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正義の味方、はじめました  作者: enforcer
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大幹部にも意地は在る


 往々にして、悪の大幹部が戦う場合は、派手である。

 何せ総統から命令を受けて【世界征服計画】の為に戦うのだ。


 化け物呼ばわりされる力を思う存分に振り回す。


 とは言え、今のところカエデとアヤの二人は、総統からは特段こうしろという命令は受けていない。


 つまりは、二人の戦いは全くの私情に因るモノである。

 巨大兵器を従える必要も無ければ、人々を恐怖に陥れる必要も無い。


 その筈が、二つ名を持つ程の二人は、今までの計画の時以上に真剣であった。


 遠目に見た者は、火を纏う少女の姿に驚くだろう。

 ただ、如何なる技を繰り出そうとも、アヤには届いていない。


 何故ならば、夜の闇はアヤにとっては絶対的な優位を与えてくれる。

 では、カエデは不利かと言えばそうではない。

 

 少女が語った通り、火を知る前の人類に取って闇は恐れるべき物であった。

 

 何処に何が潜んでいるのか解らない群雄割拠の時代。

 其処では、人類は圧倒的に無力である。


 夜目が効かないのだから、夜間に置いて人類は他の動物達に取っては格好の標的でしかなかった。

 

 力も無く、爪も無く、夜を見通せず、匂いや空気の流れにも鈍感。

 そんな生き物は、肉食動物達にして見れば脚の遅いご馳走でしかない。


 ではどうするのかと言えば、日が昇る事を必死に祈りながら何処かへと隠れるのみ。

 だからこそ、今でも太陽は天照大神と崇められて居る。


 だが、いつしか偶々何処かの樹木に落ちた雷に因って燃え上がった火を見て、人は火という存在を知る事と成る。


 以来、人は火の扱いを憶え、それは夜でも人に安心をもたらしていた。


 焚き火を見ると和むというのは、過去から続く遺伝子に刻まれた記憶である。

  

 そして、カエデという少女は、燃え盛る炎その物とも言えた。

 本来ならば、火とはあらゆる生き物に対して死をもたらす現象である。


 だが、破壊無くして創造が起きない様に、カエデはそれを自分の力として振るう事が出来ていた。


 太古の昔より、闇を払うのに人が用いたのは、炎である。


「どうしたよ! アヤ!」


 爛々と燃え盛るカエデだが、その勢いは衰えない。

 小柄な割には、何処からソレが出ているのかは謎だが、勢いは凄まじい。


 対して、アヤはと言えば顔には出さないが内心では舌打ちをしていた。 


 夜の闇全てを操れても、それは万能ではない。

 寧ろ、アヤの持つ力に取っては、少女の力は実に相性が悪かった。


 青年の場合は、単純に肉体の頑強さ故に打倒出来なかったが、カエデの場合はそもそも闇が近付けない。

 届かせようとしても、それは払われてしまう。


「正直……驚いてる。 まさか、貴女がそんなに強敵だったとは」


 今までは同僚という事も勿論なのだが、総統から仲間割れは厳に戒められていた。


 総統にすれば、大事な戦力が内輪揉めで損耗されては堪らないという事情からだが、実際には悪の大幹部達は互いに戦った事が無い。


 だが、今や二人は悪の大幹部という立場など無視して居た。

 お互いに、譲れない想いの為に戦っている。


「そりゃあ……ね!」


 不意打ちは主義ではないのだが、この際手段を問うている場合でもない。


 少女の中では既に【明るい未来の将来設計】が出来上がっていたのだ。

 式を何処で挙げるのか、ドレスは何を纏うか、子供は何人か。


 ソレを、横から現れた泥棒猫に盗られては堪らない。


 なんとかアヤを打ち倒すべく、カエデが火の玉を放る。


 但し、コレもまた効果が薄かった。


 時間が夜である以上は、周りは全てがアヤの味方となる。

 ズッと溶け込む様に姿を消せば、火の玉は当たらない。


 アヤが消え失せたからか、カエデは露骨に舌打ちを漏らす。


「くぉら! 逃げ回ってないで出て来い!」


 気配を探ろうにも、周りの暗闇全てが、アヤとも言える。


 ある意味では、二人は膠着状態であった。

 何方にしても、攻め手に欠ける。


 何かの突破口が在れば其処から勝ちを拾えるかも知れないが、お互いにソレが欠けていた。


 将棋で言う千日手、チェスで言うステイルメイト。


 これ以上は出す手が無い。 それでは事態も動かない。

 其処で、先ずはとアヤが動いた。


 ズッと闇の中から、敢えて姿を晒し、当然の事だが、カエデは身構える。


「ねぇ、カエデ」

「あん!? なんだよ、降参だって言うんなら、聞かないでもないよ」


 少女の口振りに、アヤは思わず微笑ましいと感じていた。

 本人が気付いてか、意識せずにやっているかは定かではない。

 

 カエデの口調は、青年を確実に模していた。

 無意識の内に、少女は青年に合わせようと自分を変えている。


 アヤにしても、それは同じ事だった。


「私達の勝負は、どうも決着が着きそうもない」

「はぁ!? 全っ然これからなんだけど!」


 強がる素振りをして見せるが、カエデにしても決め手に欠ける。

 無論の事、アヤを放置は出来ない。


 そんな事をすればどんな事が行われてしまうのか、少女にすれば許せない。

 同僚の結婚式に御祝儀を弾む気は毛頭無いのだ。


 であれば、日が昇るまで戦う用意は在る。

 昼間になりさえすれば、アヤの力は激減するのは明白であった。


 そして、当然の事としてアヤもその事には気付いている。

 だからこそ、早めに手を打っていた。


「そう、日が昇れば貴女の方が有利。 でも私達敵じゃないでしょ?」


 ポンと出される一言に、カエデの火勢が少し弱まる。

 コンロに例えれば、噴き出す強火だったのが、弱火へと。


 腰に手を当て、ふうんと鼻を唸らす少女だが、その癖もまた、青年のモノに似ていた。


「敵じゃない? そうかなぁ?」


 アヤを訝しむカエデだが、無理もない。

 意中の人に手を出され掛けても、黙っていろと言う方に無理が在る。


「でも、貴女はあの人の所へと来れたでしょ?」

「そりゃ、あんたの部屋に色々と在ったからね」 


 抜け駆けをした事には間違い無いアヤだが、それでも、彼女はカエデにわざと追えるだけの材料は残していた。

 それは、青年が公平(フェア)な勝負を好む事を知っているからだ。

 

「気付いてる?」

「なにが?」

「貴女が追って来れる様に、わざとそうしてあげてたって」


 本気で逃避行するつもりならば、痕跡を残しはしない。

 悪の大幹部が本気で行方を眩ませれば、追う事は無理である。


 思わず、口を閉じるカエデだったが、その鼻は唸っていた、


「……だったら、なんだっての?」


 火勢に続いて、カエデの敵意が弱まっている。

 それは少女が纏う炎に直接的に現れていた。

 

 轟々と燃え盛って居たのが、今では煮物でも出来そうな程に治まっている。

 それこそ、アヤが付け込む隙間と言えた。


「……貴女は、あの人の事をどう思ってる?」


 出された質問に、カエデに見える変化が起こる。

 弱まっていた火は、ポフっと消えてしまった。


 急に目を逸らし、手持ち無沙汰なのか指が絡まる。


「な、なんでそんな事聞くんだよぅ」 


 はぐらかすカエデだが、それは無理があった。

 それならば、わざわざ青年と同僚を探し出して駆け付ける意味が無い。


「……答えて」


 真摯なアヤの声に、カエデは唇の上下を擦り合わせる。  

 その様は、言うべきか言うまいかを迷っているのは露わだった。


「貴女が答えないなら、私から先に言うけど……彼を慕ってる」


 アヤの声に、カエデは顔をハッとさせた。

 見てみれば、同僚はジッと目を向けているのだが、其処にはふざけた様子は無い。


「貴女は?」


 繰り返される追求に、カエデはフンと鼻を鳴らした。


「あぁあぁそうだよ! 好きで悪いか!」


 性格ゆえに口振りこそ荒い。

 それでも、短いながらも雄弁に少女は自分の意志を明かして居た。

 

 この場に置いては、はぐらかす意味が無い。


 カエデの声を受けて、アヤが小さく頷く。


「だったら、どっちが彼を射止めるか……それで勝負すれば良い」


 そんな声は、ある意味では宣戦布告でもある。

 但し、別に其処には殺し合いをしようという意図は無かった。


 アヤ自身もまた、大なり小なり青年の影響を受けている。


 以前の彼女ならば、あっさりカエデを殺そうとしたかも知れないが、今はそうした事をするつもりは無かった。

 そんな事をすれば、誰が哀しむかは想像に難くない。


「本気かよ」

「本気だよ」


 短いながらも、それは互いに了承を現しても居た。


 悪の大幹部が世界征服計画そっちのけで色恋に集中すると言う宣言とも取れるが、この場にはソレを咎める者は居ない。


「んじゃ、まぁ……」


 如何にも渋々と言った様子で、カエデはアヤへと歩み寄ると、手を差し出す。

 穿った見方をしないなら、それは握手の申し出であった。


 差し出される手に、アヤも自分の手を重ねる。

 

 ガッキと組まれる二人の手。

 

「だったら、もう抜け駆けとかすんなよ?」

「それは、コッチのセリフ。 貴女、先にヒデ貰ってたでしょ?」


 青年から贈られたクマに、カエデはこっそりと【ヒデ】という名前を付けていた。

 それは極秘の筈なのに、アヤにはバレている。


「アレは、まぁ……てか! そっちだって彼処で何しようとしてたんだよ!」

「何ってナニだけど? 最も、貴女が邪魔したから、まだ何もしてない」


 一組の男女が、同じ屋根の下で、一夜を共にする。

 その意味が解らない程に、カエデも子供ではない。 


 実際には、カエデが邪魔さえ入らなければ、アヤは我慢をしていなかったという事になる。


「なんかさぁ、やっぱり目ぇ離せないわ、あんた」

「そう? どうかしら」


 握手こそしていても、二人は悪の大幹部である。

 実際には、互いに手を握り潰す勢いで力が籠もっていた。


   ✱


 悪の大幹部二人が派手に立ち回っている間も、時間が止まっては居ない。


 別の場所では、別の二人が相談をしていた。


「ねぇ……考えてくれた?」


 そう尋ねるのは、正義の味方の片割れであるリア。

 問い掛ける先は、その相方であるナオト。


 リアの声に、ナオトは露骨に不機嫌そうな顔を隠さない。


「またソレか? 俺らが悪いってのか?」


 正義の味方から青年が離脱してしまった理由については、色々と考察され議論もされたが、答えは単純明快である。


 ろくな扱いをされないからこそ、別の所へと転職するという事であれば、普通の人間でも珍しい話ではない。 

 より良い環境や待遇を求めるのは、至って普通の事であった。

 

 苛立ちを隠さないナオトに、リアは困ってしまう。


 もし次に悪の組織が現れた時、もしも覆面被った青年が現れたなら、止められる自信は無い。

 事実、二人は青年にあっという間に倒されていた。


「悪いとか、そういう事じゃなくて……」

「じゃあなんだ?」


 ナオトの声には、あから様な怒気が窺える。

 リアは内心では【今までこんな事無かったのに】とは思うが、それは二人の位置の変化に理由が在った。


 悪の組織と戦う内に、二人は自然と仲を深め、超巨大兵器破壊の後に、二人の距離はより縮まって居る。


 では、ソレが全て上手く行くのかと言えば、別である。


 交際と同棲は、似ている様であっても違う。


 離れている時とは違い、見なくていいことも見える様により、気付けなかった事も気付いてしまう。

 加えて、ナオトは青年に負けた事を気にしていた。

 

「今からでも遅くないかも知れないでしょ?」 

「彼奴に、あんな奴に頭下げろって言うのか?」

 

 リアにすれば、離れた青年に歩み寄る気は在った。

 でなければ、次は本当の怪物を相手に回す事になりかねない。


 無論の事、青年が本心を語らなかったからこそ、そういう思いに至ったのだが、逆に言えば其処までの仲でしかなかった証明でもある。


「……もういい。 わかった」


 やさぐれたナオトに、先に業を煮やしたリアが立ち上がる。

 言い合いをしたところで、互いの主張は噛み合わないのでは、まとまるものも纏まらない。


「どこ行く気だよ?」

「決まってるでしょ……彼の……所だよ」

 

 今更に成って、リアは青年の名も知らぬ事に気付く。

 そんな事すらも知ろうともしなかったのだから、仲間に捨てられても無理もないと思えてしまう。


 悪の大幹部が青年の名前を知っているのは皮肉である。


「おい、本気か?」

「本気だよ。 でなきゃ、どうするの?」


 リアの質問には、ナオトも答えが出せない。

 この場に置いて【俺は奴に勝てる】と言う事は出来るが、ソレが実行出来るかと言えば怪しい。


「じゃあ、私行くから」


 押し黙る相方に、リアは背中を向けてしまう。

 この時、ナオトの中に何かが走った。


 深い仲だからこそ、ナオトにすればリアの発言と行動は、許せるモノではない。


 相手の胸の内全てを見通せる訳ではない以上、推し量るしかないのだが、ナオトに取っては、リアの行動は【裏切り】に見えてしまう。


 そしてそれは、人の心を変える転機とも言えた。

 

 青年を憎んでいた筈の悪の大幹部が心を変えた様に、今までの憎しみが愛情へと変わる場合も在れば、その逆に愛情が憎しみへと変わる事もある。


 ソレが、今のナオトの中では巻き起こっていた。

 心の動きは、そのまま行動に直結してしまう。


「……待てよ!」

 

 頭に血が登ったナオトは、怒りに任せてリアの背中へと雷を投げ付ける。

 

 全くの不意打ち故に、ソレを防ぐ術がリアには無い。

 また、そんな事をするという想定すらしていなかった。


 以前ならば、致命傷は青年が防いだが、その青年も、もはや側には居ない。


 雷に胸を貫かれ、リアはその場へと膝を落とす。

 信じられないと言った顔のままで、前のめりに倒れる。


 呆気ない程に、正義の味方の片割れはうつ伏せに崩れ落ちていた。


「……あ、リア……おい?」

  

 リアを打ち倒してしまったナオトにせよ、今更に成って自分が何を仕出かしたのかに気付いたが、既に時は遅かった。

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