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END:Revise -剣士服の行方不明者と機械仕掛けの首謀者-  作者: 真冬 白雪
スフォルツァート
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第7話 イデアル・アブソリュート

__12月17日 午前9時 ノクターナル社_1階・受付__



 「申し訳ありませんが、事前のアポイントメント無しでの面談は出来かねます」


 受付を担当している一人の女性が淡々とマニュアルに書かれている対処法でこちらの要求を跳ね返した。

 もちろん、こう返されることは容易に想像できた。だが、俺には切り札とも呼べる《話術》で彼女の考え、そして、思考に別の角度から切り返した。


 「そうですか。 ですが、こちらの話も聞かないでマニュアル通りに追い返すのはどうかと思いますよ?」

 

 「どういう意味です?」


 女性は不機嫌そうに声を返す。


 「確かに、クレームなど、一方的な押し付けにはその対処法であっていると思います。 しかし、今のこの状況はどうでしょうか? 私はただ、この会社の者に話があると言ったまでです」


 「だから、アポイントメント無しでは、そう言った内部に直接、干渉するような行為を容認できないだけです」


 流石はノクターナルといった所だろうか。大手企業でありながら、その細かな部分の詳細は一切なし。ゲーム雑誌にさえも、新商品の説明や今後のアップデート情報しか載っておらず、企業内の写真は一枚も掲載されたことが無い。


 「誰も干渉しようだなんて言ってませんよ? 私はただ、()()()()と言っただけっでです。 一個人と会話するだけで、ノクターナル社は揺らぐんですか? ましてや、その人間と話しをするだけで、何かかが変わるとお思いで?」


 畳みかける様に俺は受付の女性を押してゆく。


 「仮に私がその者と話をすると、何か問題でも?」


 「それは・・・・・・分かりませんが・・・ですが・・・・・・規則は規則で____」


 「マニュアル、規則、決まり事。 あなたは誰かが与えた、役目の中で生きているんですね。 何かをするにも、誰かの決めた(ルール)の中だけで制限を破らない様に行動する人間だ。 そんなの、人形とさほど変わりませんよ」


 饒舌じょうぜつ無情に言い放つ。徐々に崩れかけている、彼女の芯を折るのは容易だった。何故なら、彼女の攻略は手に取る様に簡単で歯ごたえが無かったのだから。


 ____だから、これから行われるであろう()()との会話にはこの上ない、高揚感があった。


 「・・・・・・人形・・・・。 でも、私はここの仕事を任せられている以上は・・・・・・」


 「()()()()()()()()()()()()。 ____と、伝えてください。 そうすればきっと、あなたはこれ以上の思考を使わなくて済むと思いますから」


 俺は、あざ笑うかのように言葉を告げた。


 最初からそうすれば良かったと思うかもしれない。だが、これはあくまで暇つぶし。 言葉遊びの予行練習(チュートリアル)


 左耳に着けたインカムに手を伸ばし、マイクを口元に寄せた女性は焦りを感じさせる形相で通信を繋いだ。俺は少し離れた位置から、その様子を見つつ、ノクターナル社の内部構造に目をやっていた。

 

 鏡の様に反射する白い床がフロア一面に広がり、圧倒的な清潔感と近未来を感じさせるシステム設備。どれを取っても、時代の最先端を担っているここは、最早、異世界と言っても過言ではなかった。


 「はい。 それでは、通します。 くれぐれも、お気を付けください」


 耳に届いたのは俺の入行許可が下りたことを思案させる言葉遣いと面談相手への助言だった。


 「あの・・・・許可が下りましたので・・・・・・」


 「そうですか。 なら、このまま目的を果たさせてもらいますよ」


 「え・・・? 何を____」


 「安心してください。 私はただ、話をしに来ただけですから」


 そう言うと、俺は受付から向かって右側に見えたエレベーターに向かった。その際、受付の女性が足早に駆け寄って来た。 「まだ何か、規則があるんですか?」と尋ねようとしたが、その行動はつげんよりも先に女性が俺に何かを手渡した。


 「これは?」


 「鍵です。 と言っても、《システム的信号 感知型・アンロックキー》、なんですけど。 部屋の前でそれをかざせば、自動的に扉は開きますのでお忘れなく。 ・・・少し、動揺していたみたいで渡しそびれちゃいました・・・・・・」


 「なるほど。 システムの最終防衛はこれですか。 ありがとうございます。 それと、今のあなたには、ちゃんと、血が通っている様に見えましたよ」


 「・・・・? それって・・・・どういう意味ですか?」


 「さぁ、自分で考えてみてください。 だって、今のあなたには人間 ゆえに、ちゃんと考える力があるんですから」


 などと、最後の最後に一連の会話の清算を終えると、俺は気持ちを切り替え再び歩みを再開した。靴底に響く、床の音。真っ直ぐに進んだその先にある、エレベーターの前に立った。上りと下りの押しボタンは見当たらない。むしろ、ここでソレがあったのだとすれば期待は大きく外れ、想像を180°変えていたかもしれない。


 数秒経ってから、現れたのは空中に浮かんだ透明なウィンドウだった。PCのキーボードの盤面をそのまま反映させた感じのそれには、1F、2F、3F____とフロアを示す表記がされており、その数、実に数百といった所だろうか。


 俺は指先で指定のフロアの数字をタッチした。すると、跳ねる様なタッチ音と共にウィンドウは承認をしたのかスゥ____っと風の流れる様に消え、目の前のドアが開いた。

 踏み入れたエレベーターの窓際は全面硝子ガラス張りで街の景色が一望できるようになっていた。徐々に徐々に階を重ねる、床はそのスピードを一定に保ちつつも、心地よい揺れを生じさせ、俺は比較的、落ち着いた精神状態で都心を眺めていた。


 「____たった2年でここまで進化(かわ)るのか」


 高層ビルの連なる街並み。


 アスファルトを走る自動車の群れ。


 経済バランスを不安定にしたまま、この国は成長と一途を辿る。その末にどんな未来(けつまつ)が待っているかも考えないで____。

 きっと、この街の何処かでは多額の富が動き、不正な売買が行われているのだろうと、考えてみたりした。あぁ、何て醜くて代わり映えしないのだろうか?


 ____だって、それは俺が生きたもう1つの世界でも行われていたことなのだから。


 今度は景色ではなく硝子ガラス自体を見た。ある意味、鏡の役目を果たす ソレに映る自分自身の瞳が黒く揺れる。


 黒、赤、青と順番に染め変えた瞳を確認した後、タイミングよくエレベーターは停まり目的のフロアに着いていた。


 通路に出ると、裸眼でも認識で来る、ナビゲーションが表示される。


 「だから、彼女は俺に部屋の場所までは伝えなかったのか」


 小さな妖精の後を追う様にして、俺は歩みを続けていた。すれ違うモノは一人もおらず、ただ、己の緊張が高まるばかりだった。面談と言うより、面接会場に向かう感覚だ。

 そうして、意識が本命からズレ始めていた時、ナビゲーションは目的地到着のマークを表示していた。目先には何の変哲もない、扉があった。しかし、ドアノブや引き戸と言った手動(ふつう)のソレは無く、一見すれば鍵穴の潰された扉の前に立たされている様に手の内用の無い、状況の様に思えた。


 「____」


 俺は1階の受付で渡された、解錠手段(アンロックキー)をジャケットの内ポケットから取り出すと、開かずの扉の前へ かざす様に近づけた。


 すると、純白だった扉の中心から外側に向けて無数の電子回路の様な光が現れた。血液を通す血管の様に回路の中を通過する光が満たされた後、扉は認証の合図(効果音)を鳴らし、開閉をうながす。

 縦、中心に亀裂を入れ、両端にそれぞれ開かれた扉の先に人を見た。


 窓辺越しに設備(おか)れたデスクは一台のノートパソコンとモニターが3つ。その後ろ側、一枚の大きな硝子ガラス張りから街の景色を見ている1人の人物。

 

 (俺が部屋に入ったのは気付いているはずだ____。 だが、なんだ? この違和感は____)


 その人物は今もなお、現在進行形で街を観続けている。


 気づいていないとは言い難い、空気が流れ始めた頃、そいつは一言だけ言葉を発した。




 ________始めまして。 いや、久しぶりと言った方が良いかな。 ________【名取 絵人(なとり かいと)】くん




 その瞬間とき、確信した。



 この男は俺の絶対的な敵に為りえる存在だと。


 振り返った、敵の視線。


 一歩、後ろへ退こうとす体を無理やり押しとどめる。


 こちらも、それなりの能力ちから保有()っている。





 ________名を知られていましたか。 ですが、そんなことは関係ありません。 そうでしょ________【輝崎 秀一(こうざき しゅういち)】さん




 __悪魔と魔王。


 二人の立ち位置はそれ以上でもそれ以下でもなく、ただ、純粋な闇がこの再開を祝福しているように思えた。

 盤上の駒でありながら、決して誰かの手の内では踊らない、《魔》なるモノ。多くの犠牲と天災にも等しい、事を引き起こす絶対悪。

 それが、この場で互いを認識する。



 もちろん、それはあくまで例えの話。 たかが、人間がそれほどの事を起こすことは出来ない。しかし、人の内に秘めし考えは時に神さえ凌駕りょうがする。


 

 そう、輝崎が作ったゲーム_ 《イデアル・アブソリュート》だって一種の神の創造物。仮に、奴のソフトがソフト以上の価値を持ち合わせているのなら俺は眼前の男を創造者と言わざるをえない。

 病室のテレビで見た世界は紛れもなく、セレクトリアであり、俺の目指した最終地点。


 嬉しくも儚い、複雑な心情を隆起りゅうきさせたソレを再現した者。


 ____もう一度が、あるならこれほどまでに喜ばしいことはない。

 




 だが、それ以前に俺の内情は正反対だった。



 ________何故、俺の許しを得ず、あの世界に干渉した?



 最初の相違はこれだった。

 だからこそ、奴の持ち得る考えには全て企みがあり、結末ありきの想定未来が用意されている。

 リストには大方、何か細工がほどこされている。考えるもなかった。


 心理戦は既に始まっている。


 言葉よりも、ものを言うのは行動だ。仕草・態度・口調、そのどれもが隙になり、絶対の防御になる。


 心に宿した、剣を抜いた俺は初撃の構えも行わず、ただ、真っ直ぐに室内の床に一歩を踏み出した。

 


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