6
ラスファたちと知り合って以来、彼らはたびたび遊びに来てくれるようになった。時には彼らの仲間も連れてきてくれる。
彼らが連れてくるのは鳥の魔物たちで、種類はまちまち。
でもみんな、初めは喋る樹であるオレに驚くけれど、すぐに面白い樹の魔物だと受け入れてくれた。陽気で気のいい魔物たちばかりだ。
それに、鳥の魔物はあちこちを飛んで見て回っているし好奇心が旺盛で話好きだから、情報通な者が多い。
最近では「喋る樹ってお前?」と噂を聞いてわざわざやってくる者までいるくらいだ。
今までずっとひとりぼっちだった分、オレの枝に止まった彼らがする明るいお喋りは、聞いているだけでもとても楽しい。……魔物たち以外には、樹に止まった鳥がただ囀ってるようにしか見えないだろうけど。
ちなみに、ビークが話していた人間の土地から避難してくる魔物たちの件。
ラスファは偵察に行ってみたそうだ。ビークが聞いた噂どおり、国境付近の山や森に人間の兵士が多くいたらしい。何かを探しているようだった、とのこと。
次の面会のときに念の為、魔王へ報告したほうが良さそうだ、と言っていた。
今日も空から複数の鳥の鳴き声とパタパタという羽ばたきが聞こえ、オレは意識を上へ向けた。飛んでいたのは二羽の鳥。
"いらっしゃい、ビーク!"
顔馴染みとなった鳥の魔物にオレが声をかけると、ビークは飛びながらピルルッと鳴いて返事をした。
「こんにちはピルッ。遊びに来たピルッ」
トトッと慣れた様子でビークがオレの枝に止まる。
パタパタと軽い羽音がして、初めて見る鳥がその横に並んだ。
ビークと同じくらいの小さな鳥だが、毛並みがふわっとしていてシルエットがビークより丸っこい。
全体的に灰色だけど、嘴と羽の先だけが白くて、そこだけ目立って見える。ビークもそうだけど、あまり魔物のようには見えない。
「喋る樹に紹介するピルッ。ビークの友達ピルッ」
ビークが言うと、隣の鳥がそれに答えるようにチチッと鳴く。
「初めましてチッ。ボクはロッシュ。喋る樹、よろしくチッ」
オレの幹を見上げ、小首を傾げて挨拶する姿が可愛らしい。
"初めまして、ロッシュ。来てくれてありがとう。こちらこそよろしくね"
オレは歓迎の意を表す。ラスファやビークのおかげで動けないにも関わらず、オレの交友関係は少しずつ広がっている。ありがたい話だ。
"ロッシュはこの辺りに住んでるの?"
「少し離れてるチッ。ボクは人間の土地に住んでるチッ」
何気なく聞いてみたものの、ロッシュの答えに気を引かれる。今まで遊びに来た鳥の魔物はみんな魔族領で暮らしている者たちだった。
人間の土地……オレがかつて生きていた場所。今はどうなってるんだろう。
「人間のいる南の土地のほうが、餌になる食べ物が多いピルッ。魔族の北の土地は、良い餌は少ないピルッ」
"そっか。人間の土地は人間に襲われる可能性があって危ないけど、食べ物は多い。魔族の土地は人間に襲われない分、安全だけど、食べ物が少ないってことだね……"
そういえば、三番めの兄から聞いたことがある。
魔族領はそのほとんどが寒冷地で穀物も育ちづらい。魔族の人口は人間に比べると圧倒的に少ないけれど、それは食糧の少なさが原因ではないかとも言われているらしい。
「人間たちは、ボクの一族を普通の鳥と思ってるから襲ってこないチッ。だから住みやすいチッ。……でもこの前の夏は、人間の土地、雨が多くて大変だったチッ。大きな湖と川が溢れて、食べ物探すの苦労したチッ」
ロッシュは小さな丸い肩を竦めてみせた。
……ん? ああっ、その話、オレも知ってる!
ロッシュの話に、オレは心の中でポンッと手を打った。
オレが死ぬ半年ほど前……その夏は大雨続きで。オレの国では、一番大きな湖と川が氾濫して大騒ぎになったのを覚えてる。
ということは、じゃあオレって死んですぐ樹に転生したってことなのか……。
転生したと気づいても、自分が死んでからどれくらい時間が経っているのかわからなかった。ひょっとしたら、死んでからもう何十年と経っているかもしれない。前世のオレの周囲の人たちはすでに、みんないなくなっている可能性もある。怖くて確認できなかったけど……。
……よかった。オレひとりが違う時間にいるわけじゃないんだ。
樹の魔物になってしまった今は、もう会えないけれど。どこかでみんなが元気に暮らしているはずだという事実は、オレを安心させた。
そんな風に、ビークたちと賑やかに話をしていた最中。
「ギャウッ!」
突如、威嚇するような動物の声がすぐそばで聞こえてハッとする。
話に夢中でオレたちは周囲に無頓着だった。その隙を狙っていつの間にか忍び寄り、オレたち目がけて駆けてくる狐がいた。
……しまった! 狐の狙いはビークたちだ!