土の魔法師 〜街へ〜
街へ向かう列車の中、ロシュは考え事をしていた。
先ほどスイレンに問われた、代償によっていつ使えなくなるか分からない魔法を使い続けるかという質問だ。
結果として、答えることができなかった訳であるが答えに迷ったのではなく、むしろ答えがはっきりと決まり過ぎていたのだ。
しかし、そう問うた時のスイレンのあまりに真剣な顔にはっきりと答えられなかったのである。
「自分には、魔法しかないから…」
思わず心の声が漏れ出してしまったが、何か書き物をしているスイレンには聞こえていないのか聞いていないのか、とにかく気にした様子はなかった。
街へ到着すると、スイレンは腕輪とロシュにはよく見覚えのある小さな破片を取り出した。
「これは?」
ロシュが不思議そうに尋ねたのは無理もない。
1つはあまり馴染みがない物、もう1つはあまりに馴染みがある物だからである。
「とりあえず、その腕輪をはめてください」
そう促されるままに腕輪をはめるロシュ。
一見するとただの腕輪のようではある。
「それから、これはご存知の通り」
「いつも使っていた触媒?」
「調査で必要かもしれないと、報告書と一緒に送られてきた物です。」
ちなみに、とスイレンは少し厳しい目つきになって、
「仮にその触媒を使って魔法で逃げようとしても無駄なので」
もとよりその気はないのだが、気になったのでロシュは尋ねてみた
「この腕輪にはどんな効果が?」
「あまり詳しくは言えませんが、こちらの許可がない状態で魔法を使えないようにする物です。もちろん調査の終わりには触媒の回収とともに外しますが。」
簡単にいうと魔封じのような物らしい。
魔法を使えないと言っていた人間がこんな物を使いこなせるのかと疑問に思ったが、スイレンが歩き始めたのでまた別の機会に聞くこととして後に続いた。
この街は、花の楽園からは列車でも比較的近い位置にあるがスイレンはこの方面へあまり遠出をしないのか興味深そうにあたりを見渡していた。
西洋風の建物が美しく並び、少し中心部から外れると広大な畑が広がる場所であった。
魔法師にとっては名門ともいえる学校も幾つか存在し、学術都市と言わないまでもそれなりにレベルの高い街である。
ロシュもそんな名門と呼ばれる学校の生徒であった。
「この街は比較的魔法師が多いようですが?」
スイレンは、そう不思議そうに疑問を発した。
スイレンがそう疑問に思うのも不思議なことではない。
この世界では生まれた時点で魔法が使えるか否かがある程度決まる。
ある程度というのは、幼い頃から魔法漬けの生活を送れば才能が花開くこともあるからだ。
そして割合としては、国によって多少違いがあるがおよそ半々くらいなのである。
魔法を羨ましがる者にとってはその半分に入れただけで勝ち組だと話す者も少なくない。
しかし、魔法の制約を含めて考えれば魔法師と魔法師でない者の間にあまり違いはないとされる。
したがって、魔法師もそうでない者も学校は基本的に同じであり、それぞれの適性に応じてクラス分けがなされるため名門の学校に通う者全てが優れていないという側面もある。
また、魔法師はどうしても魔法を使うことができる時間が限られるため魔法師の場合には飛び級も認められている。
そして、この街のように近郊に農園が広がる街では農村部の影響により魔法師が多くなりやすい。
というのも、生存の為の必要性からか生まれながらの魔法師が多いことに加えて、後天的に才能を得る者も多いからである。
特に水や土、風の魔法を使う者が多く、
まれに鏡を使った魔法を自在に操る者もいるという。
そんなスイレンの疑問が解決されると、二人は事件の日ロシュが篭っていたという演習室へと向かった。 (続)