を任せちまった方が良かったかもなぁ」


 今更ながらに、悪の組織を止めてしまった事が悔やまれる。

 もしも組織の計画が上手く行っていれば、世界は変わっていたかも知れない。


 言いながら、スッと青年は立ち上がった。


「またデッカイの造るのにも先立つ物は必要になるわな」


 そういう青年と総統の見下ろす先では、大騒ぎが始まっていた。

 やり方はそう変化は無い。


 悪の大幹部と随伴する兵器が、人々を一応は脅かしている。

 最も、街の何処からも煙も出ていなければ、目立った被害は無い。


 精々が、怪しげな兵器が現れているだけだ。


「そんじゃあまぁ、ちょっくら行ってきますわ」


 軽く声を掛けると、青年はバッと跳ぶ。

 そんな頼もしい後ろ姿を、総統は見送っていた。

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