7
魔物ではない狐には、ビークたちがただの鳥……餌にしか見えていないようだ。
突然現れ迫り来る狐に、オレの枝の上のビークとロッシュは反応できず固まっている。その間にも狐は素早くオレの幹を駆け上ろうとしていた。
"ふたりとも、逃げて!"
オレが叫ぶと、慌てて二羽が羽ばたこうとする。
「ピルッ!」
飛び立つのが一瞬遅れたロッシュに、ビークが悲鳴を上げる。
オレの枝から離れようとしたロッシュの脚に、ジャンプした狐の前脚がかかっていた。
ロッシュの身体が狐によって地面に引きずり下ろされる。
"ロッシュ……!"
オレもまた悲鳴を上げた。
ロッシュは狐の前脚から逃れようと必死に踠いている。
……ああ、せめてオレに手があれば、狐に石でも投げるのに、今のオレには何も……!
オレはハッとした。
"ビーク! オレの実を、あの狐に向かって落として!"
ビークは、オレの言わんとしていることがすぐ分かったらしい。
急いでオレの枝まで戻ると、いくつか実のついた細い小枝をブチブチと千切って咥えた。
そのまますぐに、狐の顔スレスレまで飛び降りるように滑空する。ロッシュに食らいつこうとしていた狐の鼻先へ見せつけるように小枝を落としてから、また空へと舞い上がった。
「ウゥッ?」
突然落ちてきた甘い香りの小枝に、狐の意識が逸らされる。
その瞬間を逃さず、ロッシュが這々の体で狐の前脚から逃げ出した。
「……フンフン」
幸いなことに、オレの実は狐の関心を大いに引けたようだ。逃げ出したロッシュを追わず、オレの実の匂いを嗅いでいる。
警戒して高い空へ舞い上がったままのビークとロッシュ、そしてオレが見守る中、狐はオレの実に齧り付く。
食べ終えた狐に毒が回って動かなくなるまで、オレたちは固唾を飲んで見守っていた。
「チチッ!寿命が縮んだチッ」
"本当にね……"
オレの根元に転がった狐の死体を眺め、まだどこか怯えたようにロッシュが羽を窄めている。オレもため息をついて同意した。
まさか襲ってくる動物がいるなんて思いもしなかった。
「喋る樹の実はすごいピルッ。狐をやっつけたピルッ!」
一方、ビークはキラキラした目でオレの幹を見上げる。
"オレは何もしてないよ。ビークが頑張ってくれたから、ロッシュを助けられたんだもの"
情けないけど、樹のオレには本当に何も出来なかった。
ビークがこの場にいてくれなかったらと思うとゾッとする。
……これからはみんなと話す時、もっと周囲に警戒しなきゃ……。そうだ!
"……これからはさ、オレのところへ遊びに来たら、実をいくつかオレの周りに落としてくれる?そうすれば、周囲の動物への罠代わりになるかもしれない"
ビークとロッシュが顔を見合わせる。
「それいいピルッ」
「それなら安心してここでお話できるチッ」
ビークたちはパタパタと羽を羽ばたかせて賛同してくれた。
遊びに来てくれる魔物たちのためにも、オレはみんなが安心して過ごせる樹にならないとなぁ。