7.守りたい
それぞれの訓練が始まった。私の職は魔導士なので、魔法系の訓練になるようだ。教師の方がきて、魔法の使い方を教えてもらった。
どうやら詠唱をする事で魔法が発動するらしい。皆はノリノリだが、少し恥ずかしい。
詠唱はオリジナルでもいいらしい。でも、詠唱しながらきちんとイメージしないと形になりにくいと言われた。
私の適正は水、風、光だったので、その魔法を中心に練習した。ある程度、形にはなったが、まだ攻撃魔法まではいけなかった。
水を浮かす、風を吹かせる、光を瞬かせるだけでもかなり難しい。
『水よ、球となり、浮かべ』
という詠唱で水が浮かぶ。しかし、少しでも動かそうとすると、消えてしまう。
教師の方が言うにはイメージが足りないらしい。もういっそのことイメージだけでやった方がいいんじゃないかと思った。
そこまでで最初の一日は終わった。
私達は城に用意された部屋に泊まる事になっている。一人一部屋与えられるのはありがたい。
食事を終わらせて、大浴場にみんなで入る。もちろん男女別だ。
「冬子ちゃ〜ん!」
と言いながら私に抱きついてくる人がいる。そんな人一人だけなのですぐにわかった。
「千夏、苦しい…」
翠川千夏だ。
千夏は、中学からの友達だ。出会い頭にいつも抱きついてくる。私よりだいぶ小さいので妹みたいな感じがする。
いつも元気が取り柄の千夏がだいぶ参っている。
「前衛の訓練、厳しかったの?」
と問いかけると、
「厳しいなんて者じゃないよ!私、槍術なんてやった事ないもん!」
千夏の職は、槍術士。槍を使って攻撃する職らしい。
千夏は槍の取り回しが難しいらしく、うまく扱う事が出来ず怒られたそうだ。
「なんで向こうから勝手に呼んでおいてあんなに偉そうなの…」
と愚痴を漏らしていた。
「あいつらにとっては死活問題だからなんじゃない?魔王が暴れて大変ていうし……」
「そもそも、戦ったことのない私達にちゃんと出来るかなんてわからないし、神崎くんは勝手に決めて、しかも断りにくいようにこっちに訴えかけるし」
「まぁ、落ち着いて、ご飯食べたら私の部屋で話そう」
と提案すると、
「いいの⁉︎行く行く!」
と少し元気になった。
浴場から出て食堂で夕飯を食べ、私の部屋に行く途中で小さな影と会った。
その小さな影は、召喚された場所で見かけた茶髪の女の子だった。
あちらもこっちに気付いたようだ。
びっくりしてから、おずおずとこっちに来た。
「こんばんは」
と笑いながら言うと
「こ、こんばんは…」
と返してくれた。
「私は氷川冬子。冬子って呼んで。それでこっちは、」
と言った所で、
「私は、翠川千夏。千夏でいいよ」
と自己紹介した。
「あなたは?」
と聞くと、
「アイリス、アイリス・ルブ・アルガスト」
アイリスと言うらしい。やはりこの国の姫様みたいだ。
「そう、アイリスと呼んでもいいかしら?」
と聞くと、首を縦に何回も振った。
「ふふ、アイリスはここで何してるの?」
可愛らしく思わず笑ってしまった。
「トウコお姉ちゃんに会いに来たの」
「私に?」
まさかの答えにびっくりしてしまった。
「うん、一緒にお話し出来るかもって思って…」
「ふふ、良いわよ、じゃあ私の部屋に行きましょう」
アイリスの手を取り一緒に歩く。もちろん、千夏も一緒だ。
少し歩き、私の部屋に入る。
三人で備え付けのテーブルにつき、紅茶を入れ、飲みながら話す。
「アイリスちゃんはなんで、冬子ちゃんと話せるって思ったの?」
と千夏が聞く。
「お姉ちゃんと目が合って笑ってくれたから…」
「そうね、こっちに呼ばれて皆が話している時に目が合ったわね」
千夏はその時混乱していたから周りに気を配れていなかったのだろう。
「そういえば、私に何か話があったの?」
「うん、お願いがあるの」
「お願い?」
「うん、お母さんと会って欲しいの」
アイリスは衝撃的な事を言った。
「お母さんって王妃様のこと?」
と聞くとうなずく。
「なんでか聞いても平気?」
「お母さんが信用出来そうな人を連れてきてって、だから、お姉ちゃんとチナツちゃんにお願いするの」
とアイリスが言う。私と千夏は互いに互いを見て頷き合う。
「アイリス、私達いつ王妃様に会いに行けば良いの?」
とアイリスに聞く。
「今すぐでも平気だよ。案内するの」
とアイリスが言う。私達は覚悟を決めて会いに行く事を選ぶ。正直、知らない人に会うのは怖いが何か重要な話のような気がしたからだ。
私たちはアイリスの案内で王妃様のいる部屋まで向かう。
王妃様がいたのは城の少し奥の方にある部屋だった。私たちの部屋の十倍はでかい。
その部屋のテーブルに王妃様はついていた。
王妃様はこちらに気づくと椅子から立ち上がってこちらに会釈をしながら、
「よくぞ、おいで下さいました。突然のお呼び出し申し訳ございません」
と言った。私達は少し面食らってしまった。まさか、こんなに謙虚な方があの王様の奥さんだと言う事に驚いたのだ。
「い、いえ、こちらこそお会いできて光栄です」
と言うと、
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。さぁ、こちらにお座り下さい」
と返された。私達は、言われるがまま椅子に座る。
「さて、こちらに来てくださったということは、お話を聞いて頂けるということで宜しいですか?」
王妃様は私達に確認を取る。
「はい、その前に、私の名前は氷川冬子と申します。こちらは友人の翠川千夏です」
「すみません、自己紹介がまだでしたね。私はサルビア・ルブ・アルガストです」
王妃様は優雅にお辞儀しながら自己紹介する。
「私からの話は他でもないこの娘に関することなのです」
と王妃様は私の隣にいるアイリスを指す。
「アイリスですか?」
と、聞き返す。
「ええ、この娘は私の三番目の娘なのですが、この娘だけ髪の毛の色が違うのです」
「はい、上のお二人は王妃様や王様と同じ金髪でした」
とあの時見た二人を思い出す。
「よく見ていますね。そうなんです」
「でも、それがどうかしたのですか?」
と聞くと、王妃様は暗い顔をした。
「王家の子供は代々金の髪をしているのです。ただ一つの例外もありません。……公式には」
「ということは、昔もいたということですよね。アイリスと同じ様な子供が」
「はい、いましたが、その子供は内密に始末されていたのです。なので、公の場には出てきていません。
アイリスが生まれた当初は私の不義の子供と言われていました。しかし、私の周りには女性しかおらず、寝ている時も近くにはメイドしかいない状態に陛下がしていたため、その誤解は取れました。
いや、取れてしまったと言うべきでしょうか。陛下との子でありながら金の髪ではないことが判明してしまったので、アイリスも同様のことをされそうになりました。
私がそうすることを拒否したため、まだこの場いる事ができています」
王妃様は恐ろしい事を口にした。
「そんな、なんでそんなひどい事を!」
と千夏は怒りを露わにする。
「この世界ではこの様な迫害はよくある事なのです。そして、それに対して異議を唱える者は数少ない。アイリスもいつ殺されてしまうかわかりません。ですが、私が生きている限りはそんなことにはならないでしょう」
千夏は絶句している。私も少なからずショックを受けている。
「それに、こう言った迫害は人族だけでなく魔族、亜人などの場所でも起こっています」
千夏は顔を伏せた。私も少し俯きがちになってしまう。
(これは、この世界だから起こっていることではないわ。地球でだって、沢山の差別などがある。でも、こんな小さな子供を平気で殺すなんて…)
そんな事を考えていると、私の手を誰かが握ってきた。
そちらへ顔を向けると、
「お姉ちゃん、大丈夫?」
アイリスがこちらを心配してそんな事を言った。私はアイリスの頭を撫でながら、
「大丈夫よ、心配してくれてありがとう」
と微笑みながら言うと、安心したようでアイリスも笑った。
そんな様子を見ていた王妃様が、
「そこで、頼みがあるのです」
と言った。
「頼みですか?」
「ええ、大事な頼みが…」
どうやらここからが本題になりそうだ。
「私の命は、長くありません」
突然そんなことを言ってきた。
「長くないって、何でですか⁉︎」
と千夏が聞く。
「この身体は病に侵されているのです。今こうしているのも薬によるものです。そして、その薬も病を治すものではなく、身体を普段通りに動かすままのものなのです」
「回復魔法でどうにかならないんですか⁉︎」
千夏がそう言う。
「無理です。私の病は回復魔法で治せる段階をとうに過ぎています」
「そんなぁ…」
千夏はまた顔を伏せた。
「こんなことお願いするのは迷惑かと思いますが、私が死んだ後、アイリスを連れてここを逃げて欲しいのです」
「アイリスを連れて逃げる?」
王妃様はそんなことを言う。
「はい、私が死ねばもうアイリスを生かしておく必要がなくなるのです。実の姉妹であるあの子達も疎んでいるようですから…」
「そんな…自分達の妹なのに…」
千夏はショック受けている。自分にも妹がいるため共感出来ないのだろう。
「わかりました。だけど、どこに逃げれば良いのですか?」
私は了承する。アイリスを見捨てることは出来ない。
「今、メイド達と共に選定を行っています。一つの候補は南にある魔の樹海を通ることです。危険地帯ですが、追手を振り切るにはもってこいの場所だと思います。
ただ、上級の冒険者達はあそこで修行をするというのでそこを注意しなくてはなりませんが」
まだ、完全には決まっていないようだ。
「先程も言ったとおり、この世界では、差別や迫害がかなり横行しています。なので、どこかの村で暮らすなどといった事が難しいと思います。何処かにそういった人達が暮らす場所があれば良いのですが…」
王妃様も悩んでいるようだ。
大まかなこと決めた所で今日はお開きになった。
私と千夏はそれぞれの部屋に戻る。
今日はもう、寝ようかと思っていたら扉がノックされた。
(今はかなり夜更けになったというのに誰だろう?)
扉を開けると千夏が立っていた。
「一緒に寝ても良い?」
そんなことを言う。
「いいよ」
私は千夏を部屋に入れ鍵を閉める。
「どうしたの?」
と聞くと、
「うん、ちょっと一人でいるのが寂しくなって…」
と千夏は答えた。二人で揃ってベットに入る。
「冬子ちゃんは、アイリスちゃんのことどうするか決めたの?」
と聞いてきた。
「うん、王妃様にも言ったけど、私はアイリスと逃げるよ。どうせ、ここにいても元の世界に帰れるわけじゃないし。あの子を見捨てられないからね」
「……私もついて行っていい?」
千夏は遠慮がちに聞いてきた。
「もちろん!寧ろついて来ないつもりだったの?」
と聞くと千夏は鳩が豆鉄砲でもくらったような顔をした。
「アイリスが王妃様の部屋に行く前に言っていたでしょ。信用できる人を連れて行くって。千夏もアイリスに信用されてるんだよ。多分、千夏が行かないって言ったらアイリスもショック受けるんじゃないかな?」
というと、
「うぅ、冬子ちゃんずるいよ。そんなこと言われたら何が何でもついて行かなきゃじゃん」
「ふふ、それを狙ってるからね」
そう言って二人で笑いあった。
「強くならなきゃね?」
「そうね、ここで学べる事は何でも学んで、先に備えましょう。アイリスを守りたいからね」
そんなことを言いながら私達は眠りについた。
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