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異世界転移したら一人だけはぐれた?  作者: 月輪林檎
第四章 帰還 戦争

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57.この世界に来れて

「とまぁ、こんな感じだ」

「…………」


 俺が話し終えると、シロナは号泣していた。


「大丈夫か?」

「だい……じょう……ぶ……ぐすっ」


 俺は、シロナの頭を撫でる。


「別に、もう気にしていないから。落ち着け」

「うん……」


 シロナが泣き止むまで、頭をなで続けた。


「サクのご両親は何でそんな事をしたんだろう……?」

「ん? ああ、権力に負けたんだろう。俺の親は、国の事業に関わるような仕事も引き受けていたからな。あいつの親の権力の範囲内だったんだ。仕事がなくなれば、暮らしが立ちゆかなくなるからな」

「……」

「それまでは普通だったからな。どこの世界も権力に弱いのは変わらないというところだな」


 シロナの顔がどんよりと沈んでしまった。


「全く、だからつまらない話と言っただろう? 俺は気にしていないし、シロナも気にする必要ないぞ」

「うん、分かってるけど……。サクは何ですぐに吹っ切れることが出来るの?」


 シロナは幼少期に親から離れた。そうしないと、親に殺される可能性があったからだ。シロナはすぐには吹っ切れることは出来なかったのだろう。


「吹っ切れた理由か……何だろうな。俺にもよく分からない。気にしていたら生活出来ないと判断したからか?」


 今思い返してみれば、あの時もすぐに吹っ切れていた気がする。


「サクが向こうに帰らなくてもいいって思ってるのは、このことがあるから?」

「いや、これもあるにはあるが、一番の理由は違うぞ」


 シロナは首を傾げる。


「シロナがいるからだ。大事な人がこっちにいるなら、向こうに戻る意味なんて無いだろう? それに、皆が安心して暮らせるようにもしないといけないだろ?」

「……そうだね。私、サクと結ばれて良かった!」

「俺もシロナと結ばれて良かったよ。それに、この世界に来れて良かった」


 俺達は自然と顔を近づけていって、唇を重ねた。


 ────────────────────────


 シロナと一緒に過ごした次の日、俺は会議場に向かっていた。今後のことを決めるためだ。呼んでいるのはコウエンとブラスだ。


「少し遅かったか?」

「いや、時間通りだと思う。そもそも三ヶ月も遅れてきたのに、今更一、二分をとやかく言うわけがないだろう」

「まぁ、それもそうか」


 そんな事を話しつつ、席に着く。


「ブラス、拠点の敷設はどんな感じだ?」

「ああ、今のところ二ヶ所だけだ。こことここだな」


 そう言って、ブラスは、地図に描いてある魔の樹海入り口付近の二ヶ所を指す。


「なるほど、順調そうだな。警備隊の修行の方は?」

「全員死にかけながら頑張っている。俺達の頑張りで、この街の運命が決まるとなれば、気合いも入るというものだろう」

「そうか。今のところ、大きな問題は無さそうだな」


 少しくらい問題が起こりそうなものだが、今のところ問題のもの字もない。


「まぁ、嵐の前の静けさの可能性もあるが、今はこのままでいいだろう。食糧の問題も得には無しか。正直、もう少し消費するものだと思ったんだが」


 人が増えたにも関わらず、食糧の問題はまだ起こっていない。


「元々過剰気味に育てておいたからな。魔の樹海という栄養豊富な土壌のおかげもあるんだと思うが、食糧の成長は早いしな」

「それでも、戦争になれば心許ないんだがな。食糧区の拡張が済んでいるから、これも時間の問題かもしれないな」

「広げるか?」


 ブラスは街の拡張をするかどうか訊いてくる。


「いや、今は拠点の方を優先してくれ。食糧は米や野菜だけじゃなくて、干し肉を作ることでどうにかするとしよう」

「となれば、狩猟班を出すか」

「ああ、編成を頼む。それを干し肉にして食糧を増やそう」


 進捗も聞けたので今日は、この辺にして、解散した。ブラスは拠点の敷設をしに、コウエンは警備隊から狩猟班を編制しに向かった。


「さて、ナタリアはどこにいるかな」


 俺は、ナタリアを探しに街を歩くことにした。ナタリアとは戦争について色々と話しておきたいことがあるのだ。ただ、あの気分屋がいつどこにいるのか、予想するだけでも一苦労だ。


「あっ! サク!」


 名前を呼ばれたのでそちらを見てみると、レンとアイリスがこっちに向かってきていた。


「お兄ちゃん、おはようなの」

「ああ、おはよう、アイリス、レン」

「おはよう。それより、戦争するって本当!?」

「ああ」


 そういえば、二人には直接伝えていなかった気がする。


「二人には後方で待機して貰うつもりでいる」

「何で!? 私は戦えるよ!」


 レンがそう訴えてきた。


「それは知っている。先の襲撃の時には世話になったからな。だが、それで眠りにつくことになったんだ。そんな状態にはなって欲しくない」

「でも、少しでも戦力が欲しいところなんじゃないの!?」

「そこは否定しない。だが、前線に出す事は出来ない。レンには、後方で非戦闘員を守って貰う」


 レンは尚も食い下がろうとしていたが、一歩も譲らない俺に、さすがに諦めた。


「ごめんな。なるべく被害を抑えていきたいんだ。アイリスも後方で待機だぞ。まぁ、それでも役目はあるんだが」

「役目?」


 アイリスは首を傾げる。まぁ、急に役目があると言われたらそんな反応になるよな。


「ああ、千夏から色々と聞いてな。アイリスの歌には付加効果があるらしいな。だから、避難した先で歌っていて欲しい。皆を精神的に支えてくれ」

「……よく分からないけど、分かったの!」


 歌う理由とかはよく分からないが、俺の願いは分かったということだろう。


「それはそうと、アイリス。お前の父親に会ったぞ」

「お父さんに!?」

「ああ」

「……どうだった?」


 アイリスは怖ず怖ずと訊いてきた。自分を殺そうとした父親だが、やはり少し気になるところがあるんだろう。


「う~ん、そもそも初対面だからな。まぁ、元気そうだったぞ。戦争を起こす気満々だし」

「そうなの……」


 アイリスは少しだけ笑顔になりながらも、顔を伏せた。父親が元気なのは嬉しいが、戦争を起こそうとしているというのは、嫌だったんだろう。余計なとを言ったかもしれない。


「まぁ、そういうことだ。もしもの時は、二人とも頼んだぞ」

「分かった」

「分かったなの」


 二人は頷くと走ってどこかに行った。スズ達と遊びにでも行くのだろう。二人を見送ってから、再びナタリア探しを開始する。いや、正確には開始しようとした……


「お兄さん!」


 俺が見つける前に、ナタリアが背後から笑顔で走ってきた。


「ナタリア、探したぞ」

「私を? 何々?」


 ナタリアは俺が探していたと言ったら、満面の笑みになった。


「戦争のことで話がある」

「ああ……そういうこと……」


 用事が戦争についてだと知ると、途端に落胆する。こいつは俺の事が好きなのか? まぁ、どうあっても気持ちには応えてやれないんだが。気付いていないと思わせておいた方が、うまくやっていけそうだな。


「取りあえず、会議場に来てくれ」

「分かった」

「そういえば、シルクさんはどうした?」


 いつもナタリアの傍にいるシルクが、ここにはいなかった。


「キヌと一緒に簡単な魔道具の増産をしてるよ。戦争になったら入り用になるかもしれないからって」

「それは、助かる。後で礼を言いに行かないとな」


 その後、他愛のない話をしつつ会議場に辿り着いた。


「それで、話って?」

「戦争になった場合の俺達の立ち位置だ。一応同盟を組むと言ってはいるが、俺達はまだ国を興していない。だから、厳密には今は同盟関係にはない」

「そうだね。なるほど、戦争になった場合の援軍とかに関することだね」

「ああ」


 さすがは魔王だ。俺の言いたいことを理解している。


「恐らくだが、俺達に向かって進軍する兵と魔国に向かって進軍する兵に別れると思われる。まぁ、どっちかに偏る可能性もあるがな」

「その場合、勇者はどっちに来るかな?」


 そう、俺が話したかった問題の一つは、神崎の配置についてだ。


「順当に考えるのなら、神崎はナタリア達に向けて出陣するはずだ。完全覚醒を果たした勇者なら魔王と張り合うことが出来るんだからな」

「でも、そうじゃ無い可能性もある?」

「ああ、あいつは俺に対して敵愾心を持っている。俺を殺すためにこっちに来る可能性も捨てがたい」

「そうなったら、私達が人族の軍隊を根絶やしにしちゃうよ?」


 全てナタリアの言うとおりだ。ナタリアを放置するよりも、俺を放置した方が、人族の消耗は少なくなるはずだ。ナタリアを倒せればの話だが……


「正直なところ、完全覚醒した神崎と戦っても、俺が勝てるかは分からない。ナタリアが相手取った方が可能性があると思うんだが」

「そんな事無いと思うけどなぁ。本気ではなかったとはいえ、私とあんなに戦い合ったんだもん。今のお兄さんならある程度相手取れると思うよ」

「それならいいんだけどな。あの時殺しておくべきだったか……」


 今ここまで悩むなら、こっちに転移したときに殺しておけば良かったかもしれない。


「まぁ、過ぎたことを気にしても始まらないよ。王城で打ち合ったとき、勇者の感じはどうだった?」

「まだ、覚醒には至ってないな。正直簡単に殺せると思ったな」

「じゃあ、まだ時間がありそうだね。私と少しだけ戦ってみない? お兄さんがどのくらい強くなったのか知りたいし」

「……そうだな。少しやってみるか」


 俺とナタリアは会議室を出て、街からかなり離れた樹海の中に降り立った。


「お兄さん、普通に空を飛ぶよね」

「まぁ、この飛び方に慣れたしな」

「じゃあ、ダイン!」


 ナタリアの身体から黒い靄が出てきて剣の形をとる。


「スズ、ユキ、カエデ」


 俺の呼び掛けで三人が現れる。


「これは……修行ですか?」

「ああ、三人とも手伝ってくれ」

「は~い」

「分かりました」


 そして、俺とナタリアの修行が始まった。結果を言えば、辺り一帯の森がなくなり、かなり深くまで地盤が抉れた。そして、シロナとシルクから、特大の雷を落とされた……

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