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正義の味方、はじめました  作者: enforcer
14/30

悪と正義の苦悩


 青年と総統だが、当たり前の事として住む場所が違う。


 緊急の会合後、二人はそれぞれ帰るのだが、総統が帰るのは悪の秘密基地であった。

 その場所に付いては、勿論の事、極秘である。


 何処かの辺鄙な地域にでも、ドカンと大きな城でも建てて居たならば、当然の如く爆撃されてしまう。

 堅牢な要塞でも、バンカーバスターでも浴びたら只では済まない。


 ではどうすべきかと言えば、木の葉を隠すには森に隠せ、という言葉の通りに、表向きは普通を装っていた。


 パッと見は何処かの企業の工場にも見える其処。

 

 其処へと、一台の車が入って行く訳だが、通常の駐車場へは行かない。

【社員以外侵入厳禁】と看板が在る地下への道へと入って行く。 


 別に地下に駐車場が無くはないのだが、其処は秘密基地への入り口を兼ねていた。

  

   ✱


「ご苦労さま。 今日はもういいよ」


 運転手役をしてくれた部下に声を掛けつつ、ネクタイと緩める総統。

 壁に近寄り、走るピクトグラム輝く【非常口】へと向かう。


 別に其処は非常口ではない。基地内部への出入り口であった。


 さて、悪の秘密基地は酷くおどろおどろしいかと言えば、そんな事は無い。


 そんなデザインでは、生活の質が悪くなる。

 寧ろ無駄を省き、清潔感が在る病院の様な内装であった。


 時折、総統を見掛けてた戦闘員達がペコリと頭を下げてくる。


 軽く手を振り、気軽に応対する総統だが、居丈高に成らない事には意味が在った。

 悪の組織という企業である以上、機密の漏洩は即座に組織の崩壊を意味する。


 例え相手が下部の構成員であっても、大切にしなければ成らない。

 

 ぞんざいな扱いなどしようものなら、ソレを根に持った構成員が鬱憤晴らしに何処かへ情報を垂れ込むだろう。

 

 その意味で言えば、総統は苦労人である。

 基地の奥で偉そうにふんぞり返り、座っている余裕など無いのだった。


 青年との会合とは別に、まだ総統には仕事が残されている。

 それは、大幹部との会議であった。


 赴くのは、当然ながら会議室。

 窓が無い事を除けば、中の間取りは一般的なオフィスとそう大差は無い。

 会議室にしても、壁は白に統一され、清潔感が在る。


「いや、お待たせしました」


 背広のまま入って来る総統は、まるで何処かのサラリーマンといった風情だが、間違っては居ない。      

 彼は一つの企業を統率する社長でも在った。


 先に会議室で待っていたで在ろう大幹部だが、二人である。


 そんなビジネススーツかと言えば、そうでもない。

 大幹部達は大幹部らしい格好をしていた。

 

 問題なのは格好ではなく、人数である。 


「他の二人は?」


 困惑する総統に、問われた大幹部の内の一人、かき氷ことアイスウーマンが息を吐く。

 室温は程よい筈だが、彼女息は白かった。


「アヤとカエデなら、次はパスだそうですよ」

 

 気怠げにそう言う大幹部。 そんな声に、総統は頭が痛む。

 同じく派手な衣装に身を包むセイントフィメールが、チラリと目をやる。


「まぁ、出突っ張りという訳にも行かないでしょ? そうなると、次は私か、それとも小雪コユキか」


 言いながら、目をコユキと呼ばれた大幹部へと向ける。


「どうする?」

「さぁ、千愛(セラ)がやりたいなら譲るけど?」

「て言うか、どうしたのあの二人。 アヤはニコニコしてるだけだけど、カエデなんか式場の雑誌とか見てニヤニヤしてたし」

「なんか……あの二人、妙に色気づいてたよね」


 いまいちやる気に欠ける大幹部達。 実のところ、それも無理はない。

 誰にせよ、負けっぱなしではやる気も湧かないものである。

 

 既に先の二人も、正義の味方に敗退を期している。


 最も、負けた筈の二人が意気消沈どころか、ホクホクして居るのは総統も知っていた。

 そして、出撃をしたがらない理由も。


 感情などろくに見せない筈のアヤは微笑み、カエデなど悪の計画そっちのけで将来の為か式場の雑誌を見ていると言う。


 経緯がどうであれ、想いを寄せる相手と殺し合いがしたいという物好きは居ない。

 だからこそ、この場には二人が居なかった。


 大幹部のとしての自覚は在るのかと問いたくなるが、尋ねれば在るとは言うだろう。


「最近、ほんとにあの二人やる気無いでしょう?」

「と言うか……」  


 言葉を一旦止めると、セラが総統を見た。


「総統、こんな事を尋ねるべきではないのでしょうが、近頃の作戦はどうにもおかしいのですが?」


 余程目が節穴で無ければ、見えるモノも在る。

 実行される計画の殆どが効果が有りそうもないものばかりであった。


 それも無理はない。  

 何せ、実際には悪の組織ごっこをやっているだけなのだ。

 それでは世界征服など叶う筈はない。


 とは言え、このままでは悪の組織の体面が保てない。

 其処で、総統は一計を案じる。


「まぁ、いずれは明かすつもりでしたが、今やっている事自体には余り効果は無いんですよ」


 総統の声に、大幹部二人は揃って目を丸くする。

 組織を統率すべき長が【意味がありません】と宣ってしまう。


「……それは、どう言う意味でしょう?」

 

 たじろぐ大幹部に、総統は軽く手を挙げ「まぁまぁ」と嗜める。


「かねてより、我々の計画の幾多は邪魔されては頓挫してしまいました。 其処でですね、私はこう考えたんですよ。 だったら、その邪魔を取り除けばどうなのか、と」


 総統の声に、大幹部二人はどうとも言えない。

 覆面の下を知らないが、かの青年を簡単に倒せる様であれば、誰も苦労などしなかった。


「しかし、総統……」


 大幹部である以上【我々では勝てません】という弱音は吐けない。

 それでも、コユキの声に同意なのかセラも同じ様な顔を覗かせる。


「解っています。 ですからね、あの彼を、此方へ引き込もうとしてるんですよ。 無敵の超人でも、女性の涙には弱いという事もあるでしょ?」


 そんな説明に、セラが椅子を蹴倒し立ち上がった。


「冗談ではありません! あんな奴に頼らずとも、我々だけで!」


 自分の胸に手を当て、そんな事を言う大幹部だが、総統は一睨みで黙らせる。


「セラ……そうは仰いますがね、勝てますか? 彼に」 


 この質問に、大幹部達は【ハイ】とは言えなかった。

 何故なら、以前に四人全員で総掛かりで挑んでも、全員が倒されただけでなく、命まで救われていた。


「文句も在るでしょう。 が、どうか飲んで頂きたい」


 現時点で青年とは協定を結んでいる以上、それは破れない。

 天下無敵の怪物を向こうに回す程、総統は愚か者でもなかった。


    ✱


 悪の秘密基地で一悶着が起こっていたが、では、正義の味方にもソレは在るのかと言えば、在る。


 そして其処では、やはり同じ様な事が起こっていた。


「なぁ、どういう事だよ?」


 仲間の言葉に、青年はうんと鼻を鳴らす。


「どう? 何がだよ」


 青年の声に、もう一人の女がテーブルを強めに叩いた。


「とぼけないで! 私ら知ってるんだよ!」

  

 鋭い剣幕ながらも、青年は別に気にせずまた鼻を唸らせる。


「だぁかぁらぁ……とどのつまりを最初に言えよ、筋道は要らねぇから」


 仲間とはいえ、二人とは別に仲が良いという訳でもない。

 偶々、立っている側が同じなだけである。


 青年にすれば、くだらない会議に付き合うだけ時間の無駄でしかなかった。


「あんた……」


 ムッとする女の肩を、もう一人がソッと抑える。

 

「ちょっと、落ち着けって」

「でも……解ったよ」 


 どうにも立ち入り難い二人の世界。

 だからこそ、青年はそんな二人を無視して総統と組んでいた。


 独り身の青年にすれば、目の前で仲良しを見せ付けられても面白くは無い。


「で? 結局は何が聴きたいんだよ、イチャコラは後でやってくんな」


 サッサと続きを促す青年に、仲間は目を向ける。


「お前さ、金貰ってるだろ?」


 そんな指摘だが、間違い無い。


 正義の味方として悪の組織を退ける。

 それに対して、青年は対価をその国に要求していた。

 

【別に嫌なら構いませんが、その場合は御自分達でどうぞ】と。  


 こうなると、何処の国も払いませんとは言えなかった。

 顰蹙は買うかも知れないが、ある意味では当然の請求でもある。


 慈善事業(ボランティア)ではない以上、対価無しで仕事をする者は居なかった。


「ん? そうだけど? なんだよ、貰う貰っちゃいけないってか?」


 悪びれない青年に、男はギリッと歯を鳴らす。 


「なんでだよ!? 俺達は、正義の味方だろう!?」


 如何にもな台詞ではあるが、青年にすれば青臭いだけである。

 無給で働くのでは、奴隷でしかない。


「正義の味方だからって飯は食うだろ? 宿無しで暮らせってか? 馬鹿らしいだろ、んなもん」


 フゥと息を吐きつつ、二人へと目を向ける。


「第一な、お前らだって旅行に行ってたろうが? それ、自腹か? 違うよな?」


 青年からの指摘に、男はウッと唸った。

 女と旅行へ行くに当たり、代金は他者から出されている。


 ソレは、悪の巨大兵器に破壊に対する報奨であった。


「……それは」

「だろう? じゃあ俺だってそうさ。 何も、タダでやってやる理由なんざねえだろうに」


 フフンと嘯く青年だが、そんな彼を女が睨む。


「言いたい事は解るけど、貰い過ぎじゃない? そんなに何に使ってるわけ?」 


 実際の所、青年が要求した【正義の味方の代金】はかなりの高額であった。

 何せ、悪の組織へも配分せねば成らず、少額ではお話に成らないからだ。


 流石に【悪の組織へ分配してます】とは言い辛い。

 金の行き先を尋ねられた青年は、顔を渋くする。


「さぁてね、何に使おうかなぁ……」


 あくまでも恍ける青年に、男が悲しげな顔を見せる。


「なぁ、お前……どうしちまったんだよ」


 情へと訴え掛ける様な声なのだが、それに対して青年が感じるのは白々しさであった。

 何をした所で、手柄の全ては青年ではなく二人へと回される。


 せめて何か在ればという気持ちも、その何かが無ければ始まらない。


 いつしか、青年は正義の味方である事を虚しく思っていた。

 悲しげな仲間の訴えを、ハッと鼻で笑う。


「どうしたもこうしたも在るかよ。 目の前でイチャコラされてよ、全部の手柄ぶん取られて、やる気なんざ湧いて来るかってもんさ」


 立場などかなぐり捨て、自分の本心を明かす。

 今更気取った所で、何かを得られる訳ではない。


「前々から思ってたけどさ、俺、抜けていいよな?」


 ポンと思い付いたらしい青年に、他の二人は驚きを隠さなかった。

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