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正義の味方、はじめました  作者: enforcer
15/30

薄っぺらい正義の皮


「考えて見たらさ、俺、此処に要るか?」

 

 果たして、正義の味方をやるに当たり、仲間は必要かと言えば、青年にはその必要が無かった。


 足手まといは邪魔にしかならず、秘密基地も無用。

 必要なのはと問われれば、己の五体のみである。


 正義の味方ごっこをやるにせよ、無駄にやる気在るだけの二人は役立たず。

 

 以上の事を踏まえると、青年には仲間は要らなかった。


「要らねぇだろ? んじゃあまあ、正義の味方はお前らで頑張んな」


 サッサと去ろうとする青年に、男は顔を向ける。


「おい、待てよ」

「ナオト……」

「良いから」


 制止する女を振り切り、ナオトと呼ばれた男は青年を睨む。


「抜けるって言うけどさ、どうするつもりなんだよ?」

「どう? さぁてね……」


 正義の味方を抜けたとはいえ、ごっこならば一人で出来る。

 かと言って、このままでは二人が邪魔をしに来るのは必然であった。


 余計な真似をされ、悪の大幹部達に傷を付けられても寝覚めが良くない。

 其処で、青年は一計を案じる。


「まぁそうだな……悪の組織にでも鞍替えするかぁ」


 実に呑気な声だが、事態は深刻であった。


 何せ青年は天下無敵の超人であり、ある意味では世界の動向を一人でどうにでも出来てしまう。

 その気になれば、何処かの国へ赴き、観光がてらにその国を制圧する事も可能だろう。

 特に理由も無いのに、街を襲う怪獣の如く。


 特別な能力も大型の兵器も必要ではない。

 ただ散歩がてらに好きにすれば良い。


 そして、それは正義の味方を自負する二人の男女に取ってみれば、捨て置けない言葉と言えた。


「本気か?」

「さぁね、どうだろうなぁ」


 本心をはぐらかす青年に、男がぐっと拳を握り締めた。


「敵になる気なら、俺はお前を止めなきゃいけねぇ」


 ナオトの声に、青年はふうんと鼻を唸らせる。


「止めるって? お前が俺を? そら面白いジョークだな」


 睨み合う二人の正義の味方。 

 二人の間の空気は、その重圧の為に歪んで見える。


「ちょっと!? 二人共」


 一応は止めに入ろうとする女だったが、その立ち位置はナオトに近い。

 目に見えて憤りは見せないが、青年は目を細めていた。


「リア、やるぞ。 止めなきゃならない」

  

 そう声を掛けられた女は、覚悟を決めたのか、青年を睨む。

 相手の数は多いが、青年にしてみれば、数は問題ではない。


 寧ろ、怖気づくどころか笑いが口には浮かんでいた。


「いいねぇ……そういや、まだお前等とはやってなかったよな。 前から一回やってみてぇって思ってたんだよ」


 それは、正義の味方としての言葉ではなかった。


 総統に語った通り、青年は正義の味方という皮を被っただけの怪物という自覚が在る。

 だが、そんな人食いの怪物は今、その皮を脱ぎ去っていた。


   ✱


 秘密基地を出るなり、三人は二人と一人に分かれて立つ。


 武器をそれぞれ携えた二人の男女に対して、一人の青年は、いつもの様に顔を覆面で覆い隠すだけで素手である。


「さぁて……どっからでもどうぞ」


 軽く両手を挙げ、手の平を見せる。

 まるで戦う為の構えではないが、それは如何に相手を格下に見ているかを示していた。


 特に何も言わず、ナオトとリアの二人はそれぞれ顔を見合わせると、離れる。

 左右に散る事で、標的を分散する腹積もりだが、青年は動かない。

 

 動かない青年に対して、ナオトが空いている片手を挙げた。

 

 何も無い筈の其処へと、稲妻が走り、槍の如き形を取る。


 その技は、以前にも青年とアヤが演じていた舞台である大型兵器を貫いていた。


「……い……っけぇ!!」


 派手な掛け声と共に、ナオトの手から雷が放たれる。

 稲妻の如き轟音と共に装甲すら撃ち抜く筈の技だったが、青年はスッと半歩動くだけで避けていた。


「お? どした? 不意打ちじゃないと掠りもしないってか?」


 茶化す青年だが、ナオトにすれば技を外した所で意味はあった。

 派手な技は当てれば効果は大きいが、それ以上に、目眩ましの意味が強い。


 青年とナオトが見合っている間に、リアが背後に回り、大振りな斧を振りかざして跳んでいた。


「はあぁぁぁあ!」


 裂帛の気合と共に、大振りな斧が振り下ろされる。

 だが、スタスタと二歩前へ進む事で、青年は斧を避ける。


 標的の居なくなった其処へと斧がぶち当たり、地面を抉りながら派手な光が飛び散った。


「おいおい、せっかく背中を開けてやったってのに、わざわざ声を掛けるかね?」


 どんなに威力が在り、派手な技はだろうとしても、当たらねば意味が無い。

 驚きを隠せないリアに顔を向けようとした所で、ナオトが細身の切っ先を青年へと向けて突っ込んでいた。


「うぉあああ! 閃光けーん!!」


 声と共に、細身の剣は怪しげな光を纏う。

 その剣は悪の兵器を幾多も斬り裂いて来た。


 この時はかつての仲間を狙ったが、狙われた青年は鼻で笑う。

 剣とは、如何に鋭くともそれ以上でも以下でもない。


 刃に当たらねば良いのだ。


 目線を向けずとも、相手の大声が何処に居るのか、技の叫びが何をするかを伝えてくれる。

 

 ひょいと顔を動かし、迫りくる光る刃を避けると、伸ばされたナオトの手首を掴んでしまう。


「なぁ、前々から思ってたんだけどよ、お前等みたいのはさ、喋ってないと戦えないのか? うお~とか、やあ〜とかさ」

 

 青年にすれば、わざわざ自分が何をするかを伝える意義が見出だせない。

 技を当てたいなら、黙ってやれば良かった。


 古流の武技に置いては猿叫する場合も在れど、それは敢えて脱力する為に使うのであって、力む為ではない。

 腕に力を込めず、滑らかに刀を振り抜く為に、敢えて叫ぶ技術である。


 自分なりの言葉を呈する青年だったが、手首を掴まれたナオトは顔を歪める。

 愛用の武器は震えず、捕まって居た。 正に死に体である。


「ま……戦い方なんてのは自由だわな」


 驚愕に顔を歪めるかつての仲間。

 そんなナオトを、リアの方へと放る。


 転がりつつも、態勢を立ち直すナオトに、斧を肩へと担ぐリア。 

 二人を向こうに回し、青年は首を横へと軽く振った。


「おいおいおい……まさかまさか、まだ本気じゃあないんだろ?」


 正直な所、青年は退屈をし始めている。

 殆ど手を出さず、防戦に努めて見たが、退屈さは拭えない。

 

 青年の力は地味なものでしかないのだが、だからこそ弱点も無かった。


 やたらと光ったりといった無駄も無ければ、余計な準備動作といった手間も無い。

 単純に、強いだけである。


 故にこそ、其処には欠点が見い出せない。


 悪の総統が語った【天下無敵の怪物】が、二人の正義の味方の前には立っていた。


「ナオト……どうしよ」


 まだ始まったばかりと言うのに、リアの声は僅かに弱い。


 何故ならば、青年が味方の時は頼もしかった事は間違いではなかった。

 地味では在っても、その力は凄まじい。

 

 だが、いざその頼もしい味方が敵へと変わった時、それは、そっくりそのままに恐ろしさへと変わる。  


 地味で硬いからこそ、壁役として青年を酷使して来たが、逆に言えば、其処には欠点らしい欠点が無い。


 何かが苦手といった事も無ければ、何かに弱いと言う事も無い。

 堅牢な壁や岩ですら、僅かの亀裂が在れば其処を突けば打ち崩せる。

 

 とは言え、ソレが無いとなると話は違う。


 二人の前に立ちはだかる青年は、正に鉄壁である。

 歩く戦車どころの騒ぎではない。


 並の人間と差して変わらない体躯にも関わらず、その様は歩く要塞を想わせる。


「上等じゃないか!!」


 突如として、そんな声を張り上げるナオト。


「俺達にも意地は在る! お前なんか居なくても、俺達だけで出来るって証明してやる!」


 勇ましい声ではある。

 ただ、それは青年にしてみれば足元でキャンキャン吠える子犬の遠吠えであった。


 自分を大きく見せたいのか、或いは隣の女に良い所を見せたいだけなのかは定かではないが、ソレが虚勢に過ぎない事は青年が一番良く知っていた。


 まだ二人が倒れて居ないのは、青年が一切手を出していないからに過ぎない。


 ナオトの吠える声に、青年は鼻をふうんと鳴らす。


「んじゃあまぁ、やって見ればいいだろ? ほら、どした?」

「舐めんな!」


 青年の試せと言う声に、ナオトは地面を蹴った。

 ドンという勢いと共に突っ込んで来るのだが、其処には芸が無い。

 愚直さは、奇跡を産まなかった。


「うおりゃ……ぶ!?」


 跳び来るナオトの顔面に、青年は平手を合わせていた。

 敢えて拳を握らないのは、せめてもの優しさである。 


 でなければ、相手の勢いと自分の力が合わさり、顔面を文字通りに打ち抜いていたかも知れなかった。


「せい……よっと!」


 勢いを殺しつつ、そのままにナオトを前へと押す。

 普通ならば地面に倒れる所だか、勢いは止まらず、ナオトをそのまま弾丸の如く放っていた。


「わ、きゃ!?」

 

 相方を放られたリアが、慌ててナオトを受け止めるのだが、勢いが止めきれない。

 止めきれない勢いは、リアをそのまま押し倒していた。


「……いった……って、ナオト!?」


 気絶こそしなかったリアだが、ナオトは腕の中で呻く。

 まだ息があるのは、青年が本気を出していない証明である。


 倒れる二人へと向かって、青年が歩き始めた。


「どした、暇人倶楽部? ご立派な正義の振りかざして戦うんじゃないのか?」


 そうする必要は無いのだが、ズンズンとわざと足音立てて前へと進む青年。

 その効果として、リアには青年が異様に大きく見えてしまう。


 まるで、山程の巨大な巨人が、自分達を踏み潰そうとして来る様に。


 あと数歩という距離で、青年は足を止める。

 

「ほら、サッサと起こせよ」


 別にそのままトドメを刺しても良いのだが、青年はそうはしなかった。

 リアに向かって、相方を起こせと言う。


 実に馬鹿らしい行動ではあるが、リアは相方を揺すっていた。


「ナオト! 起きて! 起きてよ!」


 必死な声に、鼻がウーンとな唸る。

 飛ばしていた意識が戻って来たのか、ナオトは目を開けていた。


「お? 起きたか、なら立てよ、まだ生きてんだろ? ほら、いつまでも寝てないで、立って戦え」


 絶対的な自信が在るからか、青年は二人へと声を掛ける。

 リアは弱気な顔を見せるのだが、まだナオトの目には力が在った。


「へ……随分と、余裕じゃあないか……どうせなら、寝てる間にやれば良いってのに」


 そんな声に、青年は覆面に隠された頭を傾げる。


「俺はよ、弱い者いじめは趣味じゃあねぇんだよ」


 青年が二人と戦っている理由だが、別に其処には崇高な目的は無い。

 ただ単に、降り掛かってくる火の粉を払っているだけであった。

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