表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正義の味方、はじめました  作者: enforcer
2/30

正義の味方と悪の組織


 四人の大幹部の正式名称は、当たり前だが在る。


 炎を操るファイヤーガール。

 影を操るシャドーレディ。

 氷を操るアイスウーマン。

 光を操るセイントフィメール。


 それぞれが、一騎当千の大幹部達だが、実のところ、覆面は何度となく彼女達とは戦っていた。


 実際には、悪の計画を実行しようとする彼女達の前に現れては、その邪魔をして来たのである。

 さて、何度となく戦った筈なのに、彼女らはなぜ存命しているのか。


 答えは単純に、覆面は彼女達を退けこそすれど、致命傷を負わせる様な真似はしていないからだ。

 いざどうしてもぶつかる際にも、手加減は忘れて居なかった。


 此処まで踏まえた上で、果たして四人の大幹部達は覆面を倒せるのか。


 答えは、直ぐ出る。


   ✱


「むぎゅう……」


 どうにも尻窄みな声だが、断末魔ではない。

 四人掛かりでも、覆面を剥がすにも至って居なかった。


 それだけでなく、四人共にほぼほぼ無傷にて、倒されてしまっている。


 広間の至る所には、激戦の跡こそ在るが、それ等を行ったであろう覆面は、手でポンポンと叩いて埃を払っていた。


「で? これで終わりか? 満足したかお嬢さん方?」


 まるで幼子をあやしたとでも言いたげな覆面に、火吹き呼ばわりされた少女がうつ伏せから顔を持ち上げた。


「この、やろう……あんた、いったい」


 大幹部一人一人ではとても勝てず、不本意ながらも四人同時に仕掛けたにも関わらずやはり勝てない。

 悔しげに唸る少女に、覆面はため息を漏らしていた。


「あのなぁ、おら別にお嬢さん達と喧嘩する気なんざねーんだわ。 ちょいとそっちの総統さんに、用事があるだけなんだって」


 勝ち誇るでもなく、まるでお使いに来ましたと言わんばかりの声。

 それを聞いてから、少女はゴトンと頭を床に落とす。


 流石にそれを見て、覆面は慌てて少女へと駆け寄っていた。


 下手に怪我を負わせない様には気を使ってこそ居ても、間違いという事もあり得てしまう。

 

 サッとうつ伏せに転がる少女を助け起こすと、その胸は上下して息をしている事を示していた。


 少女が生きている事からホッとしたした様に息を吐く覆面。

 ソッと床に寝かせると立ち上がる。


「……待て」

「うん?」


 聞こえた声に、スッと振り向けば、真っ黒と称された女がジッと覆面を睨んでいた。


「なんだよ、まだやる気かい?」


 嫌そうな声に、唇が開かれる。


「なぜ」

「はい?」

「なぜ、私達を殺さない」


 負けた側からすれば、疑問であった。

 戦いとは遊びではなく、殺し合いである。

 敗者は勝者に生殺与奪の権利を握られ、仮に嬲り殺しにされた所では文句は言えない。


 その筈が、覆面は負けた相手を介抱すらしていた。

 今の今まで、殺そうと挑んで来た相手にも関わらず。


 そんな問いに、覆面は肩を竦める。


「別に、だってあんたら全員綺麗だからなぁ……もってぇねぇだろ?」

 

 殺さない理由を答える。

 それは悪の組織にしてみれば理解し難い言葉だった。


「そんな事で……」

「俺に取っちゃ大事な事さ。 あ、それに、女が死んだら寝覚めが悪いだろうに?」

 

 それだけ言い残すと、覆面は影を操る女に背を向けてしまう。

 しようとすれば、その背に向かって攻撃を仕掛ける事は出来た。


 にも関わらず、ただ手を伸ばすだけで、その手からは何も放たれる事は無かった。


   ✱


 悪の大幹部をそれなりに蹴散らし、更に奥へ奥へと進む。

 一向に他の二人が追い付いて来ないが、覆面には気にした様子は無い。


 それどころか、顔を覆う覆面からは呑気な言葉が漏れていた。


「さぁてさて、どうすっかなぁ……晩飯はカツ丼か、いや、折角だから、お祝いに焼き肉かなぁ」


 地球の未来やその行く末といった事でなく、覆面が気にしているのは晩飯に何を食べるのかであった。

 やる気が無いのかと言われれば、それは、本人にしか解らない。


 ただ、仮に地球が滅んでしまえば、食べたい物は食べられなくなる。


 だからこそ、それを阻止せんと、覆面は巨大兵器の奥へ奥へと進んでいった。


 通路の明かりは徐々に目減りし、暗さが増していく。

 その様は、あたかもこの先に【ラスボス居ますよ】という雰囲気を醸し出していた。


「よーう、来てやったぞ!」


 覆面が最深部へと到達すると、其処は何とも言えない空気を漂わせていた。

 重苦しいというべきか、薄暗さも相まって実に物々しい。


 そんな中にボウっと浮かぶ人影。

 よくよく目を凝らせば、それは悪の組織の総統であった。


「おー、居た居た。 おっ始める前に、ちょいと聴きいことがあんだけど、良いかな?」

 

 離れた場所にも聴こえる様にと、覆面からは大声が発せられる。

 顔を覆い隠している正義の味方に対して、総統はその端正な顔を曝け出して居た。


「開口一番がそれですか? まぁ、死ぬ前に一つぐらい良いでしょ、なんです?」


 遺言を聴いて置く程度の器量は在るのか、総統は静かに応えた。

 

「なんだってあんたのとこの幹部達って、女ばっかりなの?」


 素朴な疑問である。

 確かに、覆面が戦った大幹部橘、全員が女性であった。


 そんな問いに、総統は目を丸くする。


「そんな事を、わざわざ尋ねる為に此処まで遥々来たと? 地球を離れ、宇宙船で突っ込んで来た理由はそれですか?」

 

 総統にしてみれば、もっと色々と聞かれると思っていたのだろう。

 地球を征服しようとする理由や、その目的、果てはその後に何をするのか。


 一応は全てに応えられる用意がある。

   

 だが、尋ねられたのは何故に大幹部は女性だけなのか、という事だった。


「ああん? 別に、気になったから聴いてるんだけどなぁ……良いだろ別に、なんか隠す理由が在るのか?」


 どうやら、覆面は本当に他の事には興味が無いと言う。 

 何とも言えない相手に、総統は思わず笑っていた。


「……いえ、別に隠す理由なんて在りませんよ。 ただ、強いて言うなら、他の大幹部達は貴方が倒してしまったからでしょうな」


 総統からの答えに、覆面は腕を組んで鼻を鳴らす。

 考えて見れば、間違いでもない。

 

 先程倒した四人以外にも、幹部達は確かに居た。


 ただ、誰もがその身が砕け、死ぬまで戦い抜いたと言うだけである。

 無論の事、覆面にしても殺すつもりは無かった。


 それでも、如何に正義の味方が一生懸命に手加減をしたとて、時にはそれが及ばぬ事も多かった。

 死にそうな相手を助けようにも、届かなかった事も一度や二度ではない。


 過去を思い返してか、覆面からは悩む様な唸りが漏れていた。


「いや、俺だってよ、手加減しようとはしたんだぜ? でもなぁ、いっくら頑張ったってさ、加減が足りないって時も在ってな」


 本人がどれだけ手加減をしても、相手が突っ込んで来てはどうにも成らない。

 事実、今や居ない幹部の中には、覆面を道連れにせんと特攻を仕掛けた物も多かった。

 

 その事に関しては、覆面は後悔を隠さない。

 何とかしようにも、どうにも成らなかったと悔やむ。


 顔こそ隠れて居ても、それは総統からも感じられた。


「不思議ですね、どうして貴方みたいな人物が、正義の味方なんてやってるのか……それだけの力が在れば、それこそ世界征服なんて簡単だったでしょうに」


 悪の組織の総力を結集し、覆面に付いては調べた。

 その結果解ったのは【兎に角やたらと強い】という事だけである。


 空を飛べる訳ではない。

 手からは光線や火を放てもしない。

 格別な超能力も無ければ、神懸かりの運も無い。


 在るのは、無尽蔵の力を持っている事だけ。


 総統の声に、覆面からは笑いが漏れていた。

 

「世界征服ねぇ……んなもんして、なんか楽しいのか? 俺なんて、誰かが側に居てくりゃあ、そんだけで良いんだけどなぁ」


 絶大な力を持ちつつ、正に歩く核弾頭とでも言わんばかりの超人ながらも、覆面はそんな胸の内を明かす。

 

「本当に不思議な人だ、貴方は」


 心底疑問という総統。 そんな彼だが、顔の位置がズレる。

 単純に首が取れた、という事ではなく、総統の周りが一斉に動き出していた。


「おーうおう、こりゃスゲエ」


 覆面の見ている前で、総統は機械に囲まれて行く。 

 すっかりと姿を巨大な異形へと変えた総統に、覆面は拍手を贈る。


「こらまたエライもん拵えたな」


 飄々とした覆面に、異形からは雑音が漏れ出す。


『此方からも、一つ尋ねたい』

「お? なんだい?」

『何故、待っていたんです? 待たずに攻撃すれば良いものを』


 問われた覆面は、軽く肩を竦めた。


「なんで? 古今東西、変身中に攻撃なんてしたら失礼だろ?」


 勝つ為ならば、本来は手段を問うべきではない。

 勝てば官軍、負ければ賊軍という通り、勝ちさえすれば、後はどの様にでも出来る。


 その為にも、先ずは勝たねば成らない。

 にも関わらず、覆面は敢えて待っていた。

  

 そして答えられた理由は、覆面なりの下らない拘り。


 ソレを聴いてか、異形からは何とも複雑な音が漏れ出る。

 溜め息の様でもあり、同時に感嘆の息でもある。


『貴方は……いや、もはや言葉では語るべきではないでしょう』

「おん? おう、そらそうだわな」


 軽い言葉を合図に、異形と覆面が同時に前へと出ていた。


 数秒と経たず、馬鹿げた光景が広がる。


 鋼の塊とでも言わんばかりの拳が、覆面を襲うが、それに向かって自分の拳を合わせて行く。

 体積、質量、速度と、どれを取っても、覆面が勝てる要素は無い。


 その筈が、砕けたのは異形の拳であった。


 雷の様な凄まじい音を立てながら、機械の塊が砕けていく。

 この場に観客が居たならば、自分の目を疑うだろう。


「せい……や!!」


 トンとその場を蹴って跳び上がると、蹴りを放つ。

 傍目には単なる跳び蹴りなのだが、それだけで異形が全体が怯む様に軋んだ。


 勿論、相手も巨大であるからこそ、多少の損傷では止まらない。


 神話の様な光景が、巨大兵器の深部にて繰り広げられる。

 一人の人間が機械の化け物と殴り合う。

  

 其処には、一切の小細工は抜きで在った。


 特殊な能力を使う訳でもない、原理不明の技も出さない。

 持ち前の五体のみを武器として、ぶつかって行く。

 

 物理的には絶対に勝てない筈なのだが、押しているのは覆面の方であった。


 爆発音にも等しい音が響き渡る度に、徐々に徐々に、異形は壁へと押しやられて行く。


 先に音を上げたのは、異形の身体の方であった。

 金属の捻じれや軋みが悲鳴の様に唸る。


 機械である以上、限界を超えてまでは動けない。


 程なく、異形は凄まじい音と共に倒れていた。

 

 それを見ても、覆面は別に勝ち誇りはしない。

 ただただ、自分が殴り倒した相手を方へと目を向けていた。


「よう、終わりか?」


 倒れた相手への追い打ちは、勝つ為にはすべきである。

 是が非でも勝たねば成らない筈だが、覆面はそうはしない。


 しんと静まり変える深部。 其処へ、緊急事態を知らす音が響いた。


「あ? なんだよ」


 ビービーと鳴り響く音に、覆面は思わず耳を塞ぐ。


『警告します! 警告します! 動力炉が損傷を負いました!』


 機械の告げる音声に、覆面は「は?」と声を漏らす。

 どうやら、一向に付いてこない二人が、勝手に何処かで何かをしていたらしい。


『動力炉破損の為、爆発の危険があります! 搭乗員は、3分以内に脱出してください!』

「カップ麺じゃあるめぇに!」


 実にご丁寧な退去を促す声に、覆面は動いた。

 先程、殴り倒した異形へと近寄ると、そのひしゃげた装甲を海老の殻でも剥くように剥がしていく。


「あー! どんだけだよ!」


 剥がしては押し退け、また剥がす。

 おおよそ十秒程で、中で気絶しているらしい総統が見えた。


「居た居た、たくよぅ、もっと薄く作っとけよな」


 壊れた異形から、悪の総統を引きずり出すと肩に担ぐ。

 トンと降りるなり、覆面は担いだ者の重さなど感じないかの如く駆け出していた。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ