表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/52

7

 魔物ではない狐には、ビークたちがただの鳥……(えさ)にしか見えていないようだ。


 突然(あらわ)(せま)り来る狐に、オレの枝の上のビークとロッシュは反応できず固まっている。その間にも狐は素早(すばや)くオレの幹を駆け上ろうとしていた。


 "ふたりとも、逃げて!"


 オレが叫ぶと、慌てて二羽が羽ばたこうとする。

「ピルッ!」

 飛び立つのが一瞬遅れたロッシュに、ビークが悲鳴を上げる。

 オレの枝から離れようとしたロッシュの脚に、ジャンプした狐の前脚がかかっていた。

 ロッシュの身体が狐によって地面に引きずり下ろされる。


 "ロッシュ……!"

 オレもまた悲鳴を上げた。

 ロッシュは狐の前脚から逃れようと必死に(もが)いている。


 ……ああ、せめてオレに手があれば、狐に石でも投げるのに、今のオレには何も……!

 オレはハッとした。


 "ビーク! オレの実を、あの狐に向かって落として!"


 ビークは、オレの言わんとしていることがすぐ分かったらしい。

 急いでオレの枝まで戻ると、いくつか実のついた細い小枝をブチブチと千切(ちぎ)って(くわ)えた。

 そのまますぐに、狐の顔スレスレまで飛び降りるように滑空する。ロッシュに食らいつこうとしていた狐の鼻先へ見せつけるように小枝を落としてから、また空へと舞い上がった。


「ウゥッ?」

 突然落ちてきた甘い香りの小枝に、狐の意識が()らされる。

 その瞬間を逃さず、ロッシュが這々(ほうほう)(てい)で狐の前脚から逃げ出した。


「……フンフン」


 幸いなことに、オレの実は狐の関心を大いに引けたようだ。逃げ出したロッシュを追わず、オレの実の匂いを()いでいる。

 警戒して高い空へ舞い上がったままのビークとロッシュ、そしてオレが見守る中、狐はオレの実に(かじ)り付く。


 食べ終えた狐に毒が回って動かなくなるまで、オレたちは固唾(かたず)を飲んで見守っていた。



「チチッ!寿命が縮んだチッ」

 "本当にね……"


 オレの根元に転がった狐の死体を眺め、まだどこか(おび)えたようにロッシュが羽を(すぼ)めている。オレもため息をついて同意した。

 まさか襲ってくる動物がいるなんて思いもしなかった。


「喋る樹の実はすごいピルッ。狐をやっつけたピルッ!」

 一方、ビークはキラキラした目でオレの幹を見上げる。


 "オレは何もしてないよ。ビークが頑張ってくれたから、ロッシュを助けられたんだもの"

 情けないけど、樹のオレには本当に何も出来なかった。

 ビークがこの場にいてくれなかったらと思うとゾッとする。


 ……これからはみんなと話す時、もっと周囲に警戒しなきゃ……。そうだ!


 "……これからはさ、オレのところへ遊びに来たら、実をいくつかオレの周りに落としてくれる?そうすれば、周囲の動物への罠代わりになるかもしれない"

 ビークとロッシュが顔を見合わせる。

「それいいピルッ」

「それなら安心してここでお話できるチッ」

 ビークたちはパタパタと羽を羽ばたかせて賛同してくれた。


 遊びに来てくれる魔物たちのためにも、オレはみんなが安心して過ごせる樹にならないとなぁ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ