表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正義の味方、はじめました  作者: enforcer
21/30

深淵の化け物


 正義の味方は死ぬのかと問えば、その答えは単純に死ぬ。

 悪の大幹部達も死ぬ様に。


 だが、リアとナオトは、怪物である青年と戦っても死ななかった。

 但しソレはあくまでも青年が【手加減】をしたからに他ならない。


 二人は慣れる内に忘れていたかも知れないが、正義の味方とはそう名乗っているだけの化け物に他ならなかった。

 人外の力を持ち、それを振り回す事が出来る。


 カエデとアヤも戦いはしたが、お互いにソレは本気の殺し合いと言うよりも、行動を伴った痴話喧嘩という方が正しい。

 だからこそ、二人は相手の命まで奪おうとはしていなかった。


 それに対して、ナオトとリアの場合は事情が違う。


 身勝手な理由から、怪物が力を振るってしまえばどうなるか。

 頭に血が登って居たからこそ気付いていなかったが、ナオトもまた、立派な怪物である事を忘れていた。


   ✱


 頭を抱えるナオトの前には、台が一つ。 

 そして、その台は空でない。


 其処には、リアが乗せられていた。


 本来は外科用の手術台なのかも知れないが、用意は無い。

 それはつまり、台の上の人物にはソレをしても意味が無いという事を示していた。


 どれ位の時間が過ぎたのか、ガチャリとドアが開かれる。

 ハッと成ったナオトが顔を上げれば、其処には博士の姿。


「博士……俺」

 

 それ以上は言葉を言わないが、言わんとする事は見れば解る。

【彼女を殺してしまった】と。


「……やってしもうたか」


 言いながら、博士は台の上のリアへと近付く。

 とりあえずはと白衣からペンライトを取り出し、瞳孔の反射を調べて見るのだが、目蓋を開けられた時点でピクリともしなかった。


 寝ているだけならば、其処までされれば普通は起きる。 


 では、リアが寝ているだけかと言えば、聞こえる筈の息も無い。

 傍目には傷は少ないが、その命は既に無かった。


「……ナオト君。 どうしてだね」


 本来ならば、今すぐに警察に通報し、突き出すべきだろう。

 とは言え、正義の味方を普通の警察が捕まえられるのかと言えば、無理がある。


 仮に刑務所に入れた所で、直ぐにでも実力で出て来るだろう。

 手錠は融解し、閉じ込めるにはそれはとてつもない設備が必要になる。


 つまりは、捕まえると言う事に意味が無かった。


 諭す様な博士の声に、ナオトはまた頭を抱える。


「違うんだ! 俺は、俺はただ……」


 止めようしただけと言おうするのだが、言葉が続かない。

 何故ならば、今更何を言ったところで、全ては言い訳でしかない。


 どの様な弁解をしたところで、なんの慰めにも成りもしない事は本人が一番良く解っていた。


 多くの大幹部を屠って来たが、いざ自分の仲間を自分の手で殺してしまった。

 必死に唸るが、台の上のリアへは届かない。


【どうしてそんな事をした?】


 そう博士がナオトを咎めないのは、意味が無いからだ。 

 既に無敵の青年は何処かへと消えてしまい、残った二人の内、一人も喪われた。


 こうなると、もはや悪の組織への対抗手段が限られる。


 勝つか負けるかで言えば、状況は絶望的と言えた。

 巨大兵器を倒したにも関わらず、悪の組織は勢力を衰えさせるどころか盛り返している。

 

 新たな兵器を創り上げ、また世界へと侵攻を開始。

 

 最も、それは青年が総統と結託したからこそ可能なのだが、そんな裏を博士もナオトも知らなかった。


 そうなると、正義の味方としては問題である。


 青年が居たからこそ、自分達は悪の組織に対して優位に立っていただけであり、その青年が居ないとなれば、もはや自分達は風前の灯火でしかない。


「博士……俺は、どうしたらいいんですか」


 悩むナオトだが、博士にしてもこの事態は想定すら居ない。

 警察への自首を進める事は出来るが、それでは悪の組織が活動を再開した時、止める者が居ない事に成ってしまう。


 もはやそうなれば、世界は悪の組織の物だろう。


 とは言え、悪の総統にはその気が無く、青年無しには成し得ない事なのだが、それを知る者は多くはなかった。 


 そうなれば、正義の味方としてはすべき事がある。

 早急に【無敵の怪物】である青年に代わる者を用意しなければ成らない。

 

 だが、その候補足り得る異能者の殆どは悪の組織の大幹部であり、殆どは死に絶え、今生き残っているのは多くはなかった。


 博士の目が、ジロリとナオトを見る。


「……ナオト君。 君は、化け物に覚悟は在るかな?」


 唐突な問いに、ナオトの顔には疑問が浮かぶ。


「それは、どういう意味なんですか?」


 スッと振り返る博士だが、部屋の証明が強くないせいか、その顔には影がさしている。 


「どうもこうも、君は、彼に勝ちたいんじゃないのかね?」


 名前を言った訳ではないが、それが誰を指して居るのかは解る。

 思わず頷くナオトに、博士は、怪しい笑いを顔に浮かべた。


「では、早速始めねばならないな」


 何を始めるつもりなのか、それは、言った本人にしか解らない。


   ✱


 正義の味方の秘密基地に置いて、何かが行われる。

 そして当然の事ながら、何かの行動をすれば、それは周りにも聴こえるだろう。


 博士とナオトが何かをして居る。

 そんな話を聞き付けた助手は、それを確かめるべく、基地内を探し回っていた。


 今の所、自分達の陣営が危ういのは誰もが実感を持っている。

 

 青年を呼び戻そうにも【誰がどうやるのか?】という疑念もあった。

 口頭にて【戻ってください】と頼む事は出来るが、それだけで戻って来てくれる様なら、そもそも青年は去らなかっただろう。

 

「こんな時なのに……」


 思わず、助手の珠姫はそんな事を口走る。

 青年が去ってしまった原因は自分に在ると言われても、彼女の中には負い目は無い。


 何故ならば、助手の気持ちは以前からずっとナオトだけを見ていた。 

 そんな彼女も、青年が居ないという不安は感じている。


 何せ正義の味方の筆頭だったリアとナオトの二人を、苦もなく倒していたからだ。

 それほどの化け物が【味方】ではないとなると、彼女も気が気ではない。

 

 誰かに相談をと、助手は人を探していた。

 なんとかしなければいけない事は解っていながら、何をすれば良いのかが解らない。


 そんな折、助手はふとある事に気付く。


「あれ? オペルームに電気付いてる?」


 使う予定が無い部屋に、電灯が灯る。

 それはつまり、誰かが其処を使っているという証明だろう。


 ただ、助手の知る限りそんな予定は無い筈だった。


 青年と戦った二人にしても、手術が必要なまでの傷は負っていない。

 偶々電気の消し忘れではないかと、助手は其処へと顔を覗かせる。


 其処で直ぐに、ある臭いに気付いた。

 鉄臭いとも言われるが、ソレは、酸化した血の臭い。


 臭いもだが、異様な後ろ姿に助手は戦く。


 スッと振り向いたのは、血に濡れた手術衣姿の博士だった。


「は、博士? 何をされているのですか」

「お~、珠姫君。 丁度いい所に来てくれた。 すまないが、誰かの手伝いが欲しかったんだよ」


 手術を一人でするのは難しい。

 だからこそ、博士が助手を欲しがっていた。


 問題なのは、誰の手術をしているのか、だろう。


「ほれ、サッサと手伝わんか」


 促されるままに、助手は自分の仕事をしようとする。

 ただ、足を踏み入れ、数歩の所で、珠姫はヒッと引き攣った声をあげて居た。 


 博士が誰の手術をして居るのかと言えば、ソレは死んだリアではなく、彼女を殺したナオトの方である。


「博士!? コレは……どういう……」


 慌てふためく助手に、博士はフンと鼻を鳴らすと背を向けてしまう。


「どういう? 簡単じゃよ、必要な者が居なければどうすべきか? だったら創るしかない。 そうは思わんか?」


 モノが無いなら作れば良いという発想。

 

 それが単なる家具や料理程度ならば、問題には当たらない。

 だが今の博士は、ナオトを材料に何かを創ろうとしていた。


「そんな事を……でも……」

 

 目が慣れる内に、暗がりも見えて来る。

 灯りに照らされているナオトと博士とは別の者が、もう一人。


 手術室の奥の方へと置かれているのは、リアだった。


「うそ……そんな……」


 一応は気を使ってシーツが掛けられているものの、ソレは本来真っ白な筈が、赤黒い染み広がっている。

 ソレは、リアの亡骸に博士が何かをしたという証であった。 


 正義の味方という陣営の人々は、切羽詰まる余り気付いていない。

 

 かつて、ある言葉が在った。 


【怪物と戦う者は、自分達が怪物その物にならない様に気を付けねば成らない】


 というそんな言葉を、先人は残している。

 だが、それを自覚して居る者は多くは無い。


「どうして、どうしてなんですか!?」


 事態が飲み込めず、半狂乱の助手に、博士の鼻が唸った。


「どうして? 珠姫君も解ってるだろうが、化け物を倒すには、化け物が必要なのだよ。

 例え、少々の犠牲を払ってでもね」


 果たして正気なのか、そらとも狂気なのか解らない声。

 だからか、正義の味方の秘密基地では、助手の金切り声が響いた。


    ✱ 


 世界の何処かで、悍ましい事が行われていたとて、それに気が付ける者は多くは無い。

 

 ソレは、元正義の味方にしても同じ事だった。


 アヤはカエデを伴い何処かへと行ってしまった以上、青年は独りで寝るしかない。

 ソレはそれでも良いかと、布団に入って就寝をした。


 其処までは憶えているのだが、朝日が窓から差し込み、青年は目を覚ますのだが、違和感に気付く。


「いったいぜんたい……コイツはどういうこった?」


 記憶が確かなら、自分は独りで寝た。

 その筈が、自分両脇にはいつの間にかアヤとカエデが居る。


 二人共にちゃっかり浴衣に着替えているのは御愛嬌であった、


 何故に二人が青年の布団に入り込んだのから定かではないが、悪い気はしない。

 悪い気はしないものの、両腕をガッチリと捕まっていては動けない。


「……参ったな、こりゃ」


 降参を意味する言葉なのだが、青年の声は寧ろ、安心感に満ちて居た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ