4.決意(2)
二人でゲブラーの幹の中に入っていくと、明るい空間に着いた。その空間には二振りの剣と一張の弓があった。
「これは…」
「その三体が先程言った武器じゃ」
ゲブラーの声が中に響く。
「近づいてみるといい」
そう言われて近づいていく。シロナは入り口付近でこちらを見守っている。
「それらは一振りの剣と一張の弓は神器、もう一振りの剣は魔剣じゃ。それらのどれかに認められれば御主の武器になろう」
そう言われているうちに三体のいる場所まで着いた。すると、武器達が眩い光を放った。
「うっ…」
光が収まるとそこには三人の少女がいた。
一人は黒く長い髪に赤い眼をして、ゴスロリのような格好をしている。もう一人は、白い短髪に白い眼をした同じくゴスロリのような格好をしている。最後の一人は金色の長い髪に碧眼をしていて、白いサマードレスを着ている。
「なっ!どこから⁉︎」
疑問に思っていると、ゲブラーが答えてくれた。
「神器や魔剣の特徴は人になれる事なのじゃ。その三人は先程の剣と弓じゃ。そして、もう一つの特徴が、持ち主を決めると言う事じゃ。御主が選ぶのではない。そこの三人が自分に相応わしい者を選ぶのじゃ」
(人になれる武器。いったい誰が作ったのだろう。いや、作ってすらいない可能性もあるか。)
そんなことを考えてるうちに三人とも俺に近づいてくる。
(この中から俺を選んでくれる人がいるかどうかか。たとえ誰も選んでくれなくとも強くなる方法はまだあるはず。)
「これからよろしくお願いいたします。主様」
「これからよろしく!主人!」
「よろしくお願いします!ご主人様!」
上から黒いゴスロリ、白いゴスロリ、金髪サマードレスの順でそう言った。
「むっ!全員が御主を選ぶか!まぁ、その方都合が良いかもしれないのぉ」
「えっ!一人で三人の神器を持つってありなのか⁉︎」
一人だけが選んでくれるのだと思い込んでいた。
「うむ、前例は無いが他ならぬ神器達が選ぶのならありなんじゃろう」
前例はないらしい。
「そういうならいいか。君たちの名前は?」
「「「ないです」」」
三人揃ってそう答える。
「主様がおつけ下さい」
「主人がつけてくれるのが良い」
「どうか、お願いします!」
三人とも俺が名付けることで納得しているらしい。
ということで名前をつけることになった。
そのため、三人をよく観察してみる。
黒いゴスロリの娘は腰と頭そして両足に小さな鈴を付けていた。
白いゴスロリの娘は黒いゴスロリの娘の色違いの服で違うのは鈴がついていないことだった。
サマードレスの娘はよく見ると裾に紅葉の柄が着いている。
「じゃあ、君はスズ、君はユキ、君はカエデでいいかな?」
黒のゴスロリの娘がスズ、白いゴスロリの娘がユキ、サマードレスの娘がカエデだ。
「はい、素敵なお名前をありがとうございます。主様」
「いい名前だと思う!ありがとう主人!」
「ありがとうございます!誠心誠意がんばります!」
「ああ、よろしくみんな」
みんな気に入ってくれたようだ。
「良かったわ。無事契約できたみたいね」
「契約?」
「ええ、神器を扱うには神器との契約が必須なの。神器に認められ、それに応じることによって成立するわ」
知らぬうちに契約が完了していたみたいだ。
「じゃあ、まず外に出るか」
「そうね」
「わかりました」
「いこーいこー!」
「はい!」
ここまでで三人の大体の性格がわかった。
スズは、まるでメイドの様に俺を敬っている。
ユキは、元気いっぱいで明るい。
カエデは、礼儀の正しいいい子。
そんな感じだろう。
外に出てから、三人の能力を確認してみた。
スズは、契約者や斬り付けたものから魔力を奪い、自分に力を貯める。それを解放する事で破壊力を上げる事が出来る。解放する際、魔力に属性を加える事でその属性の攻撃を放つ事ができる。ただ、契約した時点で俺から魔力を吸い続けており、それを止めることはできないそうだ。まさに、魔剣だろう。
ユキは、大気にある魔力や斬り付けたものの魔力を吸い取り契約者に流す事が出来る。契約者の魔力回復だけでなく、身体能力の向上もさせる事ができる。神器の中でも神剣と呼ばれる分類だ。
スズとユキは姉妹だそうだ。だから服が色違いなんだろう。
カエデは、大気魔力と契約者の魔力から矢を作り出し放つ事が出来る。つまり、矢の要らない弓だ。また、魔法を矢にして放つことも出来るそうだ。神器の中でも神弓と呼ばれる分類だ。
神器と魔剣はゲブラーの言った特徴の他に形が変幻自在だそうだ。スズとユキは、長剣でも短剣でも、もっと言えば鎌でも変わる事ができる。しかし、遠距離武器にはなれないそうだ。
逆に、カエデは遠距離武器なら何にでもなれるそうだ。試しに銃に変身できるかやってみてもらったらできた。弓には弓の、銃には銃のメリットとデメリットがあるそうだ。
(俺の職は指揮者なんだが、こんな強力な武器を持っていていいのだろうか。)
そんなことを考えていると、
「サクよ、ステータスを確認してみるのじゃ」
ゲブラーにそう言われた。
「わかった」
言われた通りステータスを確認してみる。
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白川 索 職:指揮者
Lv:2
HP:500/500 MP:300/300
ATK:100 DEF:50 SPD:80 INT:1000 MND:30 LCK:20
スキル:『言語翻訳Lv10』『農具取扱Lv2』『集中Lv10』『腕力強化Lv5』『体力強化Lv2』『魔力上昇Lv1』
固有能力:『検索魔法Lv3』『指揮魔法Lv2』『空間魔法Lv1』
称号:『転移者』『迷い子』『生還者』『種を超えた友情』『共感者』『神器の契約者』『魔剣の契約者』『神樹の加護』
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Lvが上がってスキルも強化されている。称号も増えている。しかし、一箇所信じられない項目があった。
「なんで、俺が『空間魔法』を持っているんだ…?」
そう、ラウンの能力である『空間魔法』が俺のところにある。
「固有能力は持ち主が死ねば別の者に移る。それは知っておるな?」
ゲブラーが聞いてくる。
「…ああ」
「そして、移る際、持ち主の近しい存在程移りやすい。その持ち主にとって御主は最も近しい存在だったのじゃ。そして、強く望んだのじゃろ。御主に能力が移ることを」
ラウンの近しい存在であれた。それをこんな形で認識出来るなんて…
もう流さないと決めていたのに、涙が溢れてくる。どうしようもないほどの悲しみが押し寄せてくる。
身体から力が抜ける。このまま塞ぎ込みたいそう思ってしまう。
倒れかけた俺の身体はその途中で止まった。
シロナが抱きとめてくれた。シロナだけではない。スズが、ユキが、カエデが俺を支えてくれている。
「サク、大丈夫よ。ラウンはもういない。でも、貴方の心の中でずっと生きている。その『空間魔法』が何よりの証拠よ。死ぬ直前まで貴方を思い、そして死んだ後貴方を思ってくれている。だから、貴方に力を託したのよ」
シロナの言葉が俺の心に染み渡る。
「それに、貴方一人じゃないわ。ブラスやキヌ、カレット、シアン、コクロウ、里のみんな、スズ、ユキ、カエデ、そして…私が側にいるもの。頼りないかもしれないけど、ラウンと一緒に私たちも支えていくわ。だから、まだ生きましょう」
死にたいとそう思っていたのに、そんなこと言われたら、………死ねなくなる。
「私がずっと一緒にいるから、だから、私をずっと守って…」
そうだ、死ねない。何のために強くなろうとしたのか、完全に忘れてしまっていた。友人の死を乗り越えて先へ進もうしていたはずなのに…守れなかったことを後悔し、今度こそは守る。そのために強くなろうとしたのに。
「ごめん、俺はまたあいつらの想いを無駄にするところだった」
守ろう。この手で守れるもの全て。この想いがたとえ傲慢そのものでも。それでも…
気づくとシロナやスズ、ユキ、カエデと抱きしめ合っていた。
「ありがとう、もう大丈夫。もうリョクキとラウンの想いは無駄にしない。ラウンが残してくれたこの能力有難く使わせてもらう」
みんなの死を乗り越えるんじゃない背負って行こう。
もうあんなこと繰り返させない。
新たな仲間が増えて、支えてくれる人もいる。ならやる事は一つ、みんなが仲良く幸せに安全に暮らせる場所を作る。
決意を新たに俺は先に進む。
後に、この魔の樹海に一つの国が生まれる。
人も魔族も亜人も忌み子などのはぐれ者も分け隔てなく幸せに暮らせるそんな国が…
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