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END:Revise -剣士服の行方不明者と機械仕掛けの首謀者-  作者: 真冬 白雪
スフォルツァート
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第8話 すれ違いの所在【前編】

 __12月17日 午前9時




 ありきたりな高校生活も、一度ひとたびの休息期間を迎えようとしていたこの頃、私は気分転換も兼ねて、街に出かけることにした。


 休日という事もあり、いつにも増して、人が多くどこに行くにも人込みを避けながらの身動きを余儀なくされた。目まぐるしく移り変わる光景に目眩を起こしそうになる。


 「えーと、()()()に行くには このホームからだからか・・・・・・」


 私の口から《アキバ》という愛称が発せられるのはこれが初めてだろう。普段なら秋葉原と正確な名称で呼称する、ソレを今の私は別の呼び方をしていた。

 と、言うのも、()()()()()()()()原因せいで あろうことか、この私がゲーム機を買う手伝いをさせられそうになったからだ。


 (今となってはその話も、白紙になったのだけど・・・・・・)


 そこで、私は我に返った。 じゃあ、何でアキバに行くのかと____?


 下調べ? 初めての場所に行くのに欠かせないことだった。 勉強にだって予習がある様にそれは、当たり前で____


 でも、どうして? ____どうして、私は用の無い・・・・もとい、意味の無い行為にここまでの労力を費やしているのだろう?

 彼の為? それとも、別の何か?


 頭の中は多種多様な疑問が交差し、常に何かを考えていて、思考は既に飽和状態だった。


 駅のホームで立ち尽くしていると電車が来た。もちろん、【秋葉原方面】の電車だ。ブレーキをかけ、緩やかに減速し停まった、ソレに私は乗車した。

 車内は比較的すいており、私はドアのすぐ近くの席の一番端に座ることにした。


 ソファに腰かける様に背中を預けた電車の座席は向かい合う様に設置され、現在進行形で私の背後を都心の街並みが過ぎてゆく。

 顔を窓へ向け、私は今から行く、場所へと気持ちを向けた。


 「____こんなことしたって」


 不意に零れ落ちた本音と理解。


 「____少しだけ話しただけじゃない」


 それなのに____。 と、自分自身の心が続きを発しようとする。


 「____私は」


 数十分の間の沈黙と思考活動を経た後、意識を切り替え、電車を降りる。改札を流れる様に抜けると、視界には四方を取り囲む様にそびえ立つ、建物の数々が目に飛び込んできた。

 別段、物珍しいわけではなく、久々に来たことを今更ながら実感させられる。


 「相変わらず、ここはいつ来ても人が多いわね・・・・・・。 目眩しそう・・・」


 貧血気味な体をいたわりながらも、私は歩き出していた。

 ゲーム一本買いに来るだけでここまで精力が失われるのもどうかと思う。


 ネット注文は抽選制で確率的にはかなり低め。 そして、店頭での整理券配布型の抽選も同じく確率は1%にも満たないだろう。しかし、現地での抽選とシステム上での抽選には確率的差は同じでも、精神的な事において、ある種の制御装置があると言える。


 目に見えない抽選方式より、目に見える抽選方式の方が落選した際の精神メンタル的部分において、少なからずの差はあるはず。


 と、言うのが私の考えであって、もしもの時 ()()()にも諦めを強制できなくもないと思ったのだ。



 駅を出て少し歩くと、某アニメグッズ店やフィギュアやゲームを取り扱う、店が集う場所へと出ていた。ビルの壁に掛けられた、巨大な女の子の看板はさることながら、見渡す限り、この周辺一帯は二次元であふれていた。


 「なっ・・・ななな・・・・・・____」


 私は思わず顔を真っ赤にし、目線をずらした。


 それもそのはず、いくら絵だと言われても、こんな人通りの多い公衆の面前で水着姿になっている少女の絵が大きく張り出されていたのだ。肌色多めで一歩間違えれば、裸同然のソレに心拍数を上げる私とは正反対に行き交う人 《ヲタク?》は気にも留めず、店の中へと入ってゆく。

 

 (・・・・というか、本当にここであってるのよね)


 行きたくないという自身の心が都合の良い、疑問を生んだ。

 しかし、そんな疑問も明確に違うと言いきれてしまう自分がいた。


 「はぁ・・・」


 溜め息を吐き、面倒臭そうに歩き出し専門店(もくてきち)の中に足を踏み入れた。まず、先に見たのは優に7階もあるフロアの地図だった。1階と2階は書籍などを取り扱う本屋で3階はアニメグッズの専門店。4階と5階がCDとゲームソフトを取り扱っており、私の行くべき階でもあった。


 上りと下りが対になっていない、細めのエスカレーターを数回乗り継いだ後、4階に降り一度呼吸をして、フロアを見ることにした。


 フロア内はアニメの主題歌であろうCDが流されており、それだけでも少し、騒がしく思えた。エスカレーターと同様に棚と棚との間隔が狭く、すれ違うのも一苦労な商品棚を見て回っていると、ふと、視界に興味をそそるモノがあった。



 (なんだろう・・・・あのカーテン・・・・・・?)


 この時の私は何も知りませんでした。特に()()()には酷くうとい私には店の仕切りが何を意味し、どんなモノまで扱っているのかをあまり理解していませんでした。


 そして、数分後、私は己の無知を呪うのでした・・・・・・____。

 

_____________________________________



 「なっ____! なによ、これえええぇぇぇぇーーーーーーーー!!!???」



 声高らかに盛大に叫んでしまった私はその場に居た他の客の視線を一斉に浴びてしまった。

 急激に火照った体と荒い息遣いをたずさえて、私は元来た場所へと引き返そうとする。

 だが、私は思っている以上に動揺を隠せていなかったらしく、元の場所へと帰る道筋を完全に見失っていた。プシューっと体が熱を出し切った感覚がした。

 クラッとした。


 そう言えば、今朝から貧血気味だったのを忘れていた。そんな(からだ)にこの空間は毒の中でも猛毒だ。我ながら、詰めが甘いと言うかなんと言うか・・・・・・。


 下の方の商品を見るふりをして、体をやすませていると声をかけられた。



 「珍しい。 女の子がこんなとこに来るなんて、あなたよっぽどのヲタクさんですね? それに、百合ゆりの!」


 百合?


 ヲタクと間違われるのは仕方ないことだと思ったが最後の《百合》と言う発言は引っかかった。


 「百合ってなに?」


 まだ、相手の顔も見ていないというのに条件反射で聞き返していた。


 「こういうのに決まってるじゃないですか!」


 サッと顔の前に差し出されたスマホの画面。


 瞬きをし、瞳に写したそれは少女同士が顔を近づけ、唇を重ねているイラストだった。カァッ____と跳ね上がった気持ちのまま、私は口を開いた。


 「あなた、初対面の人になんてモノを見せてるのよ____! ・・・・って?」


 怒りを混じらせた声と共に振り返った私の目に移ったのは薄紫の瞳にピンク色のサイドテールをした少女の姿だった。


 「・・・・女の子・・・・・・? なんで、こんな所に・・・・・・?」


 「それ、さっき私があなたにも言いましたよ?」


 「えぇ、言ったわね。 じゃなくて! 何なのよ、さっきのは!?」


 「あーこれですか? 百合ですよ。 百合。 まぁ、簡単に言えば女性同士の恋愛ってとこですかね? あなたもこういうのが好きな____」


 「____」


 一瞬にして、その場が凍りついた。


 「わけないですねっ! はい!」


 「当たり前じゃない。 それに、そう言うのは今日初めて知ったんだから」


 「そうなんですか。 だったら、尚更なおさら聞きますけど、何でこんな所に居るんですか?」


 あなたにもその言葉を返すという発言を押し殺し、私はリストの下見だと話した。そして、ここに居るのも間違いだという事も付け加えた。


 「なるほどー、それなら、納得です。 あれは本当に入手困難ですからね・・・・・・友達の力を借りれば何とか・・・・」


 「え、それほんと!?」


 「期待を持たせちゃったなら、ごめんなさい・・・・今はどこいるか、分からなくて・・・・・・」


 急にうつむいた少女の顔は取り戻せない過去を見ているかのようだった。


 「さ、そんなことより、リストの事店員さんに聞きに行きましょう?」


 「あなたも、リストの抽選に参加するの?」


 「迷ってるんですけどね。 買ってもやらないかなーて・・・。 そうだ! もし、当たったら権利を上げますよ」


 「いいの?」


 「本当に必要としている人の元へ渡るのが一番じゃないですか?」


 楽し気に少女は笑う。


 私は彼女のペースに乗せられている気もしたが、今はそれはそれで悪い気はしなかった。

 ゆっくりと立ち上がり、少女の後をついて行く。視界の端々に移り込む、肌色を最小限にする為、少しだけ下を向いて歩いた。

 

 ドンッ____!


 その刹那、通路に1つのゲームソフトが落ちた。


 「きゃっ!」

 

 「うん?」


 少女は振り返り、私の目の前に落ちたソフトを拾い上げた。


 「どこから、落ちたんだろう? あれ、この絵 どこかで・・・・えーと、どれどれ イラストは【ふかさき くれひと】・・・・?」


 「深咲 暮人(みざき くれひと)


 手に持った少女のソフトを覗き込み、私は名前の部分の感じを読んだ。恐らく、これで間違いないだろう。


 「あぁ、そうだ。 やっぱり、どこかで見たと思ったんだ。 これ先輩が好きだったイラストレーターだ」


「先輩? はい、私にたまに絵を描いてくれたこともありました。 その時、先輩がこの名前を言ったんですよ。 懐かしいな、あの頃はいつまでも皆一緒にいようって言ったのにな」


 少女の顔は微笑んでいたものの今にも泣きだしそうな程に瞳に水滴を溜めていた。そんな、思い出の中で今でも存在している人の名を口にした少女を見ていた。


 「____」


 私は返す言葉も無く。ただ、じっと見つめることしか出来なかった。

 しばらくすると、少女は再び口を開いた。



 「____先輩。 名取先輩、あなたは今、どこに居るんですか。 あなたが居なくなった、後もあの人はあなたの事をずっと________」


 空気を壊してはいけない。 この感覚を壊してはいけない。


 そう思いながらも、私は言わずにはいられなかった。 だって、もしも彼女が思っている人が私の知るその人だった場合、この出会いは運命としか言いようが無かったからだ。


 「ねぇ、一つ聞いていい?」


 「何ですか?」


 「その、名取先輩ってもしかして、名取 絵人(なとり かいと)のこと?」


 「えっ? 何でその名前を____?」


 「えーっと・・・・・その人、数か月前から都心の病院で入院してるよ? ちなみに私が病院まで連れて行った・・・・・・」


 案の定の空気感が私を襲った。


 そうして____



 「ええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!! 名取先輩、生きてるんですか!? と、言うか生きてるなら何で連絡してこないんですか!?」


 (____ねぇ、名取くん。 あなた、この子とどんな別れ方したのよ・・・・・・? 明らかに死んだことになってるわよ・・・・? 行方不明って一言も言わないし・・・・・・・)



 苦笑いと申し訳ない気持ちがしばらくの間、私から消えることは無かった。


 

 

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