27.街回り
朝いつも通りに起きて、朝の鍛錬を行う。シロナが起きてきたら、鍛錬を終えてお風呂に入った。ちなみに、今日のシロナはきちんと服を着ていた。ただ、いつも通り少し寝ぼけていた。ご飯の支度が出来ると、スズ達が起き出して、朝食をとる。朝食後スズ達は遊びに出かけ、俺は、牧場に繰り出した。
牧場に着くと、翠川が作業をしていた。
「翠川、今大丈夫か?」
「白川くん?ちょっと待って」
声をかけると、翠川は汗を拭いながらこちらに来た。
「どうしたの?」
「畜産について翠川に一任するのは聞いてるよな?」
「うん、冬子ちゃんに聞いたよ」
昨日の話のとおり、翠川に話が通っていた。
「これ、紙と簡易型の鉛筆だ。必要な物があったら、ここに書いて俺かコウエンに渡してくれ。今後はもっといい品質の紙が出てくると思う。書きにくいかもしれないが、少しの間これでやってくれ」
「わかった、でも、私この世界の言葉かけないよ?」
翠川が少し困った顔をしながら言う。
「大丈夫だ。いろいろ試したが、『言語翻訳』が言葉を換えてくれる。この世界の言葉をと書く事を考えながら書けば大丈夫だ。それじゃあ、俺はもう行くな。畜産のことは翠川に任せた。気負いすぎずに頑張ってくれ」
「うん!分かった!」
俺は、翠川と別れ、牧場を離れる。その後、職人街の方に向かう。そこは、鍛冶場などが集まる場所で職人達が集まっている。そのうちの一つである、ブラスの鍛冶場に向かう。
「ブラス、いるか?」
鍛冶場に入り声をかけると、鎚の音が聞こえてきた。
(作業中か)
区切りが良くなるまで待つことにした。その間に渡す資料の確認を行う。二度確認して不備が無いことを確認すると、ちょうどブラスが作業を切り上げた。
「すまねぇ、サク。待たせちまったな」
「いや、作業中に来たこっちが悪い」
そう言葉を掛け合ってから、机のある場所まで移動した。
「まず、これが紙の作り方だ。確認してくれ」
「ああ、よくこっちの文字が分かるな」
「スキルのおかげだ」
俺は翠川にしたようにブラスにも同様の説明をする。
「なるほど、そのスキルは便利だな。それより、この製法でいいならこっちで割り振るぞ」
ブラスは、紙を作る職人を選定してくれるそうだ。
「そうしてもらえると助かる。後、改良できるならやってほしい。これは、多分使える最低限の品質だと思うから」
「分かった。改良と量産だな。任せろ」
ブラスに任せて、次の場所に向かう。次に向かうのは、キヌの元だ。キヌの作業場のドアをノックする。
「はーい」
キヌがドアを開けた。
「あら、サクさん。どうぞ、お入りください」
「お邪魔します」
中に入ると、氷川が作業をしていた。とても集中しているようで、俺が入ってきたことに気づいていない。
キヌに別室に案内してもらった。そこにあるテーブルに着いて、話しを始める。
「魔道具の量産はどうだ?」
「今ある家の分はすでに終って、設置もすみました。今は、予備の物を作っています。後は、カレットさん達に渡す物の製造も終ってますよ」
「ありがとう」
人族の街に偵察に行ってもらうカレット達には、『魔物除け』などの魔道具を渡すつもりだ。その製造をキヌに頼んでいた。
「キヌに頼み事があるんだが、大丈夫か?」
キヌの仕事量は少し多めになっているので、これ以上増やしても平気か、確認をとる。
「大丈夫ですよ。トウコさんにも手伝ってもらいますので」
俺は、心の中で氷川に謝罪しておいた。
「一つは、冷蔵庫を作ってほしいんだ。箱形の倉庫なんだが中の温度を下げることで、中に入れた物の腐敗を遅らせることができるんだ」
俺がそう説明すると、キヌは眼を閉じて少しの間黙ったままになった。
「そうですね。作ることは出来そうです。明日の夜までには試作品をお作りしますね」
「ありがとう」
キヌの申し出に素直に感謝する。
「後もう一つ、この街を覆う結界を張ってほしいんだ」
俺がそう言うと、キヌは少し難しい顔をした。
「少し難しいかもしれませんね。この街を覆うと言いますが、実際には余裕を持たせて結界を張った方がいいですよね?」
「ああ、その方がありがたい」
「魔道具じゃだめですね。設置型魔法を使えば出来るかもしれませんが、魔力が足りません」
やはり、無理があるらしい。魔力の問題を解決するのは容易ではないだろう。
「難しいか。とりあえず、今は置いておこう。いずれはやるかもしれないが」
「なら、その時用に陣を考えておきますね」
「ああ。後、これをもらってくれ」
キヌに紙と鉛筆もどきを渡す。
「紙ですか。こちらは、木炭ですね」
「ああ、設計とか書いた方が説明しやすい物とかに使ってくれ。職人に製造を任せたから近いうちに品質のいい物が出来ると思う」
「なるほど、ありがたく頂戴します」
キヌとの話が終ったのでお暇する。結局、氷川は最後まで俺が来た事に気づかなかった。
次に、コウエンとの話し合いをするために集会場へ向かった。集会場に着くと、すでにコウエンが座っていた。
「すまん、待たせたか?」
「いや、さっき着いた所だ」
俺も席に着いてから話し合いを始める。その前に、聞きたい事があった。
「なぁ、コクロウさんってどこにいるんだ?この前の会議の時も居なかったけど」
「コクロウか?あいつは本来の役目に戻った」
「本来の役目?」
「ああ、あいつは俺の家来だからな。今は、警備隊の隊長を務める予定なんだ。だから、隊員集めをしている。昨日の募集である程度集まったが、その場に来れなかった者たちにも聞いてみるらしい」
ここで、俺に一つの疑問が生じる。
「コクロウさんって里長だっただろう。この街の代表っていつの間にかコウエンになっていたのか?」
「何言ってんだ?お前だよ」
衝撃の一言だった。
「待て、俺はこの街の中じゃ新入りに近い存在だぞ」
「街の皆は納得しているぞ。里に来て一週間しか経っていなかったのに皆を守ろうと奔走したろ。それで、皆はお前の事を本気で信頼するようになったんだ。今じゃ、お前がリーダーで全員納得しているぞ」
まさかの事実に少しの間固まってしまった。
「聞いてないぞ、だから会議の進行も俺がやっているのか」
「いや、それは成り行きだ。皆が集まったら、お前が進行し始めたからな。まぁ、皆お前にやらせようとしてたから、どのみちお前がやることになっていたがな。取り仕切ったのは、お前の職の影響だろうな」
職によっては所有者に影響を与えることもあるらしい。後で調べてみると
――――――――――――――――――――――――
職:その人の本質や適性などによって決まる。職業によって付加能力のあるものがある。例えば、剣士であれば、剣の取り扱いがうまくなる。
――――――――――――――――――――――――
となっていた。
「なるほど、だが、コウエンがやった方がいいと思うんだが。お前の方が向いているだろう?」
「いや、サクは上に立つ方がいい。職的にもな。それに、せっかく皆が認めているんだ。やってみてもいいだろう」
「わかった…。向いてないと分かったらコウエンに譲るからな」
「わかった」
その瞬間、頭に声が響いた。
『条件を達成しました。『指揮魔法Lv3』が『指揮魔法Lv4』になりました』
世界からのお告げによって、『指揮魔法』のLvが上がった事が分かった。
「どうした?」
コウエンがこちらの様子がおかしいことに気がつき声をかける。
「ああ、固有能力の一つのレベルが上がった」
「何かしらの条件を達成したのか」
「ああ、おそらく俺が俺の立場を自覚したのがきっかけっぽいな」
皆を指揮する立場になること、そして、それを自覚することがトリガーとなるらしい。
「まぁ、今これはいいとして、警備隊なんだがどのくらいの規模になる?」
「今、街にいるのが三百人ほど、その中から募集に応じたのは百人だったな。皆、これ以上居場所を奪われるのは嫌らしい」
予想よりも遙かに多い数の人員が集まりそうだ。
「指導役は師匠に頼むとして、警備隊のリーダーはコクロウさんが担う。後は、班分けをして、巡回ルートを決めなきゃな」
「そうなると地図がほしいな」
紙は出来たので後は測量などをして地図を書きあげる事が必要となる。しかし、そのような技術を持っている者はいないため、かなり難しい。
「『地図検索』の結果を貼り付けられたらな」
思いつきで今頭の中に浮かんでいる『地図検索』の結果を紙に貼り付けるイメージをする。すると、紙にその地図の内容が浮かび上がってきた。
「貼り付けが出来た。いつから出来るようになったんだ?」
「固有能力か、何が出来るか分からないのは、やはり、不便だな」
貼り付けられた地図は、『地図検索』と同じように正確なものだった。その範囲は、街とその周りがきちんと書かれている。
「これは便利だな。固有能力は便利な側面と不便な側面があるな」
コウエンはそう評価する。
「まぁ、とりあえず、巡回ルートを決めよう」
俺達はそのまま長い時間話し合いに費やした。それは夜が更けても続いた。
「サク?いる?」
全然帰ってこない俺を心配して、シロナが集会場にやってきた。
「このルートは外せない。となるとこっちも必要だ」
「なるほど、だが、こっち周りで行けばカバー出来るんじゃないか?」
「となると、この一周を基礎としたかったが、ここを変える必要もあるな」
俺とコウエンは、シロナが来た事に気づかずに話し合いを続けていた。
「むぅ、サク!兄様!」
俺とコウエンは二人揃ってビクッと驚いた。
「シロナ?もうこんな時間だったのか」
俺は、窓から外を見て真っ暗になっているのを確認した。
「結局、案を絞ることしか出来なかったな」
「明日、また集会場でいいか?」
「ああ、そうしよう。すまないな、シロナ。長くサクを借りてしまって」
コウエンが、シロナに謝る。シロナは、両手を振りながら、
「いえ、お仕事ですか仕方が無いです。でも、出来れば無理しないでほしいですね」
「愛されてるな」
「まぁな」
俺は少し赤くなりながら返事をした。そのまま、解散して俺とシロナは帰路についた。
面白い
続きが気になる
と感じましたら、評価や感想をお願いします。
評価や感想を頂けると励みになりますので何卒よろしくお願いします。




