36.戦いを終えて
目が覚めると、良く見知った天井が見えた。
「…ん、戻ってきたのか…」
俺は、ゆっくりと身体を起こす。
「痛っ!」
身体中に痛みが走った。自分の身体を見下ろすと、包帯がぐるぐるに巻かれていた。若干血が滲んでいるところもあった。
「あいつが使ったのは、回復魔法だったのか。あの時の感覚的には『光魔法』だったが、俺達の使っている魔法と次元が違った。何なんだろうな」
ライエルが俺に対して使った魔法は、『光魔法』の回復魔法のようだった。色々ややこしいが、この世界のスキルに回復魔法、治癒魔法は存在しない。この二つは、『光魔法』、『水魔法』、『風魔法』の種類でしかない。それぞれの魔法に回復魔法、治癒魔法があるが、効力に違いがある。
その順番は、大きい方から『光魔法』『水魔法』『風魔法』となる。
普段重傷を負うか、無傷でいるかしかしない俺は、『光魔法』による回復を多く受けている。そのため、身体に受ける感覚でライエルが使ったのが『光魔法』に似ていると分かったのだ。
ちなみに、俺は、回復系の魔法を使えない。使うには、聖なる心が必要になるらしい。どうやら、俺には、その聖なる心がなかったようだ。
そう似ているだけだった。恐らくは、神のみが使える能力なんだろう。なら、傷口が開かない治癒魔法でやってくれればよかったものの。自力で治せと言うことなんだろうか。
そんな事を考えつつ、ゆっくり立ち上がる。
しかし、一歩も歩かないうちに倒れてしまった。
「ぐっ」
痛みに耐えながら、這っていこうとすると、襖が勢いよく開いた。そこにいたのは、シロナ、スズ、ユキ、カエデだった。全員、眼に涙を浮かべている。
「サク!」「主様!」「主人!」「ご主人様!」
四人はそう言って、俺に抱きついた。
思い出して欲しい。俺が何で倒れてしまったのかを。
抱きつかれた瞬間、ものすごい激痛が身体を走った。
俺は、なんとか声を出さずに耐える。
俺が耐えていることに気付くのは、もう少し後のことだった。
「「「「ごめんなさい」」」」
俺が布団に座り、シロナ達は目の前で土下座している。
「いや、まあ、いいよ。心配かけた俺が悪いんだから」
皆の話を聞くと、俺は三日間寝たままであったらしい。身体中の怪我もあるが、スズと無理矢理完全な『一神化』をしたのが原因らしい。
無理矢理やった結果、身体への負担が大きすぎたのだ。
「スズ、ユキ、カエデ、苦しい思いをさせてすまなかった」
『一神化』を使っていた時、俺は三人力を無理矢理使っていたらしい。これは、少し前のレンと同じく、苦しみと痛みがあるようだ。そのことに気付いて三人に謝罪したのだ。
「いえ、主様が怒るのも無理の無い状況でしたので」
スズの言葉にユキとカエデが頷く。三人とも気にしていないらしい。
「そうか、ありがとう。それで、今はどういう状況なんだ?」
あれから三日も経ってしまった。家に帰っていることから、戦闘などは終わったと考えられるが、まだ確認が取れていない。
「勇者はどさくさに紛れて逃げたよ。街の皆は全員無事。今は、街の中の罠を外して、街の周りの調査をしているところ。指揮は兄様が執ってる」
「そうか、何か異常はあったのか?」
「周りの森の一部と山の一部が無くなってる」
「それは、俺達のせいだな。他は?」
「特には無いよ」
俺と魔王が暴れた結果起きた事しかなかった。そもそも、あの戦い自体が異常だった。普通の人間があんな事やっていたら命がいくつあっても足りない。
「じゃあ、サクは休んでいて。私は、集会場に行ってくるから」
「私達も、レンとアオのところに行って参ります」
「主人はゆっくり休んでね!」
「絶対安静ですよ!」
最後に釘を刺してから、四人は部屋を出て行った。
(あの戦いで生き残れたのも転移者の得点のおかげか?いや、『不死者』の効果か。そういえば、ここ最近ステータスの確認とかしてなかったな)
ちょうどいいので、自分のステータスを確認してみることにした。
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白川 索 職:司令官
Lv:???
HP:???/??? MP:???/???
ATK:??? DEF:??? SPD:??? INT:??? MND:??? LCK:???
スキル:『言語翻訳Lv10』『農具取扱Lv2』『超集中Lv10』『ステータス強化Lv10』『身体能力強化Lv10』『剣術Lv10』『二刀流Lv10』『弓術Lv10』『魔弓術Lv10』『防御術Lv10』『全属性魔法Lv10』『脳内構成Lv10』『気配感知Lv10』『五感強化Lv10』『軽業Lv10』『魔力支配Lv10』『限界突破Lv10』『???Lv1』『???Lv1』『再生Lv1』
固有能力:『検索魔法Lv3』『指揮魔法Lv5』『空間魔法Lv4』
称号:『転移者』『迷い子』『生還者』『種を超えた友情』『共感者』『神器の契約者』『魔剣の契約者』『神樹の加護』『不死者』『挫けぬ心』『不撓不屈』『抗う者』『叛逆者』
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色々とおかしかった。まず、ステータスの数値が見えない。そして、持っていたスキルが消え、別のスキルがある。統合されたと考えるべきだろう。統合の条件は、スキルをカンストさせていることだろう。
後は、何故か『空間魔法』のLvが上がっていることだ。何かの条件をクリアしたらしいが、身に覚えが無い。暴走していたときに上がったのかもしれないが、確かなことは言えない。
「色々あるが、とりあえず調べてみるか」
『ステータス強化』『全属性魔法』『五感強化』『防御術』は名前の通りの効果だった。ただ、『防御術』は何故手に入れたのかが分からない。これまでも防御はたくさんしていたが、何故か今になって手に入れることが出来た。
『限界突破』は種族としての限界を超えるスキルらしい。このスキルを得た者は、ステータスの数字が表示されなくなる。俺のステータスがおかしいのはこれのせいだ。
『???』については一切分からない。検索の結果はなにも表示されなかった。そういったスキルは存在しないらしい。今後分かってくるといいのだが…。
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『不撓不屈』:決して折れずに最後まで戦い続けた者に贈られる
『抗う者』:絶対的強者相手に逆らい続け、抗い続けた者に贈られる
『叛逆者』:国への反発、世間への反発を行う者に贈られる。世界の法則に背くことが出来る
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称号はこんな感じだった。最後の世界の法則に背くことが出来るというのがよく分からない。
「はぁ。魔王にでも聴けたらいいんだけどな…」
「何を?」
すぐ横で声が聞こえた。その方向を見てみると、魔王が仁王立ちでそこにいた。後ろの襖が開いていることから、普通に入ってきたのだろう。
とりあえず、布団から上体だけ上げる。
「何でここにいる?」
「え?お兄さんが起きたって聞いてきたんだよ」
「ん?街にずっといたのか?」
「うん、お兄さんには話があったからね。それに、お兄さんこの街のリーダーなんでしょ?その点でも話があるんだ。つまり、公的にと個人的にはなしがあるの」
魔王は真剣な顔をして、布団の傍に正座した。
「いきなり攻撃をしてしまってごめんなさい。迷惑かけてごめんなさい」
そうして、土下座し始めた。
「はぁ、過ぎたことだからいい。今度何かしらで返してくれ」
「…いいの?」
「ああ、返してくれるならな」
「うん、任せて!」
魔王は辛気くさい顔から一転、笑顔になり身体全体で喜びを表す。
(何にも条件を出さなかったな。意外だな。まぁ、後で話し合えばいいか)
少し、不安が残るが、ここはこれでいい。
「後もう一つ。この世界の正しい歴史を教えてあげようと思ってね」
「正しい歴史?」
よく分からないことを言い出した。そもそも、この世界の歴史自体を、俺はよく知らない。王都に転移していれば話は別だっただろうが、森の中に転移したため歴史を知る機会が少なかった。
「うん、この世界には間違った歴史が蔓延っているから。これが、勇者を殺せない理由にもなるの」
「!?」
魔王の発言の中に気になる言葉があった。勇者を殺せない理由…。確かに、それは気になる。俺は、とりあえず真面目に聞いてみることにした。
「まず、間違っているのは、勇者は魔王を殺していないということ」
最初から知らないことだった。この世界の歴史では魔王は勇者に殺されたことになっているらしい。
神崎を見ていると、勇者にそんな事は出来そうにないのだが。
「勇者は魔王と戦ってわかり合い、そして、結婚したの」
「は?」
目が点になった。というか、思考が真っ白になった。
(こいつ、本当のことを言っているのか?意味が分からない…。勇者と魔王が結婚…。どう考えても相反する存在なのだが…)
「うん、意味分からないと思うけど、これは本当のことだよ。私に受け継がれている記憶の中ではそうなってる」
「受け継がれている?お前自身が初代魔王なんじゃ無いのか?」
「違うよ」
魔王は転生すると聞いていたが、人格では無く記憶が受け継がれていると言うことなのか?疑問に思っていると、魔王が解説してくれる。
「私は、初代魔王の記憶だけ受け継いでいるけど、前の魔王は人格も受け継いでいたらしいよ。代によって変わってくるけど、人格の時もあるし記憶だけの時もあるんだ。だから、私自身は初代魔王ディアナリア・ナル・ハイデラートじゃ無いよ。私は、第二十二代魔王ナタリア・ナル・ハイデラートよ」
「そうなのか、それにしてはレンと仲が良かった気がするんだが…」
うろ覚えだが、暴走していたときの記憶がある。魔王……ナタリアとレンは、連携が良かった。
「記憶はあるからね。レンとの楽しかった日々や一緒に戦った日々は、きちんと覚えているよ」
「それでも人格は無いんだな」
「うん、私は私自身だよ」
「そうか、ナタリアでいいか?」
「うん、ナターシャでもいいよ」
「ああ。ところでナタリア」
俺が、呼び方をナタリアにすると、少し残念そうな顔をした。ナターシャと呼ばれたかったのだろうか。
気にせずに俺は、話を続ける。
「勇者を殺せない理由は何処にあるんだ?」
「そうだった。えっと、初代勇者は初代魔王と結婚して、一時的に種族間の戦争は終わったんだ。平和になって、しばらくは魔族も人族も仲良くしていたんだよ。それこそ、同じ街に住むくらいにね。
でも、そんな日々はあまり長くは続かなかったの。二十年位したときに、人族の国王が宣戦布告しだしたんだ。新しい勇者を呼んで、魔族の街を襲いだしたの」
「人族は反発しなかったのか?」
「うん、国王が適当な理由とでっち上げたんだ。魔族は人族を奴隷にしようとしているとかね。
唯一、魔族と人族が一緒に暮らしていた街だけは、我関せずを貫いていたけど。
そして、勇者は魔族を殺し続けたんだけど、怒った初代勇者と魔王が討伐したんだ。
人族の国王は、諦めきれずに何度も勇者を召喚したんだ。その中には一緒に呼ばれた勇者の仲間に殺されたのもいたんだ。
そこで、勇者召喚の術式に細工をしたんだ。精神支配で、勇者を殺せないように。それは、世界の法則にまで手を伸ばして、私達にも殺せなくなった。ただし、勇者が一定の強さを得たときに外れるようになっていたんだ。
私達は、それを見計らって勇者を殺した。これらのことを後世にも伝えるために初代魔王は自分の魂を無限に転生させる魔法をつかった。そして、初代勇者は死ぬ際に、大魔法を発動して、魔王が現れないと勇者を召喚できないようにしたの」
「問答無用で勇者を召喚させないということは出来なかったのか?」
「そこまで都合のいいことは出来なかったみたい」
勇者を殺せない理由が分かった。神崎は、強くならない限り不死身ということだ。実に厄介極まりない。
「そういえば、何で魔王の転生を人族は分かるんだ?」
シロナの話では魔王の転生に気付いて勇者召喚の術式をするとなっていた。しかし、今の話では、魔王がおとなしくしていれば、一生勇者を召喚することが出来ないように思える。
「人族の王族は、その血に呪いをかけたんだ。魔王の復活を感知するという呪いを」
「何で、そこまで魔族を嫌っているんだ?」
「この星を支配するのは人族だからだって」
ナタリアが心底呆れているという顔で答えた。その答えに俺も呆れる。言葉すら出ない。ほんの少しの間静寂が広がった。
「…馬鹿みたいだな」
「ほんとね。だから、私達魔族も徹底抗戦をしているんだ。そんな理由で蹂躙されるのは嫌だからね」
ナタリアは、憂いの顔をする。
「そうか。話してくれてありがとうな。こうなると、俺達の街も標的のままだろうな」
「そう!そこで、もう一つの話だよ!」
ナタリアは、憂いの顔から一転、真面目な顔になる。
もう一つの話というと、街のリーダーとしてのものか。街の没収などじゃないといいのだが。
魔王は、深呼吸をしてから、俺の目をじっと見ながら口を開いた。
「お兄さん、私の元に来ない?」
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