2出会い(1)
改稿しました(2020年11月15日)
目が覚めると知らない天井だった。
「ここは……?」
「目が覚めましたか?」
「!?」
眼を動かすと女性がいた。しかし、ただの女性ではなかった。容姿はある一点を除けばただの女性だった。そう、その女性には角が生えていたのだ。
その方は、白色の長い髪と白い角そして赤い眼をした小柄で華奢な女性だった。
「ああ、はい、助けていただきありがとうございます」
取り敢えず、お礼を伝えながら身体を起こそうとするが、
「痛っ……‼︎」
「動かないでください。まだ完全に傷が癒えているわけではありませんので」
身体を見下ろせば包帯のような布が巻いてあった。若干血が滲んでいるのもわかった。
「治癒魔法はかけてありますが、傷が少し深かった為血を止めるところまでしか出来ていません。動かすと傷がまた開いてしまいます」
「痛っ…!はい、わかりました。助けていただいただけでなく治療までしていただきありがとうございます。俺の名前は白川索と言います。あなたは?」
「私は鬼族のシロナと言います。ここは鬼族の里です。といっても鬼族の他にも多くの種族がいますが」
互いの自己紹介を済ませる。そして、俺はシロナさんの発言で気になる部分があった。
「他の種族?」
「はい。ここには他の里などからはぐれた者たちもいますので」
「はぐれた者?」
「はい、他の里を追い出された者達が来ています。とは言っても殺しなどの暴力沙汰を起こしたものなどはいれません。不当に追い出された者だけです」
事情があって、里を出る人が多いのだろうか。今の地球でもある難民と似たようなものだろう。
(こちらから訊いてばかりだな)
「すいません。なんでも訊いてしまって」
「いえ、構いません。こちらもいくつかお訊きしてもよろしいでしょうか?」
「なんでしょうか?」
「なぜ、あのような場所に丸腰でいらしゃったのでしょうか?それに、あの面妖な装いはなんでしょうか?」
「えっと……」
シロナさんに向こうから来たことなどを話した。するとシロナさんは怪訝そうな顔をしていた。
「なるほどそのような事情なら納得です。ただ、少しおかしな点があります。今の話からしたら普通は召喚者の元に転移されるはずです。それに……、それは勇者召喚の儀式です。勇者とそれを支えるための者達をまとめて召喚するというものです。一人だけはぐれるなどということは聞いたことがありません」
俺がこっちの世界に呼ばれたのは、勇者召喚によるものらしい。そして、シロナさんが聞いた事がないと言う事は…。
「勇者召喚というのは何度も行われているのですか?」
「そうですね、魔王が産まれた事に気付いた人族が行いますから、魔王が生まれ変わる度に行っています」
「魔王って、生まれ変わるのですか?」
「はい、そちらの世界には魔王はいらっしゃらないのですか?」
「いませんね。そもそも、魔法自体がないですし、魔物や魔族もいません」
シロナさんは少し驚いた顔をした。
「そうですか、ここら辺で私は失礼します。怪我が治るまではこちらで安静になさって下さい」
多少話して、シロナさんは、部屋から出て行く準備をする。怪我が治るまでは、ここにいていいとは、すごく良い待遇だ。逆に怪しく感じるが、なんとなく信用していい気がする。
「何故、そこまでしていただけるのでしょうか?」
「傷ついた者を放っておく事はできませんから、なにか御用が有ればいつでもおっしゃってください」
「ありがとうございます」
シロナさんが出ていった後、自分の置かれてる状況を確認した。まず、自分が勇者召喚で呼ばれたが、本来行くべき場所には行けなかった事。熊に怪我を負わされ、鬼族の里に世話になっている事。
そして、次に、これからやるべき事について考える。取り敢えず、助けてもらったお礼はしないといけないな。
次にシロナさんが来たときに、この里の責任者に会わせてもらえるように頼んでみる事にする。
自分の記憶が正しい事を確認していると、こうなる直前の事を思い出す。
「そうだ、スキルについて調べる途中だったな」
傷が痛むかと思ったが、腕を動かす分にはあまり痛みがなかった。さっそく『検索魔法』を用いてスキルについて調べてみる。
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スキル:誰でも得ることが出来る力。特定の行動をとるあるいはスキルについて書かれた特殊な本を読む事で会得することが可能。
固有能力:能力の保持者のみが使うことが出来る力。保持者が死ぬことで別の誰かに能力が移る。保持していた者に近しい者(血縁者、配偶者)程移る可能性が高くなる。全貌が明らかになっていないものが多く、十全に扱うことができる者はほとんどいない。
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スキルは取れる時に取らないといけないな。固有能力については色々試さないとまともに扱うことも出来なさそうだ。
『検索魔法』については、今の使い方で取り敢えずいいとして『指揮魔法』が鬼門だな。効力がいまいち分からない。だが、今は試そうにも試せない。
そういえば、死にかけた事によって何かしらのスキルを得ることは出来たのだろうか。
「『ステータス』」
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白川 索 職:指揮者
Lv:1
HP:62/100 MP:100/100
ATK:10 DEF:20 SPD:40 INT:50 MND:10 LCK:20
スキル:『言語翻訳Lv10』
固有能力:『検索魔法Lv1』『指揮魔法Lv1』
称号:『転移者』『迷い子』『生還者』
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「称号が増えたのとDEFとSPDが上がってるな。Lvが上がらなくてもステータスは上昇するのか。HPが下がってるのは怪我を負ったからだな。現状この数字なら攻撃を受けたときはもっと下だったんだな。それにMPが減ってないってことは『検索魔法』はMPを消費しないんだな」
スキルは獲得出来なかったが、レベルが上がらなくてもステータスを上げることが出来ることがわかった。次に称号について調べる事にした。
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称号:特定の行動をとる、特定の結果を残す、特定の状況を作り出す、偉業を成すなどした者に与えられるもの。称号によっては恩恵を与えるものもある。
『転移者』:別の世界からの来訪者。その多くは固有能力を備えている。転移の特典として『言語翻訳』などのスキルも付与される。
『迷い子』:本来行くべき場所へ行けなかった者に送られる。所持者は迷い子になりやすくなる。
『生還者』:死の淵から還ってきた者に送られる。死にかけても助かる事が多くなる。
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「『生還者』はともかく『迷い子』は恩恵なのか?迷い子になりやすいって…。まぁ、称号も能力のひとつに成り得るってわかっただけでも有り難いな」
色々考えていると頭の中に声が響いてきた。
『検索魔法Lv1がLv2になりました』
「『検索魔法Lv2』か…出来ることが増えた筈だな。試す事が増えたか」
色々試そうと思ったが、傷が痛み始めたため、今は休む事にした。傷が治りしだいやる事を決めよう。そう思い意識を手放した。
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