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同じ名字の幼馴染

作者: 鷹山英則

 授業が終わり、二宮智也(にのみやともや)は帰宅の準備をしていた。今日は放課後に学校に残る予定がないのだ。


「トモ、帰ろ!」


 座っている智也の肩に手を乗せ、後ろから顔を覗き込ませてそう言ってきたのは、二宮栞(にのみやしおり)


「シーちゃん、部活は?」


「今日は休み!」


「そっか」


「お?今日は夫婦そろってのご帰宅かい?」


「「ふ、夫婦じゃないし!」」


「おー、相変わらず息ぴったり」


「からかうなよ、晴樹」


「そーだよ!私たち、ふ、夫婦じゃないもん!」


 智也の友達である、平野晴樹(ひらのはるき)がふたりを揶揄う。


 智也と栞は同じ名字だが、家族ではない。それに近い存在ではあるのだが。


 二人は生まれた時からの仲で、所謂幼馴染というやつである。家が隣でやろうと思えば玄関を通らずに家に侵入できるくらいだ。そのうえ、名字が同じ。これについてはたまたまなのだが、そのことで関わる機会が普通の幼馴染よりさらに多かった。


「同じ名字なんだから、夫婦みたいなもんだろ。めっちゃ仲いいし、おしどり夫婦ってやつだろ」


「名字が同じだからこそ、妹みたいなもんなんだよ」


「うぅ……!」


「やめて、二宮君!栞がすごいダメージ受けてるから!」


 智也の言葉に栞の友達の川崎優里(かわさきゆり)が反応する。


「え?なんで?大丈夫?シーちゃん」


「だ、駄目かも……」


 こんなやり取りが、智也たちの日常だ。一緒に帰ろうとすると、いつも誰かしらに揶揄われる。中学の時は智也がそれを恥ずかしがって一緒に帰るのをやめようと言い、それに対して栞が絶対嫌だと断固拒否したりしていたのだが、高校生になってからは吹っ切れて揶揄われながらも、一緒に帰れるときは一緒に帰っている。


「栞、もう思い切って告白しないと無理だって!」


「うぅ……それは、怖いんだって……」


「でも、このままだとずっと『仲のいい妹みたいな幼馴染』のままだよ」


「それは嫌だけど……」


「二宮君、他の子に取られちゃうかもよ」


 栞と優里の小声の会話は智也には聞こえていない。優里は「まあ、いつも栞がそばにいるから、他の子が近づく隙もないと思うけどね……」とか思っているのだが、このまま幼馴染なだけでは嫌だということを、栞から聞いている為背中を押す。


「それは……。……うん!今日こそ、頑張る!」


 そしてこれもいつものこと。いつも頑張ると言って、次の日に無理だったと優里に泣きつくのだ。そのため「頑張れ!」と言いながらも、優里はほとんど期待していない。


「シーちゃん、帰んないの?」


「あ、帰る!ちょっと待って!」


***


 他愛のない話をしていると、家に着く。


「……なんで、こっち?」


「……一緒に勉強しようかと思って。定期テストまであと1週間半くらいだし」


 智也が家に入ろうと鍵を取り出すと、後ろに栞がついてきていたのだ。


「俺の予定の確認は?」


「え、あるの?」


「無いけども」


「じゃあ、良いじゃん」


 二人は特別な用事でもない限り、お互いの予定くらいは把握している。


 家に入り、智也の母の真由美(まゆみ)と少し話をした後、二人は智也の部屋へと向かった。


「あ、そういや今日新刊出てるんだった。ちょっと買いに行ってくる」


「へ?」


「ごめん、30分くらいで帰ってこれるけど、一緒に行く?」


「うーん……。……準備して待ってるよ」


「おっけ。じゃあいってきます」


「いってらっしゃーい」


 智也が部屋を出ていき、栞は智也の部屋で一人になった。


(あれ、トモの部屋に30分も一人でいることってあんまりなくない?え、どうしよう。何しよう)


 そんなことを思い、栞は部屋の中をうろうろと歩く。そして、ベッドの下を覗き込んだ。


(何もない……)


 ここまでは、普段少しの間だけ智也の部屋に一人になったときもやっていることだ。


(30分だよね……。それなら、ちょっとくらい大丈夫だよね……)


 そう思いながら、栞はもぞもぞと智也のベッドへと入り、掛け布団を被る。


(あ……トモの匂いがする……。ああ、ずっとこうしていた――)


「ごめんねー、栞ちゃん。せっかく来た…の、に……」


 突然ガチャッとドアが開いて、おやつを持った真由美が入ってきた。そして、智也のベッドでもぞもぞとしながら、その匂いを嗅いでいた栞と目が合う。


「いやっ、これは、違うの、その……」


「大丈夫、智也に言ったりしないから」


「違うの!別に智也の匂いを嗅いでたとかじゃなくて!」


 時が止まったかのように、沈黙が流れる。少しの時がたってから、真由美が持っていたおやつを部屋の中心に置いてある小さいテーブルに置いて、座布団の上に座る。


「智也と仲良くしてる?」


「えっと、まあ、仲は良いけど……」


 はっとしたようにベッドから降りながら、栞が答える


「はあ……、なーんでうちの子はこんなにかわいい子に好かれてるっていうのに、あんななのかしら?愛想つかさないであげてね?」


「愛想つかすなんてそんな!」


「そう言ってくれるとありがたいわね。あの子もあんな感じだけど、栞ちゃんのこと好きだと思うのよ」


「そうかなあ……」


 真由美の言葉に、栞が不安そうな顔をする。


「今日も、妹みたいなもんだって言ってたし……」


「何言ってるの。妹みたいなもんだって、妹がいない人が言ってもって話でしょう?」


「た、確かに……」


 その後、5分くらい話した後、真由美が「じゃあ智也が来るまで、ごゆっくり~」と言って出ていった。栞は「何もしないよ!」と答えたのだが、いざ一人になるとまたベッドに寝たい欲に駆られる。


(ちょっとだけ……。まだあと10分くらいは帰ってこないはず……)


 そう思ってベッドに横になる。先ほどまでのように掛布団まで被ることはしないが、それでも、好きな人の匂いがするベッドは栞にとってとても心地よいものだった。


(はあ……。ずっとこうしていたい……)


 栞は、ベッドに寝転びながらそんなことを考えているうちに、意識を手放してしまった。


***


 智也は、少し急いで本屋から帰ってきた。突然来たとはいえ、栞を一人残して本を買いに行ってしまったのは申し訳ないと思ったからだ。


「おかえり、智也。部屋におやつ持っていったよ」


「ありがと」


 そう言って、栞がいる自分の部屋に向かう。


「ただいまー」


 部屋に入るとそこでは、智也のベッドの上で寝ている栞がいた。


(はあ……なんでこんなに無防備なんだ……)


 少し寝がえりをうったらスカートの中が見えてしまいそうだ。その姿にドキッとしながらも、智也は栞のそばに歩いて行き、頬を軽く叩く。


「おーい、シーちゃーん。起きろー。勉強するんじゃなかったのー?」


「んむぅ?」


(んむぅ?って……)


「ほら、起きて。というかなんで人のベッドで堂々と寝てるのさ」


 そう言われた栞は、自分が智也のベッドで寝ているのを智也に見られたことに気づき、顔を赤くする。


「あ、ごめっ、その、眠くなっちゃって、つい……」


「いや、別にいいけど。勉強する?」


「あ、うん。しよしよ」


 そういって、二人は教科書やノートを取り出し座って勉強を始めた。


***


 2時間ほど教えあいながら勉強をした後に、二人はリビングに降りてきた。二人でソファに座り、テレビをつける。智也が録画した番組の中で面白そうなのを探していると、見慣れない番組が目に入る。


「ネーミングバラエティー?」


「あーそれね。なんか面白そうだったから録画しといたの」


「へー」


「名前かあ……。……二宮以外は嫌だなあ……はっ!」


 栞がそう言って、しまったといったような表情をする。


「え、そうなの?……まあ、それなら別に女の人が男に合わせなきゃいけないわけじゃないんだから、合わせてもらえばいいんじゃないか?」


「……」


 栞がそういうことじゃないという意味を込めて、智也をにらむ。


「トモは、私が二宮以外になっちゃってもいいの?」


 栞が若干涙目になりながらそう言う。


「ええ……?」


 智也は困惑しながら、考える。


(シーちゃんが二宮以外に?)


 智也は、栞が「私結婚するんだ!」と言ってくるところを思い浮かべた。


「……嫌、かも……?」


 智也がそう言いながら、栞に目を向ける。目が合い、しばらく見つめあうと、二人の顔が徐々に赤くなる。お互いに顔が真っ赤になっていることに気づき、同時に目をそらす。


「きょ、今日はもう、帰ろうかな!お邪魔しました!」


 そう言って顔を真っ赤にしたまま、栞がどたばたと帰っていく。それを見送りながら智也は困惑していた。


(あれ?シーちゃんがほかの人とって思ったら、もの凄く嫌だった……。え、いやでも、シーちゃんは妹みたいなもんで……。でも、さっきのシーちゃん滅茶苦茶可愛かったな……)


 そんな二人の様子を見ていた真由美は、終始にやにやとしていた。



 そのあと、智也から栞に告白をして付き合うようになったのは定期テストが終わってすぐだった。

真由美「もしかしたらと思って録画しておいたら、思いのほかうまくいってびっくりした」

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