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09 収穫祭(ペエの小剣)

 快晴の空を見上げながら、大聖堂の鐘のを聞く。初秋しょしゅうの風に乗り、町に広がっていく荘厳そうごんな音を、タオは好ましく思っていた。大主教の座するこのアルシラに、相応ふさわしい音だと思うからだ。

 収穫祭が始まり、あちこちから陽気な旋律も聞こえてきている。リュートやフルートなどの楽器の音で耳を楽しませてくれることも、タオが祭りが好きな理由の一つだ。


「遅いわねぇ、エルったら」


 隣でサイルーシュが辺りを見回しながら、溜息を吐いた。彼女の服装は、普段よりも華やかだ。町の至るところで見られるアイビーの紅葉こうようのような色彩のワンピースドレスが、彼女を少し大人びて見せている。


 葡萄ヶ丘からアルデア大通りに沿うようにして流れる川のほとりも、祭りのお陰でいつもよりは人が多い。川向こうの丘に見える石造りの四角い建物は異端審問院で、その近くにあるのが、石壁に囲まれた断罪だんざいの広場だ。その向こうに、サイラスの担当区域がある。エリュースも今日は東門の辺りに用事があるということだったので、ここを待ち合わせにしたのだ。


 確かに鐘の音が三回鳴り終わったが、少し遅れるくらいのことはいつものことで気にしない。

 今日は朝早くからサイラスに付いて担当地区の見回りや手伝いなどをし、ようやく休憩をもらえたところだ。四鐘になれば断罪の広場で行われる恒例の催しがあり、サイラスの従士として参加しなければならない。この間に軽い食事を取っておくつもりだが、その前に、どうしても見ておきたいものがあるのだ。


 エリュースの声が聞こえて顔を向けると、雑踏の中で手を挙げ、駆けてくる彼の姿が見えた。


「悪ぃ! ちょっと話し込んじまって」

「いいよ、大丈夫」


 タオは笑ってエリュースを迎えた。

 彼の交友関係は、自分よりも広い。上下関係を越えた付き合いも多いと聞く。彼が言うには、使えるカードは増やしておいて損はない、らしい。自分も騎士団の皆と話すことはあるが、基本的にサイラスに付き従っているため、その機会も限られている。彼が交渉術にけているのは、日頃の努力の成果なのだろう。


「なんだ、ルゥも行くのか?」


 サイルーシュを見つけたエリュースが、意外そうに言った。それに対し、サイルーシュが少し不思議そうに彼を見上げ、次いでこちらを見上げてくる。


「どこへ行くつもり?」


 そう問われ、タオは彼女に断りを入れていなかったことに気付いた。話したつもりになっていて、確認することを失念していたのだ。


「ごめん! 言うの忘れてた。何か食べる前に、ちょっと見たいものがあるんだ。丁度、公開時刻なんだよ。お願い、付き合って」


 なんとか了承を取り付けようと、タオは焦りながらサイルーシュに頼み込んだ。

 彼女に断られようとも、行くことには変わりない。しかし彼女を置いて行くのは、心配なので絶対に避けたいのだ。

 少し頬らんだサイルーシュの頬が、小さな吐息と共に元に戻った。


「仕方ないわね」

「ありがとう!」


 間髪入れずに礼を言い、タオは彼女に手を差し出した。それが可笑おかしかったのか、彼女が頬を緩めて笑う。彼女の手が掌に触れ、タオは温かいそれを軽く握った。


 


「ペエの小剣ダガー?」


 盛大な数の露店が連なった中央広場を横切りながら、サイルーシュが怪訝けげんそうに声を上げた。観に行くことに了承はしたが、その対象が小剣ダガーだということに、少々納得がいかないらしい。


 領主である大主教が所有している村々の中には、領主のための小麦や大麦などの畑がある。収穫の時期になると、まずその畑の収穫が村人の手によって行われ、このアルシラに運ばれて来る。その豊穣ほうじょうを祝うのが、この収穫祭なのだ。運び手の村人たちには、ここで料理や酒が振舞われる。それに加え、数日間に渡り、大市おおいちも開かれる。アルデア大通りと中央広場を所狭しと露店が並ぶさまは、まるで違う町になったかのようだ。各地から集まった行商人の中には見慣れない服装をしている者もおり、それで余計にそう感じるのだろう。普段は見かけない模様の生地や衣装、珍しい宝石、美味しそうな料理と、見ているだけで楽しいものだということは分かっている。しかし、今回の展示物は、その比較にはならない。


「そう不貞腐ふてくされるなって。店は後で少しなら見られるさ」

「そうだけど……」

「なぁ、お前は知らないだろうけど、ルー・ペエの小剣ダガーって言ったら、一級品の聖遺物アーティファクトだぞ。普段は教団が厳重に保管していて、人前に出されることなんてないんだ。見ない選択肢はない。だろ? タオ」

「うん、その通り」


 エリュースの言い分に相槌あいづちを打つと、サイルーシュの膨れていた頬から、また溜息が吐かれる。それでも、手を繋いだまま、小さく文句を言いつつも付いてくる少女のさまが、タオには可愛らしく思えた。


「いつもより人が多いからね。足元に気を付けて」


 そう言うと、掌に感じている温かさが増した。

 はにかむような笑顔を見せた少女には、先ほどの不機嫌さは見られない。彼女らしい、よく変わる表情は、見ていて飽きることがないのだ。


 それに比べてあの少女は――こんな風に笑うことがあるのだろうか? 


 ふと、タオはそう思った。

 アルシラと同様、ノイエン公爵領でも収穫祭が行われているはずだ。彼女は、祭りを知っているだろうか。いつから、あの場所にいるのだろうか。もし生まれた時からならば、この世界に溢れている様々な色を知らず、ただあの暗い森で過ごしているのだろうか。


 タオは、黒髪の少女を思い出していた。自分に向かって手を伸べてきた少女は、あの時、何を思っていたのだろう。うれいを帯びた瞳で、まるで初めて目にするもののように、不思議そうに手を――


 そこまで思い起こし、タオは胸に痛みが広がるのを感じた。彼女は本当に、外の世界を全く知らないのかもしれない。


「タオ? どうしたの?」

「え……っ」


 かけられた声に、タオは我に返った。目の前にいるかのように見えた寂しげな瞳の少女は掻き消え、サイルーシュの心配そうな顔が、はっきりと見えている。


「な、なんでもないよ。さ、急ごう」

「そうだな。ま、どうせ丘の上は人でごった返してるだろうさ。ルゥ、そうやって手を繋いでもらって、迷子にならないようにしてくれよ。お前の背丈じゃ、人垣に埋もれちまう」

「もう! エルったら!」


 エリュースに揶揄やゆされ、サイルーシュの感情の矛先が彼に向いた。


「もう子供じゃないんだから、迷子になんてならないわよ!」


 そう言いながらも、手を繋いだまま先に進んでいくサイルーシュに引っ張られる形で、タオは足を速めた。同じく歩幅を広げたエリュースに肩を叩かれ、仕方のないやつだと言わんばかりに溜息を吐かれる。そんな気が利く親友に、タオは苦笑いを返しながらも感謝した。



 

 大聖堂の丘は、想像以上の賑わいだった。せっかくアルシラに来たのだからと、礼拝に訪れているのだろう。丘全体は城壁に囲われており、その内の最も大きな門が解放されている。両脇には片側二人体制の衛兵が見えた。


「今日はいつもより、警備が厳重だな」

「ああ、町の見回りの数も多かったしね。祭りの時は確かにいつもよりは多く配置されているけど、今回は更に多いみたいだよ」


 エリュースの指摘通りのことを、タオは今朝から感じていた。かと言って、衛兵たちに差し迫った緊張感が見られるわけではない。警備の担当者がやり方を変えたか、新兵が増えたのか、その辺りかもしれない。今はどこの国とも戦争をしていず、不穏な状態でないことくらいは、騎士団に所属していることもあり把握している。


 いつも通り衛兵に軽く挨拶をして通り抜け、タオは二人と共に目当ての聖堂に向かった。噴水の向こうに見える大聖堂に向かう人々は、アスプロに祈る大主教目当てなのだろう。彼の癒しの手を求め、遠方から来る者も少なくないと聞く。


「ねぇ、大聖堂には行かないの?」

「俺たちは、彼らと違っていつでも行けるからね。大主教様ってなんだかおそれ多いし」


 それに、大主教と同じ癒しの光を、エリュースが持っている。聖職者の皆が皆、その力を持てるわけではないらしく優劣もあるようだが、身近にそういう人物がいるということは幸運なことだと思う。祈りの修行によってアスプロに認められれば、体の一部に聖印が刻まれ、癒しの光を得るらしい。


 大聖堂の翼廊よくろうの手前にある小振りの白い聖堂に近付くと、そこにも案の定、人垣が出来ていた。いつもは警備されていない場所だが、今日は聖遺物アーティファクトが公開されるとあって、さすがに衛兵が置かれている。入口には人々がすでに並んでおり、タオたちもその列に加わった。


「どんなものか、わくわくするな。数々の魔を払ってきた小剣ダガーだ」

「だね。きっとただの小剣ダガーじゃないよ。何か、感じられるかも。感じられたらいいな」

「お前なら分かるかもな。お前だって、魔物退治をしているんだ。将来、お前のソードが、こうして公開されるなんてことがあるかもしれないぜ?」


 片方の目をつぶって見せ、エリュースが面白そうに言う。そんな彼に、タオは慌てて大きく首を左右に振った。


「俺なんて、ペエ様の足元にも及ばないよ!」


 及ばないどころか、そんなことを冗談でも口にするエリュースに驚いてしまう。騎士にもなれていないただの従士に、時に彼は大胆なことを言うのだ。


「今はな」


 慌てているさまを笑い飛ばした彼の顔には、彼らしい自信に満ちた笑みが浮かんでいる。それが、少しこそばゆい(・・・・・)


「エルは、俺を買いかぶりすぎなんだよ……」

「そんなことないぞ。なぁ、ルゥ?」

「勿論よ! タオは将来楽しみだって、お父様も言うもの」


 エリュースに同意を求められたサイルーシュが、誇らし気な笑顔で胸を張った。


「剣の腕だけじゃなくて、タオは真っ直ぐ、なんだもの。私もそう思うわ」


 見ているこちらが照れ臭くなるくらいのサイルーシュの表情に、タオはじわりとした胸の温かさを感じていた。隣で、エリュースが満足そうに頷いている。


「さて、そろそろ中に入れそうだぞ」


 うながされ、タオは薄暗い聖堂の中に足を踏み入れた。

 天井からの、円を描くようにしてめ込まれているステンドグラスからの淡い光が、どこか神秘的な安堵感をもたらしてくれる。聖堂の壁際にある台座を見れば、アスプロ以外の神々の象徴が円を描くようにまつられており、それは紋章であったり水盤であったりだ。壁がかれた小さな窓に緑の枝葉が掛けられているのは、風の神(アエーラ)だろう。

 人垣でまだ見えないが、どうやら中央には近寄れなくしてあるらしく、そこに聖遺物アーティファクトが展示されていると思われる。その傍に立つ二人の衛兵の姿が、辛うじて確認出来た。


 その時、誰かが外で騒ぐ声が聞こえた。それは、人々を伝播でんぱしてくる。


「煙が出てるぞ! 火事だ!」


 タオはサイルーシュの体を片手で引き寄せ、エリュースと顔を見合わせた。火元を確かめるべく、二人をうながして外に出る。中にいた人々も出てきたようだ。


 タオは聖堂に異変が見られないことを確認し、焦げ臭さを辿たどり火元を探った。煙は、翼廊と繋がっている教団本部別館の一階部分の窓から上がっている。

 近くにいた衛兵たちが駆け付けていき、消火が始まった。聖堂内でいた衛兵たちも表に出てきており、大事おおごとにならないと見たのか、人々を落ち着かせ始める。


小火ぼやで済みそうだね。良かった」

「ほんと、びっくりしたわ」


 腕に抱き付くようにしているサイルーシュの背を軽く撫で、タオは安堵あんどした。あれくらいの煙で、あれだけの衛兵が駆けつけていれば、自分が行くまでもないだろう。


「ランプでも倒れたか? 人騒がせだな」


 呆れた様子のエリュースが、戻ろうぜ、と聖堂を指す。それに同意し、タオはサイルーシュをうながすと、再び聖堂に入った。衛兵も戻ってきており、何かを小声で話している。火事のことでも話しているのかもしれないが、さすがに彼らの視線は小剣ダガーから離れてはいない。小剣ダガーは、ロープが張られた中央、彼らの前に設置されている金細工の台座に飾られている。


「あれが、ペエの小剣ダガー……?」


 タオには、一見、何の変哲へんてつもない小剣ダガーに見えた。質素倹約で知られていたペエの持ち物が宝石で飾り立てられたものだとは思っていなかったが、鍛冶屋で売られている一番安いものだと言われても頷けてしまう代物しろものだ。ステンドグラスからの淡い色彩に包まれたそれからは、期待した『何か』は全く感じられない。しかし、周りの人々からは崇めるような祈りの言葉が呟かれている。まだ未熟な自分だから感じ取れないのかもしれない、とタオは自分自身を慰め、肩をすくめた。


 外に出て人垣から解放されると、太陽の眩しさが目に染みる。

 エリュースが隣で、大きな伸びをした。


「なぁ、思ったより、普通だったな」

「ハハ、俺もそう思った」


 そう感じたのは自分だけではなかったか、と少し安堵して笑うと、エリュースも笑った。


「期待しすぎたか」

「だね。道具より使う人ってことかな」

「あー、なるほどな」


 ルー・ペエが使ったからこそ、退魔たいま小剣ダガーたのかもしれない。そう、タオは結論付けた。


 ふと聖堂の入り口を振り返ると、一人の衛兵が中から慌てたように出てきて駆けていく。


「なんだ?」

「さぁ」


 首を傾げていると、反対側からふいに肩を叩かれた。驚いて振り返ると、いつか酒場で出会った細身の男が、笑みを浮かべて立っている。高く昇った太陽の光を含んだ彼の淡い髪色は至極柔らかそうに見え、それが彼の印象を軽やかで明るいものにしている。


「やぁ、少年たち! それにそちらは、例のお嬢さんかな。こんにちは」

「スバルさん!」


 気さくに声をかけてきたスバルが、サイルーシュには丁寧な挨拶をした。それを受けた彼女も、戸惑いながらも嬉しそうに、淑女しゅくじょらしく挨拶を返した。


「スバルさんも、ペエ様の小剣ダガーを?」

「まぁね。小火ぼや騒ぎでびっくりしたけど、その分ゆっくり見られたかな」


 目を細めて、楽しそうにスバルが笑う。

 気付かなかったが、あの人垣の中にいたようだ。


「君たちは、これから下に降りるの?」

「ええ、少し店を見てから、断罪の広場へ行きます」

「あぁ、あれか――」


 僅かに、スバルの表情が曇ったような気がした。しかし、すぐにそれは消え去る。


「僕は遠慮しようっと。お爺さんの話し相手でもしておくよ。あれって、ちょっと悪趣味だと思うんだよねぇ」

「悪趣味?」


 タオは聞き返した。

 断罪の広場で行われるのは、大聖堂騎士団主導で催される魔獣退治だ。捕えた魔獣を騎士が倒すさまが、民衆に公開される。サイラスについて何度か観戦し、前回の収穫祭では実際に戦いもした。あの催しには、戦い方について教えられたり、騎士を圧倒する魔獣の恐ろしさを間近で感じさせられ、身を震わせた記憶がある。それでもそれを最終的には倒す大聖堂騎士に、憧れを強くいだかされるのだ。


「悪趣味っていう意見には、同意する」


 隣から、エリュースの溜息混じりの声が上がった。


「あれは教団が、その正当性と強さを知らしめるためにおこなう公開処刑だからな。魔物に同情するつもりはないが、やり方は好きじゃない」

「少年、きみ、なかなか言うじゃないか」


 嬉しそうに言ったスバルに対し、エリュースが誤魔化すように、彼から視線を逸らした。


「でも、こいつが戦い方を学ぶには良い機会だし、信仰心を高めるには効果的な演出ではある」

「そうだねぇ。僕もそう思うよ」


 満足そうに笑みを浮かべたスバルが、大聖堂の鐘楼しょうろうの方を見上げた。陽光に透ける彼の髪と同色の瞳を持つ目が、眩しそうに細められる。


「じゃあ、僕はそろそろ行くね。お爺さんに何か食べさせてもらおうっと」


 またね。そう言い、スバルが片手を上げて笑顔で去っていく。それを見送り、タオはエリュースを見つめた。スバルの後ろ姿を、何か思うところがあって見ているように見えたからだ。それに、彼が口にした広場での催しに対する気持ちを、初めて聞いた。


「エル。広場には行かない?」

「お前、何を聞いていたんだ」


 呆れたような顔で、エリュースがわざとらしく溜息を吐いた。


「お前には良い機会だろ。それに、もし何かあった時に俺が必要だろうが。従士なんて治療の優先順位が低いんだ、まぁ怪我なんてしないのが一番だけどな」

「ありがとう、エル。いてくれると心強いんだ」


 タオは、エリュースの気遣いを嬉しく思った。それに、自分は仕事だが、観客としてサイルーシュも広場に来るのだ。彼女を預けて安心していられるのは、サイラスを除いてはエリュースしかいない。


 その時、袖を引かれる感覚にサイルーシュを見る。口を尖らせている彼女が言いたいことに、タオはすぐに気付いた。言われる前に、口にする。


「下に降りて、何か美味しそうなものを食べようか。それから、お店を見て回ろう」

「ええ!」


 嬉しそうに破顔はがんするサイルーシュに、自然と頬が緩むのを自覚する。自分の不甲斐なさで、何かと彼女を不安にさせているのかもしれない。今日は限られた時間ながら出来るだけ楽しませてあげたい、とタオは自分自身に頷いた。




 タオは二人を伴い、門へ向かう。そこには、予想外の人混みが見えた。

 衛兵によって門が狭められているようだ。そういうことをおこなうとは、聞いていない。


 近付いてみれば、一人一人、衛兵によって所持品などを改められているようだ。入る時には行われていなかったため、待たされている人々の中には、不平を言っている者も多い。この列では、外に出るのに相当の時間がかかるだろう。

 衛兵の一人に聞けば、財布を取られた者がいるということだった。


「財布ねぇ。こんなに躍起やっきになっている様子じゃあ、よっぽどの大金が入ってたんだな」

「すごいわね、こんなふうに調べてくれるなんて」

「ま、おそらく俺たちみたいな庶民しょみんじゃないってことさ、ルゥ」


 すぐに出られないことに困り顔のサイルーシュに、エリュースが諦めるよう言っている。意外にも、サイルーシュの諦めは早かった。


「仕方ないわね。その人にとったら一大事いちだいじだもの。こうして徹底的に調べていれば、きっと見つかるわよ。お金が無いと買い物も出来ないし、すっごく困るもの」

「ルゥ」


 タオは少し驚いていた。この後をあんなに楽しみにしていたのに、サイルーシュは取られた人物を気遣っているのだ。

 

「君は本当に、優しいんだね」


 見上げてくるサイルーシュが、恥ずかしそうに笑う。

 そんな彼女に、タオは慈しみを込めた笑みを返した。


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