土の魔法師 土の魔法編
目的地の演習場はロシュの通う学校内に位置していた。
街の中心地から少し離れた場所にある学校であった。
西洋風の堅牢さがある建物で、校門の先には校舎に続く石畳の道が広く伸びている。
平地が学校の土地の多くを占める場所であったため、演習場の広さと数においては国内最大都市にある学校と大差ないレベルであった。
存在感のある石畳の道の先にある校舎を囲むように様々な施設が並んでいた。
演習場は敷地内に大小様々なものが5つ存在し、屋内のものもあれば屋外のものもあり、魔法の用途に応じてより実践に近い形で練習することができるようだ。
校内は、休日ということもあり生徒の影は疎らであった。
そのため特に誰かに会うということもなく目的の演習場へたどり着いた。
目的の演習場は、屋外式のもので身長より少し高い位の柵が二重に張り廻らされていて、木製の柵であったが魔術刻印がしっかりと刻まれており十分な強度と靭性があるように思われた。
「自分ももう少し実力があればな」
そんなふうにロシュが自嘲気味に演習場の地面に触れる。
演習場の地面は土属性の魔法も使いやすいようにであろうか舗装されず土のままであった。
ロシュ曰く、国内トップクラスの土属性の魔法師でもない限り、土の地面の上でないと魔法を発動しにくいらしい。
一般に、魔法で干渉する対象との距離が遠くなるほど魔法師が干渉するのが難しくなるといわれているからであろう。
ただ、自嘲気味なロシュであるが地面が岩などで多少荒れていたとしても問題なく魔法を使えるらしく、一般レベルは軽く超えているのだろう。
「そういえば、ロシュは魔法でどこまでのことが出来る?」
思い出したようにスイレンが尋ねる。
「土に干渉して自在に形を変えたり、形を作ったり…塊を飛ばしたりは流石に無理かな。」
思い出しながら、確かめながら答えるロシュ。
ロシュの魔法師としての姿をある程度把握出来たのか、スイレンは調査の準備に取り掛かった。
調査の準備が終わったのか、スイレンが口を開いた。
「演習場にいた時間についてのことは書類で把握しているから、実際に魔法を見せてくれる?」
その問いに、ロシュが腕輪に目をやったのに気づいたのか続けてスイレンが、
「万が一のことがあればこれを使うから」
やや自信ありげに、お札というよりは呪符というべきものをひらひらとさせていた。
半分安心、半分呆れた顔だったロシュだが大人しく魔法の準備を始めた。
使う魔法は一番得意とする、ゴーレムの作成。
ロシュはいつもと変わらぬように魔法の完了に向けて、魔法を一つずつ紡いでゆく。
紡ぐべき糸がロシュには見えるのであろうか、
腕輪の影響を受けることなく順調に進んでいるようだ。
集中するために目を閉じていたロシュが何か感覚を掴んだのか目を開く。
地面が揺らぐ感触が周囲に広がる。
「繋がった、」
そう言うと、顔を少しあげたロシュの視線の先に、土煙の中に、身長の3倍はあるようなゴーレムが立っていた。
どうやらロシュはゴーレムが完成すると、ゴーレムが自身の体の延長にあるように感じるのだろう。
「見事」
スイレンがそう短く言ったのを確認して、ロシュはゴーレムを土へと戻した。
スイレンは満足げにロシュを見つめていたがロシュがそれに気づくことはなかった。 (続)