大きなお世話
正義の味方の窮地に、その仲間が駆け付ける。
事の外から見ている側にすれば、思わず歓声が出てしまう。
何せ、現れた二人の男女は、かつて悪の組織が地球を征服する為に送り込んだ超巨大兵器を破壊した実績を持っていた。
その意味では、二人は正義の味方として有名と言える。
但し、その内情を知る者は多くは無い。
世界の人々が知っているのは【巨大な兵器を壊したのはあの二人】という所だけでしかない。
今や、悪の大型兵器は半壊し、正義の味方は三人。
構図で言えば、多勢に無勢と悪の大幹部が窮地であった。
「たくよぅ……暇人倶楽部は暇人らしくどっかで適当やってりゃいいもんを」
このままでは、アヤの身が危うい。
現れたかの二人にせよ、青年に及ばずとも、一応は正義の味方でもあり、その戦力は侮れないものがあった。
かと言って、堂々と二人に相対する訳にも行かない。
其処で、青年は妙案を捻り出す。
「おいねぇさん! なんか派手な技をやってくれ」
「え、でも……」
「良いから! とにかくド派手なのを頼む!」
「……解った」
青年の求めに応じてか、アヤは集中を始める。
すると、彼女の足元に在った影はまるでインクの染みを広げるが如く広まる。
ほぼほぼ青年にソレが届いた所で、広まった影から無数の尖った影が飛沫の如く飛び出していた。
「アレかぁ……結構いてーんだよなぁ」
大幹部が放った技だが、本来は襲い来る数十人をあっという間に片付けられる大技である。
だが、ソレを【結構痛い】で済ます青年が、如何に頑強化を示していた。
事実、飛び散る飛沫の一粒一粒が重機関銃並の威力のなのだが、それは青年にの身体を穿つには至らない。
その代わりに衣服は穴が空いてしまう。
最も、コレが青年が敢えて舞台衣装纏わず、その辺で普通に売られている作業服しか着ていない理由であった。
何せ大幹部と戦えば、ただの衣服などあっという間に駄目になる。
繕うにも限界が在り、改めて買わねばならないが、何度も何度も繰り返せばそれもバカにならない。
兎も角も、アヤの放った技は、満開のヒガンバナの如く広がり、青年を覆い隠していた。
余りに飛び散る様が派手な為か、目眩ましには成る。
そんな飛沫を掻き分けて、青年が大幹部へと肉薄していた。
「ちょっとだけ、勘弁してくれよ!」
言いながら、青年は大幹部の腰へと組み付く。
本来ならば相手を地面へと弾き倒す為に使うモノだが、この時は違った。
「よいせ……っと!!」
大幹部を肩に担ぐ形に成るなり、その場を蹴って跳び上がる。
その際、蹴りの強さの為に大型兵器の天辺にはヒビが穿たれた。
まだ飛沫の残渣が残っている内に、大幹部を抱えた青年は落下を開始。
周りで見ている者は、相手を垂直落下に落とす技にも映る。
そのまま叩き付けられでもすれば、只では済まない。
とは言え、青年にその気は無かった。
落ちながらも、アヤを庇う様に腕の中に抱く。
「なぁ」
「え」
「あれ作った奴に、悪いけど代わりに謝っといてくれ」
落ちながら、青年は大幹部へと言付けを頼む。
程なく、ズドンと大きな音がして兵器の頭に大穴が開いた。
✱
凄まじい轟音立てながら、大型兵器が路上へと落ちて行く。
煙と火を吹く様は、まるで燃え盛る飛行船を想わせる。
堕ちるなり、その場を覆う程の煙と炎が舞い上がった。
埃と煙だが、それは同時に煙幕としても使える。
残骸の側では、青年が、抱えていたアヤをソッと下ろす。
「大丈夫か?」
問われた大幹部は、不思議そうな顔をしながらも頷いた。
「……大丈夫」
アヤの身の無事を確認すると、青年は手で何処かを示す。
「今のうちだ、すまねぇが独りで逃げてくれ」
正義の味方が悪の大幹部に詫びるという時点でおかしいが、元より二人は本気で戦っても居ない。
本来ならば、適当な所でアヤを何処へ放り、やんわりと兵器を片付ける筈だった。
「……でも、貴方は」
「おれ? 俺は、後始末が在るからさ」
一応は正義の味方である以上、悪の大幹部と一緒に逃げ出す訳にも行かない。
青年の声に、アヤは悔しげな顔を見せる。
負けたという演技をさせられたからではない。
尻尾巻いて逃げ出す事の恥からでもない。
「でも……」
「ほら! 早く行けって! 煙だっていつまでも待ってくれねぇ」
急かす青年に、アヤは渋々と「解った」とだけ応える。
いつの間にか握られて居た青年の手から、細い手が名残惜しそうに離れる。
その際、偶々前髪の隙間からアヤの顔がよく見えた。
唇を噛み締め、眉を寄せるという、酷く悔しいと同時に、ヤケに寂しげな顔。
煙の中へと消える大幹部を見送ってから、青年は軽く笑った。
「後始末……ね。 あのバカ共が来なけりゃ、もっと上手くやれたってのによう」
如何にも渋々といった様子で、青年もまた、アヤとは反対の方へと出ていった。
✱
悪の計画は未然に阻止されたが、街には残骸が残る。
そして、立ち込める煙からは、覆面で顔を覆った者が現れた。
すっかり全身が埃塗れだが、勝利の立役者でもある。
「……えほ!! ごえっふ!!」
流石に超人とは言え、煙と埃には咳き込む。
出た先では歓声が聴こえるが、青年へのモノではない。
人々の目は覆面を被った青年ではなく、後から現れた二人へと向いていた。
衆人環視の中であっても、平然とヘルメットを取って素顔を晒す二人。
整った顔立ちに加えて、汚れて居ない派手な衣装。
余程自信が在るのか、その顔には余裕の笑みが浮かぶ。
二人と対比すると、青年は実に見窄らしい。
「お? やっぱ生きてたか!」
「頑丈だけが取り柄だもんね!」
辛くも生還した仲間に向けるべき言葉としては、辛辣でしかない。
苛つきは残るが、まだ青年は正義の味方を演じる必要が在った。
「……さーせんね、頑丈だけが取り柄でよ。 つーか、いきなり不意打ちかよ」
仲間の放った攻撃だが、青年にして見れば援護射撃というよりも、相手の虚を突く不意打ちと称した。
普通の戦いであれば、誰かが相手の目を逸らしている内に、その不意を突くのは定法と言える。
しかしながら、今の青年にすれば二人の仲間は卑怯者に見えて居た。
自分を囮にして、平然と相手を攻撃して来る。
「礼なら要らねぇぜ? お陰で助かっただろ?」
実に爽やかな笑顔を見せる相手に、覆面の中では歯が軋んでいた。
真っ向勝負を好む青年にすれば、仲間が仕出かした事は許し難い。
第一に、青年は本気で戦っている訳でなく、あくまでも演出であった。
まかり間違えば、アヤが死んでいた場合もあり得る。
だが、青年もソレを口には出せない。
「そうだよ。 私達居なくて、結構危なかったんでしょ?」
危ない危なくないで言えば、青年にすると二人は邪魔としか言えなかった。
それなりに強いとは言え、無敵でもない。
事ある度に、青年が助けねば、二人はとっくの昔に死んで居た筈である。
青年と二人の違いを言うならば、派手か、そうでないかだ。
実力の面では見劣りがする。 派手なのだが、其処までは強くはない。
精々が二人合わせて悪の大幹部一人と同じ位であった。
ただ、派手だからこそ、地味な青年よりも遥かに目立つ。
そんな二人と、二人へと歓声を送る人々。
思わず、青年はカエデの言葉を思い出していた。
結局の所で、人の目は派手な方へとしか向かない。
どうせなら、本当に強いのは誰なのかをこの場で証明したくなる。
それでも、今は正義の味方役を演じねば成らない。
「……えぇえぇ、お陰様で助かりましてね、恐悦至極ってところだな」
対面上、一応の礼を贈る青年。
そんな声に、仲間二人の整った顔立ちに僅かに影が指していた。
「なんかさ、トゲの在る言い方じゃない?」
青年を訝しむ仲間だがそれは相方も同じらしい。
何処か疑う様な目を向けてくる。
「ま、後でちょっと話が在るからさ」
そんな言葉を残しつつ、二人は人々の方へと向き直る。
対して、青年を小さく舌打ちを漏らすと、その場から立ち去って行った。
目立つ二人に目が向くからこそ、誰もが青年には目を向けない。
去る姿に、ソレを見送る声は、一つとして無かった。
✱
また一つの仕事を終えた悪の組織。
正義の味方に大敗を期したが、元よりやられ役なのだから負けねば話に成らない。
そしてこの日、組織を率いる総統は、外出用の背広姿にてある場所へと赴いていた。
いつもであれば、何処か居酒屋で仕事の打ち上げという所なのだが、今回は違う。
その総統が呼び出しを掛けられたのは、それぞれの席が個室として仕切られている場所である。
スッと仕切りを開けて、顔を覗かせる。
「どうも、お待たせしました」
先に来ていた青年が、片手を挙げる。
「よう、まぁ、座ってくんな」
いつもであれば、陽気な青年だが、深刻そうな顔を覗かせる。
向かいの座布団へと腰掛けると、総統はサングラスを取った。
「もう知ってるとは思うんだが」
「ええまぁ」
フゥと息を吐く青年。
「あのバカ共が戻って来ちまったわ」
青年の言う者が誰を意味するのか、総統も知らない訳ではない。
寧ろ、由々しき事態である。
折角、今の作戦な上手く行き始めた所で、正義の味方の帰還。
それは、総統にせよ、青年からしても有り難くも無かった。
「それはまぁ、派手にしてましたからね」
ある程度の金額を相手から引き出す以上、小規模ではお話に成らない。
だからこそ、正義の味方と悪の組織が手を組んで演出をしていたのだ。
そんな所へ、余計な二人が戻って来てしまう。
コレは、青年と総統の二人にしては青天の霹靂であった。
「たく、冗談じゃねえよな。 頭の中身スッカラカンの癖に、無駄に事だけはしたがる」
露骨に仲間を嫌がる青年に、総統は苦く笑っていた。
「なんと言いますか、あんまり仲は宜しくないようで」
そんな指摘に、青年は顔を上げる。
「そらそうだろ? 弱っちい癖に目立つだけなら一流だからな。 なんだって俺はあんなアホ共を助けてたんだ?」
かつて、悪の組織との戦いを繰り広げられていた際。
悪の組織が驚異として居たのは青年である。
他の二人に関して言えば、それなりに強いとは言えどうも言う事もない。
ただ、無敵の青年が側に居たからこそ、あの二人は活躍が出来ていたのも事実であった。
「どうしたもんかねぇ……」
正直な所、正義と総統にすればあの二人には何処かへと行ってしまって欲しかった。
頭の緩い者達の為に、事業を邪魔されては敵わない。
其処で、総統はある提案を思い付く。
「どうでしょう、この際、此方へ来る……と言うのは?」
ポンと出されたのは、カエデが行ったとの同じ勧誘であった。
正義の味方を自称する青年を、悪の組織へと引き込んでしまう。
それはある意味、総統からしても魅力的な計画でもあった。




